第25話 金曜日が来た
金曜日は、100マス九九チャレンジの日だ。
自分で測っているタイムは、練習記録。
この日のタイムが、正式記録として認定される。
だから、緊張するし、やる気も増す。
始める前に先生が、「終わったら、タイムを記録し、感想を書くのはいつもと同じだけど、
それに自分褒めを加えてほしい。」と言いみんなを見た。
俺もみんなも、どういうこと?という顔をしていたんだろう。
「それはね。」と表情を柔らかくして言葉を選びながら話す先生が感じられた。
「100マス九九を頑張っている自分を褒めてほしい。
いろいろな褒め方を集め、みんなに紹介したい。
そうすれば、みんな自分褒めが上手になっていき、もっとやる気になるでしょ。
だから、2つ以上書いて。」とにっこり笑って言った。
その笑顔が出た時は、もう変更する気がない時だよね、先生と俺は思った。
まっ、やればいいんでしょ、やれば、と思った。
100マス九九表が配られ、「用意、始め」でスタートした。
いつも通り、「1分」「1分30秒」「2分」と目安になるタイムを先生が告げていく。
くそー、なかなか思うようにいかない。
タイムを言われることで、余計焦る。
そう思っていると、「焦る自分に負けない。」等と先生がつぶやいている。
本当にこの先生は、人の心が透けて見えるのか!と思えた。
その瞬間、あだ名はスケルトンにしようと思えた。
やっと終わり、手を挙げると、「2分40秒」と言われた。
そのすぐ後に本間君が「2分43秒」と言われていた。
タイムを記録しながら、「最高タイムが出せた。嬉しい。」と感想に書いた。
でも、自分褒めをしなくちゃならない。
とりあえず、「最高タイムが出せてよかったね。」だよな。
他には何かあるかなあと思って100マス九九表を見ると、今までよりも数字がきれいだ。
「数字がきれいになったね。」と書いた。
みんなは、どんなことを書くんだろう。
速く紹介してほしいと思った。
全員終わり、100マス九九表は先生の所に提出した。受け取りながら先生は、感想や自分褒めを読んでいる。褒められている子もいる。本間君もその一人だ。何と書いたんだろう。
「いろいろな褒め方が出てきました。
さすがみんなです。
月曜日に紹介します。
楽しみにしていてください。」と言って終わってしまった。
ちょっと、口をとがらせていると、当番が、「起立。礼。さようなら。」と帰りの挨拶をした。
俺も挨拶をして、教室の出入り口へ向かおうとした時、松下先生から「ちょっといい?」と呼び止められた。
何だろうと先生の所へ行くと、
「修平君、いいお姉さんがいるね。」と言った。
何の事かわからず、キョトンとしていると、「昨日、お姉さんから電話をもらったんだ。」と話し出した。
思わず「綾姉が先生に電話!」と目を丸くして言うと、
「そう、お姉さんが、修平が目標と方法を自分の机の所に書いて頑張り始めました。
ありがとうございます、と言われた。」と優しい目をしながら言った。
そして、「あなたがやっていることは、素晴らしいこと。
今日の自分褒めには書いてないけど、紹介してもいい?」と聞いてきた。
分けもわからず、この先生なら信用できるから、別にいいと思い、頷いた。
満面の笑みを浮かべた「ありがとう。」と応援している思いのこもった肩たたきを受けた。
俺も笑顔を返した。
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