第2話 肯定されたかった男(1)

 ――ワシがタイムマシンを作った理由?

 そりゃあ決まってる。あの女に会うため。それだけだよ。

 あの美人にもう一度会うためだけに、ワシは生涯を掛けてきたのさ。



 中学生の頃、そいつは自転車に乗ったワシの前に突然現れた。

 その距離、わずか10m。周囲に横道もない一本道を突っ走ていたもんだから、当然ブレーキを十分に効かせられるわけもなく。時速20キロはあろう勢いでワシはそいつにぶつかったよ。強い衝撃を感じた瞬間、走馬灯みたいなもんが走ったのを今でもよく覚えてる。


 まさか自分と自転車の方が空中に跳ね上がるとは、夢にも思わなかったがな。


 女の頭を軽く飛び越して、まぁ地上2mの高さってところか。

 ワシは棒高跳びよろしく、女の頭上をビューンと飛び越し、ガシャンとアスファルトの道路に墜落した。女にぶつかった瞬間に意識は飛んでいたから詳しくは覚えていないが、絵面的にはそんなもんだっただろう。


 しばらくして目を覚ますと、一人の女が首を傾けながらワシの顔を覗き込んでいた。マンガで見かけるような青い髪。それを肩にかかるくらい伸ばした、20歳前半くらいの若い見た目の女だった。

 なんというか、第一印象は葬式帰りの未亡人、って感じだったな。黒い上着に黒のプリーツスカートを着けたその姿が喪服のようだったから、というのもあるだろうが。全体的に大人しい印象で、覇気みたいなのを感じなかった。愛する伴侶を失って呆然と道を歩いていた、そんな佇まいだったのさ。あるいは、ロボット番組のロボット役の撮影をやってますと言われたら、まぁ信じたかもしれないな。

 すらーと目筋が通り、化粧はしっかりしていて、だけど無表情な女が俺をじっと見つめてポツリと言ったのさ。「危ないので気を付けましょう」ってな。

 たったそれだけを告げると、女はどこへと知れずに歩いて去っていったんだ。立ち去ろうとするそいつを条件反射で追いかけようとはしたものの、どうも足腰に力が入らずそれは叶わなかった。結局ワシは数分くらいその場に座り込み、その後たまたま通りがかったトラックの運転手に救急車を呼ばれて処置を受けることとなった。背負っていたリュックサックが頭を庇うクッションとなっていたんで、大事には至らなかった。ただ、さすがに自分が陥った状況を告げると医者と両親にひどく心配されたよ。念には念をという形で1日ほど入院させられちまった。


 その日は7月7日だった。


 病院のテレビに映る七夕特集を見て、あれがワシにとっての織姫だったのかもな、なんて独り言ちて苦笑いした。



 1年後。また同じ日にその女と再会することになるとは思いもしなかったよ。

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