第16話 思うようにいかない

 家に帰って、もらってきた100マス九々をやることにした。ピピタイマーをスタートして1×1=1から書き始めた。学校でやった時より速くできた気がする。10×10=100を書き終え、ピピタイマーをストップさせた。絶対速くなっているはずだ、その思いを込めた表示を見た。3分30秒だ。よし、15秒速くなった。この調子でいけば、今日の3枚目には、3分になるじゃんと思った。

 2枚目をやったら、3分25秒だった。あれ?続けてやったからかな?手の筋肉が痛い。少しブルブルと体操をした。よし、これでいい。準備万端だと思い、3枚目をやった。しかし、3分34秒だった。タイムは速くなっているけど、思うように速くならない。何だか嫌な気持ちになってきて、100マス九九は、3枚でやめた。

 顔をあげた時、帰りの会の後、100マス九々の用紙をもらうために並んだみんなも100マス九九やったかなあ?タイムは速くなっているのだろうか?俺よりたくさんやっているのかなあと思った。みんなを思い、もう少しやろうかとも思ったが、どうせ速くならないならしょうがないジャンという気持ちが強く出てきて、やっぱりやめた。トータル12分くらいで俺の家庭学習での100マス九九の初日は終わった。

 俺が100マス九九をやっている時、綾姉は隣の机で自分の宿題をやっていた。3枚で100マス九九をやめようとした時、こっちを見たけど何も言わなかった。そして、いつもの本読みや漢字ドリル、計算ドリルをやっている時、リビングに行き、お母さんと何か話していた。今まであんなに松下先生のことを話していたのに、綾姉も100マス九九をやっているのを俺は見たから、何かアドバイスをくれてもいいのに、何も言わなかった。綾姉も受験生、忙しいのかなあと思いながら、いつもの宿題を片付けた。

 リビングに行くと、綾姉がちょうど勉強部屋に帰っていった。僕を見つけたお母さんは、「また自分から頑張ったね。お母さん嬉しいなあ。」とにこにこ顔で言った。何かいつもと違う感じだけどと感じながら、褒められたので「まあね。」と応えている自分がいた。お母さんの誉め言葉でタイムが速くならない嫌な気持ちは少し和らいだ気がした。

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