第8話 先生に褒められるって嬉しい!

 算数の授業が始まると、先生が、「宿題やってきた?」と聞いた。俺は、待ってましたと手を挙げて発表しようとした。俺は、鬼を作ったから、それを見せたいなあと思って周りを見ると、ニコニコして手を挙げている子がいつもより多い。みんなも何か楽しい線対称な図形を書いてきたのかな?でも、俺を最初に言わせてほしいと思った。手を挙げている子をゆっくり見て、手の上がっていない子のノートに目をやってから先生が「みんな頑張ってやってきたんだね。やってきた子は、「えらい」とノートに書こう。約束の3個書いてきた子は、「えらい」+「A」と書こう。これは、先生がノートの点数をつける時の基にするものになります。みんな頑張ってきたね。やってきた人、自分の頭をなでながら、「えらいねえ」と自分を褒めよう。3つやった人は、「Aだよ」と言ってやろう。」と言った。みんなにやにやして動かない。それを見た先生が、「一緒にやるよ。手を頭にやって、えらいねえ。」と言ったらみんなの様子を見て、「本間君、良い顔していたよ。」「山崎君、照れずにやっていこう。」と言った。場が和んできた時、三神君が「先生、僕は7個書いたんだけど…。」と言った。先生は、「3個でA、6個でAA、9個でAAAと言うように考えてくれればいい。だから、三神君は、AAと書いておこう。」と言った。たくさんやるとAの数が増えるんだ。もっと早くいってよと思った。その時、山中君が、「今日また3個やったら、どうなる?」と聞いた。先生は、「あなたが頑張ったんだから、3個でAが1つつきます。でも、今日の宿題は違うのになると思うから、自主勉でやることになるよ」と言った。山中君は、にっこりわらって頷いていた。

 先生は、「時間も限られているから、自分の書いてきたノートを開き「〇〇の線対称な図形」とみんなに紹介します。自分以外の班の人の線対称な図形で良いなあと思うものを人差し指で指し示します。右手と左手があるから、同じ線対称な図形を両手で指さしてもいいし、違う線対称な図形を指さしてもいいよ。一番多い人の図形を一班から順に黒板に写し学級で一番いいなあと思う線対称な図形を決めます。同点だったら、じゃんけんで勝った方にします。いいですか。」と言ってみんなを見た。そして、「班の代表決定時間、2分。用意、はじめ。」と言って班の代表決定が始まった。

 俺は、「鬼」を出した。青空さんは「花」、石橋君は「車」、伊藤さんは「星」を出した。みんな面白い。特に、伊藤さんの星は、色もついていてきれいだ。みんなで「いっせーのーで」で指さした。「鬼」が3、「花」が1、「車」が1、「星」が3。俺と伊藤さんが同点だ。「じゃんけんだよ。」と石橋君が言った。二人で「最初はグー、ジャンケン、ポン。」俺はグーで伊藤さんはチョキを出した。俺が勝って班の代表となった。

 発表の時、前に出てみんなを見ると、みんなの目が俺に向かってきた。なんか怖い感じがする。そうだ、だから俺は今まであんまり発表をしなかったんだ。怖さを思い出し、ちょっと下を向きながら小さめの声で「俺は鬼を作ってきました。」と言った。すると、平野君が「上手だなあ。」江川さんが「かわいい。」と言った。目は怖い気がしたけど、言葉はとっても嬉しかった。

 二班は小島君が「車」、三班は田中さんが「指輪」、四班は天野さんが「花」、五班は塚本君が「ガンダム」、六班は堀君が「ロケット」、七班は飯塚さんが「ひょうたん」を出した。塚本君のガンダムが一番リアルで、点数を集め、線対称な図形の宿題コンテストにおける一位を獲得した。みんなのが見れて楽しかった。

 先生が、「それでは、昨日の続きに行きます。花模様の線対称の軸、どこに書く?4本じゃないの?という疑問が出ていたように思うけど、いいかな?」と聞いてきた。「そう、それ。4本だと思う。」と八木君が言った。すると、先生が、「八木正樹君、前で説明しながら、対象の軸を書いていってよ。」と言った。八木君が、前に出てノートを黒板に写しながら「上の辺の真ん中と下の辺の真ん中に赤い線を引きます。そこで折れば重なるから、赤い線が対象の軸になります。ここまでいいですか?」と聞いた。みんな「いいです。」と応えた。八木君が続けて「少し回すと斜めだった辺が上と下に来ます。これの真ん中をつなぎ、そこで折ると重なります。だから、線対称の軸になります。ここまでいいですか?」とまた聞いた。同じようにやっているからわかるよと思いながら「いいです。」と応えた。「また、回すと同じように上と下の辺になり、もう一つ上と下の辺になります。それらの辺の真ん中を結ぶと線対称の軸になります。だから、対象の軸が4本になります。どうですか。」と図を指し示しながら言った。僕は、「一緒だ。説明がうまい。」と思わず言ってしまった。みんなも笑顔で頷いている。

 そこへ、「まだ、線対称の軸があります。」と言って稲森さんが手を挙げた。俺は、もうないのに、どこを言っているの?と思った。先生が、「稲森さん。」と指名した後、「途中でも止めることがあるから、その時は、続きを言わないでね。」と言った。俺は、先生は何を言っているのだろうと思った。

 稲森さんが前に出て、花模様の図形を少し回して辺ではなく頂点が上と下に来るようにした。それを見て俺は思わず「あー、あそこにある。」と口走って先生の方を見ていた。俺のように口走る子や目を輝かせている子が何人かいた。先生は、ニコニコ笑顔で、「稲森さん、少し時間をもらっていいかな。」と聞いた。稲森さんは、「はい。」と応えた。それを受けて先生は、「稲森さんが図形を少し回しただけで、何か気付いた人がいます。もう少し時間があれば築く人もいるかもしれません。頂点が上と下にある図形で、稲森さんは何を言おうとしているのでしょう。心の中で予想してみよう。誰かが言葉にしてしまうと、自分で分かったという感動は得られない。みんなが楽しむために、わかってもしゃべらない。シンキング・タイム2分。用意、はじめ。」に加えて「昨日の図を黒板のように回してみてもいいよ。折ったり、線を入れたりしてもいいよ。」と言った。自分のノートの図でみんな自分の持ったことをやっていた。先生は、また、座席表をもって、超スピードでみんなの机の間を通っていった。

 「2分経ちました。稲森さん、あなたの発表で気付いた人が何人かいます。その人たちに、あなたが言いたかったことを発表してもらおうと思いますが、いいですか。」と先生が聞いた。そんな風に言われたら、嫌と言えないなあと思っていると、稲森さんも「いいです。」と言った。それを聞き、「稲森さんは、ミニ先生です。言おうと思ったことが言えているか否かはあなたにしかわかりません。判定をお願いしますね。」と稲森さんを見て言った後、「挑戦する人?」とみんなの方を向き直ってゆっくり言った。先生の目が教室の端から端まで見ていた。何人かの手が挙がった。

 「吉田君。」と吉田高志君が指名された。ニコッとして、吉田君は前に出て、稲森さんが少し回転させた図の上の頂点と下の頂点を結び、「ここで折る。線対称の軸にすると稲森さんは言おうとしていたと思います。」と言い、稲森さんを見た。先生は、吉田君の発表の時、みんなを見ていた。俺をはじめみんなが頷いたのを見て、稲森さんを見た。稲森さんは、「そうです。」と言った。それを聞き、「稲森さんが図を回転させたのを見て、予想できた。すばらしい。そして、稲森さんも、吉田君はじめみんなに予想できるようにできて素晴らしい。稲森さん、吉田君、同じことを考えられた子に拍手。そして同じことは言えなかったけど、考えた子にも拍手。みんな頑張ったね。」と言ってみんなを見た。

 すると、稲森さんと何人かはまだ言いたそうな顔をしていた。それを見て先生は、「これだけじゃあないの?まだあるっていう顔している人がいるみたいだけど。」と言って、みんなを見た。聞いてそれを、おれも気が付いた。昨日、辺を少し回転させて、次の線対称の軸を見つけた。同じように頂点を少し回転させてやれば、次の線対称の軸が見つかるんだ。そうか。あれもこれもあっちも線対称の軸になるんだ。辺の真ん中で4本、頂点で4本。だから三神君は8本と言ったんだ。俺も「はい。」と手を挙げた。

 この後、数人の発表で花模様には8本の線対称の軸があることが確認され、各自、赤い線で線対称の軸を自分の花模様に入れた。

 最後に、練習問題として、㋐ひし形㋑平行四辺形㋒横にした凧の形が提示され、線対称な図形を選び、対象の軸を入れる問題をやり、まとめと感想を書いて終わった。

 俺は、線対称の軸は、1本だけじゃあないと、ちょっと回したり見方を変えたりすれば発見できることがあるんだと書いた。一生懸命やっていたら、時間が速く過ぎたと思えた。

 先生は、みんなの角様子を見ながら、「宿題やってきて、既習事項をしっかりして、他の人の発表を予想すると、自分の考えって広がっていくね。宿題を頑張ってきたみんな、発表を途中で止めてくれた稲森さん。その発表の続きを一生懸命考えたみんな。よく頑張りました。」と言って拍手をしてくれた。何かいい気持ちになった。


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