第1話

 春、入学式の前のオリエンテーションのためにここ陵雲高校に新入生が集まっていた。皆新しい制服に初々しく、そわそわしている空気が漂っていた。そんななかとりあえず周りの流れに従いながらぼーと歩いている一人の男子生徒がいた。しばらく進むと


「新入生の人はこちらです。こちらのプリントにクラス分けが書いてあるので、案内に従って該当するクラスの教室に移動してくだい」


 と案内の人からプリントを受け取って彼ははクラスを確認していた。彼は2組で自分の名前を見つけて教室に移動すると初登校ということもあり多くの人が席に座るか早くも友達と話していた。黒板で自分の席を確認し、真ん中より右側の後ろから2番目の席に行くと他の男子生徒の誰かが座って腕組んで伏せて寝ていた。


「あの寝てるところすみませんが...そこ僕の席なのですが君、席間違っていませんか?」


 と話しかけるとその男子生徒はバッと起きると


「よっ!はやと!おはよう」

「おはよう」


 とつい挨拶を返してしまったが彼は驚いていた。


「は?」

「ん?」

「なんでお前いるの」

「ここに入学したから」


 彼は中高一貫の中学から抜けてこの高校に入ったのでここに寝ていた男子生徒がいるのはおかしいのだ。中学の同級生はそのままエスカレーター式にそこの高校に行ったはずである。


「なんでここに来たんだよ」

「お前がいるから」

「きも。俺は周りに外の高校に行くこと言ってないぞ。どうしてわかった」

「あー傷ついた。もう悲しくて何も話せないなー」

「わかったわかったごめんって。でもどうしてわかったの」

「それは...担任の先生をおd...なんでもない」

「おい最低だな」


 寝ていた男子生徒は成績も優秀でコミュニケーション能力が高く、身長も高くてイケメン。しかも家が大会社の社長の息子という完璧っぷりで中学では先生にもある程度無理を通すことができ、彼の進路先を聞き出したみたいだった。


「心外だな。ちょっとお話ししただけだよ」

「いやそれが怖いわ」

「そんなこと言って嬉しいくせにー。教室に入った時死んだ魚の目してたけどいまはマシになってるし」

「気のせいだ」


 くだらない話をしていると隣に座っている女子生徒からクスクスと笑い声をおさえた声が聞こえた。彼と男子生徒は2人でその女子生徒を見ると


「あ、ごめんなさい。つい話が聞こえて面白くて。初めまして。私は橘 伊織(たちばな いおり)です。よろしくね」

「あ、うん初めまして。よろしくお願いします」

「初めまして橘さん!俺は西条 悠人(さいじょう ゆうと)この自己紹介しない奴は柊 颯人(ひいらぎ はやと)こいつもろともこれからよろしく!」

「西条くんに柊くんね。こちらこそよろしくね」

「それで俺らの会話そんなに面白かった?」

「うん。ちょっとした漫才みたいだったよ」

「だってさ。俺らコンビ組む?」

「絶対やだ」

「あはは。やっぱり面白いね」


 そう言って橘さんは笑っていた。初対面なのに橘さんは自然と会話に入り、彼らと会話し始めた。


「2人は同じ中学校だったの?」

「そう!こいつとは親友なんだ」

「...親友なんかじゃない」


 柊は暗い顔でそう答えると悠人は若干苦しい顔をして笑うと「なんだなんだ照れちゃってー」とごまかして笑っていた。

 橘さんもなにか感じたのか焦ったように話しの続きを話し始めた。


「私は仲良かった同じ中学の子とばらばらになっちゃったから友達がいるの羨ましいなー」

「えー。橘さん可愛いし優しそうだしすぐ友達できるよー!そう思うよな颯人」

「うん」

「あはは...お世辞でもありがとう。でもそんなことないよ」


 と苦笑いしながら答えていた。実際橘さんはダークブラウンのロブにくりっとした目に泣き袋が特徴でとても可愛く、性格も優しそうなオーラがでており、すぐにでも友達ができそうな人であった。


「お世辞じゃないよー。まあ、そろそろHR始まりそうだし席戻るわ。」

「ん。やっと席座れる」

「またね」


 そういって悠人は自分の席に戻っていった。うるさい奴が帰ってやっと平和になり、柊は自分の席に座ってHRが始まるまでぼーと机の中に入っていた学校の資料を眺めていた。その間に柊は橘さんとも他の人とも話すことは無かったのであった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る