第124話 工場の戦い2
工場の中央で、モネア一人だけが静かに佇み、籠手のように装備していた盾を持ち替える。
その様子を見たツアムが遮蔽物にした木箱の裏から狙いを定める。すると、モネアは右手に持っていた盾をおもむろに大きく上下に振った。
ダン! ダン!
ツアムの撃った電撃弾“青”は、モネアが伸ばした盾によって阻まれた。ツアムが驚いて目を見開く。モネアが持っていた小さな盾は、瞬時にして全身を隠せる大きな盾へと長く伸びた。
可変式の盾。盾使いのモネアという通り名の由来か。
ツアムの隠れている場所が木箱の裏とわかったモネアは、盾の裏でほくそ笑みながら手に持っている銃を腰に下げられている拳銃の一つと持ち替える。そして新しく手にしたボーチャードピストルを盾の上へ向け、僅かに顔を出してツアムの隠れている場所までの距離を測り、銃口の角度を調整して発射した。
ドン!
およそ拳銃とは思えない重たい銃声を響かせて赤い弾が撃たれた。
通常の銃弾と違って速度が極めて遅く、さらに大きな放物線を描いてツアムの方へ飛んでいく。それはまるで、山なりにボールを投げたようだった。
赤い弾を視認したツアムは、イヤな予感がして木箱から飛び出した。赤い弾が木箱の裏に着弾した瞬間、大きな爆発音と共に火の手が上がる。爆風に煽られ、ツアムは床に倒れ込んだ。ナナトが心配して大声を上げる。
「ツアムさん!」
すぐさまツアムは立ち上がり、目の前にあった水瓶の裏に身を隠す。モネアの部下たちが一斉にツアムへと援護射撃を開始した。ツアムのズボンを弾丸が掠めたが、なんとか被弾せずにツアムは移動しきる。
ナナトが応戦し、モネアたちの部下へ射撃した。だが部下たちも自分と同じように遮蔽物に身を隠し、隙を見せない。
爆発弾。驚いただろう?
モネアはボーチャードピストルの銃口から立ち上る煙を吹きながら笑みを浮かべた。特別な薬莢と弾薬で作られたこの弾は非常に高価ではあるものの、今のように隠れた相手を燻り出すのに強力な効果を発揮する。最先端の貴重な情報を入手し、希少な武器弾丸を仕入れることができるのも金の力の賜物だ。そしてその弾をどこの誰ともわからぬ女、子供相手の戦闘に惜しみなく使うのも、修羅場をくぐり抜けてきたモネアの経験からくる判断によるものだった。
どんな相手だろうと銃口を向けてくる以上は油断するなどもってのほか。命を懸けた戦いに出し惜しみするようではこの世界では半年と生きられない。
モネアが撃った奇妙な弾を見たナナトは、急いで屈み移動した。水瓶からパレット、吊るされた皮から工作機へと遮蔽物を変えてモネアに近付き、モネアの斜め十メートルぐらいからリボルバー・ライフルを向ける。
ダン! ダン! ダン!
構えられた盾の斜めからモネアの体に向けて撃ち込んだつもりだったが、ナナトの移動する姿を目ざとく見ていたモネアはすぐさま盾をナナトの正面に向け、全弾を盾で受け止めた。
襲撃失敗。
しかしナナトには勝算があった。
さっきの爆発した赤い弾はとても遅く、軌道が山なりになるものだ。放物線を描く弾は目標に到達するまで時間がかかるので、仮に撃たれたとしても即座にその場を離れれば直撃を避けられる。
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