第23話 何を見て判断すべきか

 次の日の朝は、本間君の話だった。

松下先生は、「本間君は、サッカーやっているでしょ。

昨日は練習がとっても厳しかったんですって。

だから、もう本当に疲れていたんだって。

そんな時、宿題や100マスをあなたならどうする?

本間君は、どうしたと思う?」と言いながら、みんなを見回した。

あの目で見られると、何だか心の奥底まで見られているような気になる。

俺は、疲れていたから、適当にやったよと思った。

みんなもそうだろうと思っていた。

「適当に早く済ませたいよね。

私もそう思う。

本間君にもそういう時は適当にやるんだよね。

そう言ったの。

でも本間君は、ライバルの修平君はやっているかもしれない。

俺は負けたくない。そう言ったの。」と言ってみんなの方を見まわした。

先生は、本間君の方を向き、良い?という確認をして

「本間君は、100マス九九の賞状を来週の金曜日にもらうと目標を立てた。

今日、さぼると、目標が達成できなくなる。

途中の土曜日や日曜日に頑張ればいいけど、自分に負けたことになる。

本間君は、今までずっと自分に負けてきたと思っていた。

だから、短い時間でできるこの100マスだけは、絶対自分に負けたくない。

そう言ったの。」と言って、愛おしむ様な眼差しで本間君を、そじてみんなを見た。

「やっぱり、みんなは凄い。

もう、こんなこと思える子がいる。

本人は気付いていないけれど、本間君の話の中に、3つの凄いことが隠されているんだよ。

何が入っていたか、わかる?」と言ってみんなを見た。

俺は「ライバル」という言葉が心に刺さった。

俺のことが関係しているのか?と思った。


「一つ目は、ライバルにより活動を停止して自分の健康を守る自己防衛から活動を活発化する方向へ切り替え負荷を掛けている。

誰でも自分の体が大変な時は、自分を守りにいく。

それが普通です。」

先生は、ここで、頷きながらみんなを見回した。

「そんな時、ライバルを思い出し、疲れたから休もうという自己防衛から視点を変えている。

自分から目を離している。」と言いながら自分に向けていた指先を俺に向けた。

「ライバルを思うことで、自己防衛本能から修平君に負けたくないという闘争本能に火をつけた。

ライバルを思うことで、頑張る力を引き出している。

今までの限界を超え、自分の限界を高めている

凄い自己コントロールだよ。」と言った。

俺は頷くしかなかった。

昨日、俺は、自分が疲れていることしか頭になかった。

ライバルのことを考える余裕もなかった。

自分の限界を超えることはできていない。

自分自身が悔しかった。


少し間を開けて、「二つ目に、目標を意識している。」と言った。

俺は、どんな目標のこと?と思った。

先生は、「自転車に乗ることや九々を覚えることなど

様々な力は、活動とそれを連続していく努力の先に手にすることができる。

そのためには、自分が立てた目標を意識し、活動を続けていく努力が大事だよね。

苦しいときに、目標を意識し、何をやるべきか自分で確認し実行できたことが凄い。」と言い、またみんなを見回した。

俺は、100マス九九を1分台にするという目標は、忘れていた。

でも、思い出していれば、できたかなあ?とも思えた。


「三つ目に、自分に負けない。

人の活動は、実行するかしないかは、何でも自分の心が決める。

だから、自分の心に負けていたら、何も実行できない。

実行しないと、新しい力はつかない。

それは、新しい自分になれないということ。

今の自分を乗り越えていくことはできないということ。

それを感じたんでしょう。

本間君は、「自分に負けたくない」と言っている。

自分の心との対決を感じ、負けたくないと思える人は、伸びていくと思います。」と言い、みんなを見回した。

俺は、疲れたという自分の気持ちに負け、活動できなかった。

自分を乗り越えていくことはできていない。

みんなが伸びていく時、自分だけそのまま。

そんなの嫌だ!と思えた。


「本間君は、昨日、人が伸びていく時に使うと3つの方法について言ったんです。

本人は、気付いていないけれどね。

でも、こうやってやり続けていけば、必ず伸びるよ。

本間君、やり続ければ、必ず今の自分を越えていけるよ。

期待しています。」と本間君を見、みんなを見て話が終わった。

俺は予定帳に「自分に負けない」と赤ペンで書いていた。

少し間を開けて、「体が辛くて休む時もあっていい。

ライバルのこと、目標のこと、自分を越えることをしっかり意識しておけば、必ず休んだ分は取り返せる。

昨日、何も意識しないで休んだ子。

これからは、ライバル・目標・自分越えのことを考えればいいんだよ。

自分を伸ばす3つの足場を学んだね。

その分、成長した。

この次から頑張ろうと自分を励ませばいいんだよ。」と付け加えた。

「さあ、声に出して、一緒に言おう。

この次から頑張ろう」

みんなで言って、拍手をして終わった。

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