第23話 宝石泥棒
五分ほど歩くと、ナナトはほのかに洞窟の奥に明るみを感じた。それはまるで夜明け前の東の空が白み始めているかのような薄い明かりだ。進むごとに奥の明るみは強くなり、やがて低い声が悪態をつくのも聞こえてくる。足元が見えるぐらいまで明るくなってくると、ルッカは何も言わず手を放してトンファー型ライフルの取っ手を掴み、どうやったのか
出口を抜けると、目の前に二メートルの高さがある大きな岩が現れ、ナナトとルッカはその岩の陰に隠れつつ、慎重に前を覗き込んだ。
ドーム型の、とても大きな空間が広がっていた。
端から端までの直径が軽く百メートルを超えている三日月型をした陸地があり、その陸地の奥には澄んだ地底湖が広がっている。波一つ立たない静けさを保った湖だ。陸地側の壁には十本以上の松明が掲げられていて、少なくとも陸地側だけなら暗闇を寄せ付けない
「おいヒュワラー、いい加減に止めろ! 銃声を聞いただろう! 欲をかきすぎると全て失うぞ!」
ナナトたちが隠れている大岩から向かって右側。三十メートル離れた先に二人の男が立っていた。一人は黒いローブを全身に被り、フードを脱いで腕まくりをしている。もう一人は皮ズボンに両腕の出たシャツを着込み、ツルハシを立て続けに壁に振るって懸命に壁を削っていた。二人とも、歳は四十歳ぐらいだ。
「もう少し! あと少しだ! 次に原石を見つけたらそれを最後にする!」
「最後最後と言い続けてどれぐらい経っていると思っているんだ! これだけあれば余生は安泰のはずだ!」
ローブを着た男がリヤカーを指差す。中にはトパーズの原石と思われる石がうず高く積もれていた。
ヒュワラーがツルハシの動きを止め、突然壁に手を伸ばした。一般的な猫ほどの大きさをした、淡い青色の原石を抱えている。
「ほら。それでいいだろう。最後だな」
「いや駄目だ。これはブルーサファイアだ。見たところ純度も低い。ここの鉱床は、トパーズ以外の宝石はクズだ」
ヒュワラーはそう言うと、持っていた原石を湖の方へ投げ捨てた。ドボンという音と水しぶきをあげて原石は水の底へと沈んでいく。
「あったらしかぁ」
「えっ?」
聞き慣れない言葉を耳にしてナナトがルッカの顔を見た。
「なんて言ったの?」
「なんでもありません」
「でもいま…」
「もったいないって言ったんです」
心なしかルッカの顔が赤面しているように見える。再びツルハシを振るう音が聞こえて、ナナトは視線を戻した。
「心配するなよ、アンバオ。坑道に入って来れるとしたら女か、たとえ男でもガキだけだ。きっと今頃は鼠に追われて地上に出ているさ」
「女でも虎の獣人だったらどうする? 俺がここまで気を揉むのはな、呪いの対象に欠点があるからだ!
「俺が! 見つけた宝石たちだ! ここにあるのは全て俺のものなんだ! 他の奴らに盗られるのは嫌だが、使わずに消えていくのはさらに嫌だ!」
「ルッカ、あっち」
ナナトが男たちと正反対の方向を指差した。そこには、金属製の
「なるほど。ここに来る途中で見かけたあの鉄の檻は
ルッカの説明を聞いてナナトも得心がいった。
坑道内の途中から至る所に檻を置いたのはあの宝石泥棒の二人だったのだ。坑道の途中でウサギへと変化してしまった村の男たちは、当然石鼠の大群になす術がない。そこで自ら鉄の檻に飛び込んで入口を閉め、難を逃れたのだろう。後からやってきた宝石泥棒の二人組が檻ごと回収してしまえば、そのまま労せずして人質を取れる。五十人にものぼる村人をたった二人で一網打尽にする策略だ。
「ウサギはみんな弱ってる。先にあっちから助けようよ」
ナナトの指摘通り、鉄の檻に閉じ込められたウサギたちはかなり憔悴しきてっているように見えた。なかには死んでしまったかのようにぐったりしているのもいる。さらに、ナナトたちから見て左側にいるウサギたちまでの距離は約十メートル。宝石泥棒たちよりも距離が近い。
「そうですね。せっかく人質を取っておきながら距離を置いているのは奴らのミスです。先に救助を優先しましょう」
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