第3話 C

 2025年、イギリスとフランスの関係は劣悪なものとなっていた。

 4月、東ベルリンパリに浸透していたイギリス秘密情報部の協力者、サイラス・グッドマンが射殺された。秘密情報部パリ代表部のスコット・コークはロンドンに呼び戻され、パリでの協力者暗殺は、パリの殺し屋集団ティーグル(フランス語で虎の意味)のボス、ティボー・アルダンの命令によるものだと聞かされる。スコットは秘密情報部長官から解雇を通知されて酒浸りのだらしない男となり、カフェのマスターとして再就職し、そこで働くアルバイトのアンナ・カミュと接触して恋仲となる。しかし、スコットは食料品店の店主を酔った勢いで殴ってしまい、警察に逮捕される。


 5月、釈放されたスコットはアンナと再会し、その後、犯罪者の生活再建支援を行う男から接触を受ける。その男はパリの協力者であり、スコットは秘密情報部幹部のソル・シェイラの自宅に向かい、そこで長官のケビン・カーと接触する。

 ケビンからティボーの排除を命令され解雇されたように偽装していたスコットは、その情報を知ったパリの諜報部が自分を二重スパイにしようとしていることを伝え、ケビンはパリに渡り、ティボーの右腕ダミアンと接触するように命令する。ケビンは、ティボーと対立していたダミアンを利用して、ティボーを二重スパイとして告発させようとしていた。


 スコットは当初、飛行機を使おうとしたが特急ユーロスターを用いることにした。

 ユーロスターはドーバー海峡を挟んだロンドン~パリ間を約2時間15分で結んでおり、1日最大18本も運行している。自身の都合に合わせて早朝から夜遅くまでスケジュールを組めるのが魅力だ。

 飛行機の場合、街から空港までの移動や出発までの待ち時間など、何かと手間も時間も費用もかかる。しかしユーロスターを使えば街の中心部にある鉄道駅~鉄道駅への移動になるから、便利で手軽なうえに、車窓を流れるイギリスやフランスの美しい田園風景を楽しみながら移動にかける所要時間も短縮できる。

 途中に通過する海底のユーロトンネルも、時速160kmのスピードであっという間に過ぎていった。

 パリに渡ったスコットはダミアンと接触して、彼から尋問を受ける。スコットは「パリに二重スパイがいて、情報をロンドンに流している」と仄めかし、ダミアンは彼から得た情報を基に調査を進め、ティボーの関与を疑うようになる。ダミアンの疑念が高まった頃、出張先から戻ったティボーはスコットとダミアンを拘束するが、ダミアンが事前にティーグルの古参幹部たちに密告していたため、逆にティボーが拘束されて査問会にかけられることになる。 

「Merde!(メ-ルド!)」

 ティボーが「畜生!」と苦虫を潰した。

  

 査問会の場でダミアンはティボーを弾劾し、スコットからの情報を基に、イギリスが国外の銀行に送金した現金をティボーが引き出していたことを公表する。これに対し、ティホーの弁護士は証人としてアンナを呼び出す。党員交流の一環でパリを訪れていたアンナは、弁護士から尋問を受ける。そこで彼女は、スコットが「面識がない」と話していたソルから現金が振り込まれていたことなどを話してしまい、スコットがイギリスのスパイであることが露見してしまう。スコットはアンナを助けるために作戦を白状してしまい、ティボーは無罪となり、ダミアンは出世欲からスパイの策に乗せられたとして処刑が決まる。

 ティボーの腹心、トーマ・アレジはダミアンの背後に立ち、処刑スタイルと呼ばれる後頭部を銃で撃つ方法で処刑した。


 スコットとアンナはスパイ容疑で逮捕されるが、その日の夜にティボーによって助け出される。ティボーの用意した車に乗り込み、ソルが待つロンドンに向かう途中、スコットは作戦の真相を悟りアンナに伝える。ティボーはイギリスの協力者であり、その事実に気付き始めていたダミアンを排除することが目的だったこと、今後ティボーに疑いの目が向けられないように、彼が罠にはめられたことを演出するために偽の作戦を命令され、アンナもそのために利用されたことを語る。

 アンナは非情な策を非難するが、スコットは「スパイはこういう汚い仕事だ」と反論する。協力者の手引きで2人はロンドンの手前で警備兵に見つかってしまい、アンナが射殺される。

 それを見たスコットは車を降りて彼女の遺体の前に立ち尽くし、同じように警備兵に射殺される。

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