第18話 誘惑に負ける

 帰り道、ウイニング・イレブンの話で盛り上がり、鞄をベッドの上に放り投げ、ゲームのスイッチを入れた。

勿論。ウイ・イレだ。

簡単に話していたけど、なかなかうまくいかない。

始める前は、10分くらいやって、教えてもらった技を試したら、宿題や100マス九九をやるつもりだった。

でも、教えてもらった技がうまくいかない。

こうなると、もう一回やろうということになる。

その繰り返しで、あっという間に1時間が経った。

お母さんの「ご飯にするよ。おいで。」の声が聞こえた。

うちの両親は、我が家のルールを守らないと、怖い。

そして一番大切にしているルールが、夕食はみんな一緒に食べ、その日の出来事を話すだ。

話し手は、落ちを付けること。

聴き手は、質問や突っ込みを入れることが細かいルールだ。

途中のゲームを気にしていたのでは、話に入っていけず、「もう、食事はいいにしろ!」なんて怒鳴られてしまう。

小さいころから区切りをつけるようにされてきたからだろうか、不承不承ながら、ゲーム機のスイッチを切っていた。


「いただきます。」に続いて、「修平、どんなことがあったの?」と振られた。

俺は、「100マス九九のタイムトライアルを毎週金曜日にやることになった。」と話し出した。それを聞いた綾姉が「私たちの時もやった。懐かしい。」と反応。

俺が、「何分何秒?」と」聞くと、綾姉は「最終1分45秒」と応えた。

悔しいので、「最初は?」と聞くと、綾姉は、「はっきり覚えたいないけど、2分45秒かな?」と応えた。

俺より速いジャン。

ご飯を噛み噛み口がとがっていくのが自分でもわかった。

「1分45秒か。最終は俺が抜いてやるぜ。」と言うと、

綾姉が「無理無理。

適当にやっている人は、伸びないから。

根性ない人は可能性が低いよ。」と言った。

綾姉の方を向いた目に力が入り、左の頬が少し引きつりながら「俺が勝つ!」と言い切った。

お母さんが、「楽しみだねえ。お姉ちゃんも本気で頑張って自信を付けて行った。

修平も力を付けていくね。

松下先生、ありがとう。

修平、本当にやり遂げてね。」と言った。

「うん。」と頷きおかずのトンカツを口に入れた。

綾姉は、進学の話。

お母さんは、料理。

お父さんは、通勤の出来事だった。

夕食が終わり、8時に勉強部屋に行き、宿題をやった。

意外と時間がかかり、100マス九九は、2枚しかやれなかった。

9時になったので、風呂に入り、歯を磨き、明日の支度をして10時にはベッドに入った。

天井を見ると、ウイ・イレの場面が見えた気がした。

あの時、もう少し早くレバーを…と思ったとき、綾姉の「適当にやっている人」と言う言葉が耳の中から聞こえてきた。

松下先生の話を聞いたときは、やる気満々だったのに、家に帰る途中でゲームをやる気満々に変わってしまった。

俺って、物事を適当にやる根性なしなのか。

何か自分にむかむかして、体が熱くなった。

ちょっと寝れないと思ったが、いつの間にか眠っていた

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