第8話 ただ一人のためのアイドル活動
最近マネージャーがうざい。
スケジュール管理がめんどい。
礼節ある振る舞いをしろとうるさい。
元ヤンに期待しすぎだろこいつ。
もし男だったら思わず手を上げちまうやつだ。
「垣根さん。昼の生番組、不適切な発言をしようとしましたね。次からは気をつけてください」
「あぁ? 別に気にするようなことでもなかっただろ。ツイッターでは炎上してねえしよ」
「現場は一瞬冷えましたよ。MCが寛大な人だから良かったものの、次はないと思ってください。毎度言っていますが、貴方はアイドルとしての才能があります。なるべく元ヤン感は表に出さないように」
「つってもよー、こればかりはもう俺の生き様みたいなものだからよぉ。やめろって言われたら、今ここで死ねっていってるようなものだ」
「アナタも知っているでしょう。トップアイドルのセンターが元ヤンだとバレて世間に総たたきにあったことを。結果、どうなったのか。」
わかってるわ。そのアイドルは世間のバッシングに耐えられず失踪してしまった。今も捜索中とのことだ。
彼女を叩いていたファンが世間からバッシングを受けた。世間様も叩いていた連中とかわんねえだろ。
「だから俺も清楚なアイドルをやれって? あのな、男と女じゃ求めるもんはちげえだろ」
「それでもです。垣根さんが今後の活動をしていくためにも、どうかここは事務所のためだと思って」
マネージャーは頭を下げる。もう何回このやり取りを繰り返したのだろうか。垣根は化粧っ気のないマネージャーの顔を眺めた。
「なあ、あんたっていくつだっけ?」
「……二十二です。専門学校卒業してから業界入りしましたので」
「へえ、思ったより若えな。あんた随分と筋金って聞くぜ。数々のアイドルの華々しいスタートを担当したってなあ。俺も期待されてんだ」
「別に、偶然あたっただけですよ。同じように羽ばたきたいなら、私の忠告は聞いてもらいたいですよ」
「嫌だね」
マネージャーの鋭い視線が刺さる。噴火する前の火山といった感じに頬が震えている。こうなったら後は爆発するだけだが、今日だけは噴火を鎮める自信があった。
「俺は今まで通りにやっていく。イメージ戦略なんてくそくらえだろ。世間一般とか本当に生きているものかさえ怪しいものにわざわざ従う義理はねえ。ヤンキーってのは、自分の生き方を制限されんが一番むかつくんだ。拳を振り上げる案件ってやつだ」
胸の内でむかつくものが這い上がってくる。ああ、この感触だ。二年前、俺の大事なものが奪われたとき、何も出来ない自分に腹が立ったときの感じだ。
俺は立ってマネージャーに近づいた。目は怒りでいっぱいだった。拳を振り上げると、彼女の目元が怯えるように小さくなった。だが一瞬のことで、負けじと睨み返すだけの度量はあったようだ。
さすが、俺のマネージャーだ。だからこそ憧れてたんだ。
右ストレートをマネージャーに放つ。拳は彼女の左耳をかすめ壁に激突した。
彼女の顔が近い。そして確信を抱くには十分な特徴が、目の前に映っている。
「馬鹿だろうが、ヤンキーだろうが関係ねえだろ。今まで共に頑張ってきたことは本物じゃねえか。それを分かってくれねえ奴らを、あんたはファンにしちまいやがった。すげえことだけどよ、あんたはそいつらにも殺されちまったな」
「なんで、そんなことをしようとしているのよ」
「決まってんだろ。俺が芸能界に入ったのは、弔い合戦のためだ。最高のアイドルを殺した奴らに復讐してやるんだ」
ファンの底力ってやつを見せつけてやる。
それが俺のアイドル活動ってやつだ。
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