第3話学校
学校。
それは、年の近い兄妹であれば、必ずしも避けては通らない問題の一つである。たとえば妹が自分のクラスに来て、
「おにいちゃん、〇〇かして〜」
などという事があるのは、日常茶飯事。さらには同級生からも、
「あいつ、お前の妹なのか?似てねえなあwww」
などと冷やかされることもある。
逆に妹が学校で有名などの場合は、
「お前の妹、めっちゃ凄えらしいじゃん。兄ちゃんなんだから負けるなよ?」
などと妙な気遣いを見せてくるものもいる。さらにはその妹が、クラスメイトと知り合いなどという事があれば、
「どうしたの?お兄ちゃんになんか用事?〇〇くん、妹ちゃん来てるよ〜」
などと、大声で宣言されかねない。
たかがその程度で、などと思う人もいるだろうが、このような小さなことの積み重なりで兄妹の仲が悪くなるという事例が意外にも多い。
ただしこれは、一般の兄妹での話であり、これを姫織が実際に行うのであれば!!
★☆
この学園は中高一貫の学園であり、校舎は別に分けられているものの、中高の結びつきがかなり強く、行き来は自由、部活も混合で行う部もあるほどの交流もある。
そして、この学園の一番の特徴は、生徒会も混合で成り立っていることである。
生徒会長を高等部が、副会長を中等部が、それぞれを選挙で選出されて決まる。
そんな、容姿が整っており、なおかつ人当たりも良く、人望の厚い姫織が、学園で人気ではないはずがないのだ。
そんな、姫織がもし兄である龍彦のクラスに赴いた場合、クラスは大盛り上がり間違いなしである。
それを見越した上で、姫織は大きなかけに出ようとしていた。
☆
姫織は、高校生の校舎を優雅にそして可憐に堂々と歩いていた。周りからは好奇の視線を度々向けられている。
「(ふふ。やはり、ここでも私の名は届いているようですね。そして、このまま、兄さんのクラスに赴き、クラス公認の仲になる事ができれば、ここにいなくても兄さんに私を意識させる事ができますね)」
無論、姫織もこれがかなりのリスクを背負うことは承知していた。兄にとって多大な負荷が掛かることには。
しかし、姫織は脳内シミュレーションを加速させていた。
<<脳内シミュレーション>>
『兄さん、兄さんの分のお弁当を持って来ましたよ♪』
きっと、急にわたしが現れたことで、教室中はパニックになるでしょう。
もちろん兄さんもですが。
そして、慌てふためいている兄さんの下まで駆け寄り、みなさんの前で、
『もう、兄さんったら、次からは気をつけてくださいね』
そう言って、私は兄さんの手元に直接お弁当を手渡す。
一言も喋れず、驚いた表情で固まる兄さん。
この行動とこの仕草で、兄さんは周りの空気に当てられて、きっとドギマギするはず。
そして、私が教室を出て言った後、クラスメイトの友達からこの一言。
『お前もう妹と結婚しちまえよ』
<<終了>>
「(これですよ!!この作戦はきっと完璧じゃないかしら!!
これで、高等部でも公認の妹となり、いつ私が高等部にいても良い理由になるはず。
こういうものは、まず外堀から埋めていくのが鉄則なのだそうです。
この作戦で行くとしましょう!!)」
はたして、姫織の作戦はいかに!?
☆
姫織はその後もわざと遠回りし続け、ようやく龍玄の教室までたどり着いた。
決して、龍玄がどんな生活をしているのかを知りたかったわけではないのである!!
姫織はこっそりと龍玄の教室を覗く。
好都合にも龍玄は一人窓の外を眺めながら、ぼーっとしている。
「(すみません、兄さん。これをするために、兄さんのカバンからお弁当と財布を抜いたので昼食がとれないんですよね)」
姫織は、一度大きく深呼吸をし、柔らかな微笑みを浮かべて教室に入る。
案の定、教室中の生徒たちが一斉に姫織に視線を向ける。
中には、『めっちゃ可愛いじゃん』『あの子ってもしかして......』『あの二人ってもしかして......!!』『でも、貧乳なのがな......』などと数多くの囁き声が聞こえてくる。
「(ふふ、計算通りですね。これだけ盛り上がってくれればこっちのものです。あと、私の胸について言及したものは後で処罰してやりましょう)」
こんなことを考えているとは悟らせないよう、よどみない足取りで真っ直ぐ龍玄の下まで歩く。
案の定、龍玄も驚きを隠せない様子でこっちを見ていた。
「(さあ、ここまでは計画通り。ここから......)」
しかし、ここである囁き声が、姫織の耳に入って来た。
『でもさあ、その兄は全然釣り合ってないよね』
それは、ポツンと漏れた囁き声で、すぐに周りの声によってかき消される。だが、確かに姫織には聞こえたのだった。男か女なのかも分からず、他に人にとっては何気ない一言であっても、確かに姫織の心の中には深く響いたのだ。
その瞬間、姫織の中で何かが切れる音がした。
「「なんですってぇ!!もう一回言ってみなさいよ!!」」
気付いた時にはそう叫んでいた。
教室中が、一瞬で静まり返り今まで以上に視線が姫織に集まる。
姫織からしても、あんなことを言うつもりはなかったのに、他の人のことなど無視すればいいと思っていたのに。
「あ、あの......、えっと......」
何も話すことはできず、ただその教室から走り去って行くことしか出来なかった。
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