All for one

そら

プロローグ

 春が近づき気温が暖かくなってきたとはいえまだまだ寒い季節の中、ある体育館は熱気と歓声に包まれていた。


 ジュニアオールスター男子決勝、東京都vs京都府


 各県で選ばれたバスケットボールが上手な中学生の選手が集まり、県選抜として県を代表して全国1位を争う大会の決勝がまさに行われていた。

 試合は第4クオーターが始まって4分、得点は57vs62の東京都が5点追いかけている状況。ここ2分はどちらの選手もお互いに得点を決め、また守り点差が縮まらない展開が続いていた。

 そんなとき、東京都の選手がパスカットをし、会場はワッと湧いた。ボールを取られた京都府の選手達が急いで戻るも、彼は全速力でリングに向かっていた。


「ナイスカットーー!」

「いけいけー!!」


 彼はディフェンスに追いつかれることなくそのままレイアップを決めて2点が東京都に入り得点は59vs62。会場では大きな歓声が生まれムードはいっきに東京都に傾いた。そして彼のスイッチも入った。京都府の選手は焦らずゆっくりと攻めて2点取り返したが彼の行動は早かった。素早く味方の選手からエンドラインでボールをもらうとすごいドリブルテクニックで相手選手を立て続けに2人抜き、アウトナンバーになったがそのまま相手を翻弄し得点を重ねた。東京都はこの勢いでディフェンスを抑えると次のオフェンスでまた彼がスリーを決めて64vs64の同点に追いついた。会場は先ほどよりもっと大きな歓声に包まれ、ベンチでも皆立ち上がって喜んだ。京都府の監督はあわててタイムアウトを取り、この東京都の流れを切ろうとした。その間にも熱気は収まらず人々はどちらが優勝するのかドキドキしながらタイムアウトが終わるのを待っていた。

 決勝に残っている県だけあり、京都府はこのままやられっぱなしではなかった。タイムアウトが終わると勢いのある彼には徹底的にマークされ、彼が相手選手を抜いても他の選手の手厚いカバーが行われて思うように点が取れなくなり、点数がお互いリードして追いついての硬直状態に陥った。しかし彼を抑えるのは容易ではなく、彼をマークしている選手が着々とファールが増えていた。

 残り試合1分、彼をマークしている選手が5ファールで退場になると彼は再び暴れ出してスリーやダブルクラッチなどを決めて点差を少し離し、会場の人をいっきに魅了して圧倒的な実力を見せた。


「あの人めちゃくちゃうまい!シュートも全然落とさないし!!」

「すけー!カッコいい!!俺も真似できるかな!?」

「あの人初めて見たけど有名な学校の人かな?」

「ちょっと待って...えっと出身中学は...知らない学校だな」

「このまま東京が勝つかな?」


 観客は彼のプレーを絶賛し、注目していた。彼はその期待に答えるかのような活躍を最後まで見せた。そんな彼を抑えきれず、残り少ない時間で京都府は巻き返すことができずに東京都が6点リードで優勝した。試合終了のホイッスルがなると東京の選手やベンチの選手は彼を中心として集まってハイタッチをしたりと喜んでいた。観客でも白熱した試合にたいそう興奮して会場中に大きな熱気をもたらした。そして盛大な拍手をして両チームを称えていた。


 そんななか優勝したにもかかわらず彼には笑顔が見られなかった。彼はMVPになりチームでも個人でも表彰されたが表彰式が終わるとひっそりと帰っていった.....


 また観客の一人も場にそぐわない苦い顔をしていた。

「あいつ...ワンマンプレーばっかじゃねぇーか」

 そう言ってその場を離れた。

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