第9話 次なる旅路
ギルダー四人が
「ありがとうごぜえやす! ありがとうごぜえやす! うちの若ヤギが三頭もやられて頭を抱えていたんでさ」
「みんな若いのに大したもんだ。村の猟師はみんな歳くっちまってあの熊を倒せる鉄砲なんて撃てなかった」
「これは山の神様の思し召しだ。毛皮はもちろん、肉も内臓も角も一部も無駄には使わんぞ。早速今日は熊鍋じゃ!」
こうして、熊の死体を大八車に乗せて村まで運び、まだ日が暮れていない時間帯だというのに熊の肉を使った鍋による宴会が始まった。宴会はやがて大規模になり、最終的には村全体による祭りのような騒ぎと移り変わる。村人の喜びようからすると、熊に怯えながら生活していた期間がよほど苦しかったのだろう。
ナナトたちはどんなふうに熊を退治したかという話を繰り返し請われ、月が最も高い位置に上る夜になってようやく解放されると、満腹と疲労の極みで宿屋へと帰ってきた。
「あ~美味しかった熊肉。何年か前にお屋敷で出されたときはあまり美味しいと思わなかったんだけど、新鮮さが違うとこうも味は変わるのね」
スキーネは宿屋のロビーに当たる場所にあった長椅子に行儀悪く座る。ルッカはそれを見て「まだ人の目がありますよ」と眉根を寄せた。
「いいじゃない。人っていったってナナトだけでしょ。そういえばナナト、これからどうするの? 真っすぐサナバリーへ向かうの?」
「うん」
ナナトも答えながらイスに座った。かなり眠たいようで目をこすっている。
「よかったら途中まで一緒に行きましょうよ。こうして出会ったのも縁だし、ヴァンドリアのお屋敷へ招待したいわ。ね、いいでしょ? ツア
「ああ。あたしは構わないよ」
「決まりね! じゃあ明日の朝発つからそのつもりでね。おやすみナナト」
「…うん」
ナナトは欠伸して自分の部屋へと帰っていった。
翌朝、村を出発するのもまたひと騒動だった。
宿屋の女主人が感謝の気持ちだと言い、頑として二泊目の宿泊料を受け取らなかったうえに、昼にお食べと大量のお弁当を持たせてきたのだ。それだけでなく、宿を出ると十人ほどの村人が待ち構えていて、あれやこれやと食料や絹の服などを四人に贈った。おかげでツアムたちが引く幌馬車にはモノが溢れかえり、整頓するため小一時間要したほどだ。
人のいい村人たちとの出会いがあった一方で、別れもある。ナナトは宿泊用の馬小屋に留めてあったペオに別れを告げた。
「ごめんね、ペオ。ここでお別れだ。僕はこれからあの人たちと一緒に行くよ。君はこの村でもらってくれる人がいるから、その人の下で幸せに暮らすんだよ」
ナナトは後ろに立つ気の良さそうな壮年の村人に顔を向けた。
「ペオをよろしくね」
「任せとけ。足つきも毛並みもとてもいい雌馬だ。死ぬまで大事に世話するよ。本当にありがとう」
四人は身支度を済ませると、村を後にした。四人を見送る村人たちは、姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
軽快に歩くナナトを見て、横にいたルッカが尋ねる。
「本当に良かったのですか? 馬をあげてしまって」
「うん。あの人は自分のところの馬を角熊に食べられちゃって途方に暮れてたんだ。あの村の環境ならペオも喜ぶだろうし、二人にとって良かったんだよ。僕の荷物ならこの馬車に積んでもらえたしね」
だからといって状態のいい若馬を無償で差し出すのは気前が良すぎる。売り方をこだわれば二か月分の食糧が手に入る貴重な財産だというのに。ルッカは眉間にシワを寄せたが、当のナナトは少しも後悔した様子がなく、幌馬車を引く大きな家畜牛を見上げて言った。
「大きな牛だね。普通の牛の三倍はある」
ナナトの身長よりも上に牛の口があるのだ。スキーネが得意げに答えた。
「大型牛のファヌーよ。力は強いし性格も温厚だから馬車引きにはうってつけなの。ただ速度が出ないから馬と一緒に旅をするのには向いてないわ」
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