第6話 折り紙から図形の学習課題が出てきた

 二回目の算数の時間、先生は折り紙を出した。「昨日、これ折ったんだけど…」と言いながら、①風車を黒板に貼った。「私も作れる。」「舟もできる。」という声が聞こえた。その声を聞き、にっこり笑ってみんなを見回し、「そう、②舟も作りました。」と言いながら、②舟を貼った。それを見ながら「家もできるんだよ。」という声が聞こえた。また、にっこり笑いながら、③家を出して貼った。「先生、やるじゃん!」の声に、「他にも」と言いながら④兜と⑤鶴と⑥手裏剣を貼った。「兜は、新聞紙で作ると、かぶれるんだよね。俺達、幼稚園の時、被ったもんね。」と自慢げに石橋君。先生は、笑顔で聞きながら、⑦花模様と⑧蝉も貼った。「俺は立体折り紙できるぜ。」と言う本間君の声を止め、「折り紙で作った8つの形を見ていると」と言いながら、折り紙の形を画用紙に写し取った❶風車❷舟❸家❹兜❺鶴❻手裏剣❼花模様❽蝉に貼り替えていった。そして、「この8つの形の中には、〇〇〇な形があることに気付いたんだ。」と言って、「    な形」というカードを貼り、みんなを見まわした。分かってきたけど、松下先生が俺たちに何かさせたいときのやり方だ。俺は、何してほしいの?と思った。みんなもそんな感じだった。

 先生は、形が印刷されたワークシートを配った。図形の周りには点線がついていて、そこで切り分けるように先生が言った。全員切り取ったのを見ながら、「バランスのいい形って、あるかなあ?」と言った。俺は、バランスと言えば、やじろべえのように倒れない形だよなあと思ったが、どの図形とまでは言えなかった。

 子ども達が動けないのを感じたのか、先生は、「バランスのいい形の一つは❸家だと思います。どうですか?」と言ってみんなを見た。山崎君が「右と左が同じ形だから?」とつぶやいた。それを聞き、石橋君は、❸家の形を真ん中で折ろうとしている。周りの子が「石橋君、折っちゃいけないんだよ。」と止めようとしていた。それに気づいた先生は、「石橋君、何のために折ろうとしていたの?」と聞いた。石橋君は、「本当に右と左の形が同じか調べようと思った。」と言った。それを聞いた先生は、「ワークシートは、学習のためにあなた達に分けたものです。学習に必要なら、折っても切っても必要なことをやって結構です。ただし、人に迷惑をかけないことと、やった結果はみんなに知らせることを約束にしたいと思います。今、石橋君は学習に必要だから、ワークシートを折ろうとしていた。いいですね。やってください。」と応えた。それを聞きながら、俺も確かめたいという子が何人かいて、彼らも折り始めた。中には、家の周りの線を切ってから折る子もいた。勿論、俺も切って折ってみた。

 しばらくして、先生が「それでは、石橋君、折ってみてどうだったか。みんなに報告してください。」と言った。石橋君は、家の形に切った紙を目の前で折り、「折ったら、重なった。」とみんなに言った。みんなも「そう。」「僕もそうなった。」等の反応があった。それらを聞きながら、先生は、「バランスのいい形の❸家の形は、折ると重なる図形でいいですか?」と聞いてきた。「ハイ、いいです。」とみんなは応えた。先生は、8つの図形の下に、『折ると重なる図形』と書き、黒板の上に貼ってあった図の中から❸家の形をとり、言葉の下に貼った。そして、「家の形に切った図形を折りながら、重なりがはっきり分かるね。トレーシングペーパーに書かれた家の形で、透かして見ると、切らなくても重なりが分かるね。みんなの目なら、ワークシートでもできるよ。今回、線は少し太めで濃くしてあるから。」と言った。

俺は、❸家が、折ると重なる図形なら、他にもありそうと思えた。他の図形を折ろうとしている子もいる。先生は、みんなの様子を観ながら「何か思いついた人もいるようだね。家と同じ『折ると重なるバランスのいい形』は机の左側、それ以外は右側に置こう。人間の目と脳は、すごい。ほぼ平行と垂直を見分ける。同じように、見て感じる人もいる。自分で見て、これが折ると重なる図形と思った図形を折って確かめよう。ちがっらた、どこが違うか、青〇を重ならない両方の部分に書いておこう。ぴったり重なったら、折り目の線を赤にしよう。」と言いながら、❸家の形の折り目を赤い線にした。「それでは、できるだけやってみよう。時間は3分。用意、はじめ。」と言い、個人学習が始まった。先生は『バランスのいい折ると重なる形を見つけよう』と板書し、座席表をもってみんなの所を回り始めた。

 俺は、先生の言うように、❷舟と❺鶴は同じ部分があるけど、見て違うと思ったから、確かめる前に右側に置いた。❹兜を切ってから折ってみると、太い線が重なる。仲間だ。折り目を赤い線にして左に置く。この時、誰かに見られていると思い、顔をあげると先生が何かメモしていた。俺と目が合うと、ニコッと笑い「ちゃんと赤線引いているね。」とみんなに聞こえるように声をかけ、隣の子の方に行った。俺は次の❽蝉も切って重ねてみた。仲間だ。同じように折り目を赤い線にして左に置いた。❼花模様も折り目を赤い線にして左に置いた。❺鶴は、折ってみると胴体の部分は重なるけど、やっぱり頭と尻尾の先が重ならない。頭と尻尾を青〇で囲んだ。次に行こうと思ったら、「時間です。ワークシートを置こう。」と先生が言った。

 俺は、❷舟もすぐできるから先生の方を見ながら机の上で折り目を入れていた。それに気が付いた先生は、「何人か、まだ、手が動いています。みんな同じ時間でできないのは、わかります。でも、みんなで勉強するのって、どこかで合わせないといけない。私は、みんなの個人学習の様子を観ていて、今日の個人学習でやらなければならない最低のことは、全員体験できていました。続きは、話し合い学習の中で、発表しながらやったり、聴きながら確かめたりしていく。それでもはっきりしないなら、ちょっとやらせてと言ってやってみればいい。だから、今は話し合い学習に行こう。」と言った。先生、よく俺たちの様子を見ているなあと思いながら、そうまで言うなら、やめるよと手を下に置き、顔をあげた。

 いつの間にか先生の机の上に、それぞれの形がトレーシングペーパーにコピーされたものと、図形の形に切り分けられた画用紙が用意されていた。先生はそれらを見せながら、「具体的に説明するために、あなたのノートを黒板に写すか、ここに用意した透ける紙か、形の画用紙を使って発表していきましょう。誰からスタートしますか?」と問いかけ、みんなの顔を見た。周りを見ると、どうしようという顔をしている子が多い。そんな中、山崎君がまっすぐ手を挙げていた。先生は「今日は、山崎君にするけど、みんなも挑戦してね。時には、指名するから頑張ってよ。」に続いて「山崎、前で発表して。」と言った。さすが山崎君だよなあと思うと同時に、俺も手を挙げれば君よかったかなと思った。

 山崎君は、「❹兜を折ってみました。」と言いながら、先生が画用紙を切って作った兜の形を黒板の上で折り「ぴったり重なるから❸家の仲間です。」と言った。先生は、「みんなに分かるように、見せながら折って。」と言った。山崎君は、今度はみんなの方を向いて空中で折り紙を折った。そして、ぴったり重なっていることが分かるように、角度を変えて見せた。「こうやって、みんなに確認してもらうといいね。それから、これは家の仲間ですか?などと聞いてみて、みんなに言わせるのもいいよ。」と言った。山崎君は、「これは家の仲間ですか?」と真似して言ってみた。みんなも「仲間です」と笑顔で素直に応えた。

 先生は、「「うん。」とか「いいです。」といった反応は、どんな場合で言葉にる。その勉強の大事な言葉をみんなに言わせる発表は、わかったことを言うよりも理解を深める発表だと思う。みんなも挑戦していってね。」と言った。よし、今度は俺が挑戦するぞと思い、手を挙げた。発表の時、先生はみんなを見ていて、今、家の隣に兜を貼りながら「家の仲間は兜。」と言いながら、折り目を赤い線にして、「はい、福井さん。」と由香さんを指名した。由香さんは、「❽蝉も家の仲間です。半分に折ると重なります。」と言いながら先生の作った蝉の形をした画用紙を半分に折った。みんなを見ていた先生は、「どこを赤い線にするんだっけ?」とみんなに聞いてきた。みんなで「折り目」「折ったところ」などと応えた。それを聞きながら先生は由香さんに赤いマジックを私、折り目を赤い線にさせた。

 「まだあります。」と羽田君が手を挙げた。俺はもうやってない。話を聞こうと思った。「はい、羽田君。」と指名され羽田君が説明に入った。「こうやって❼花模様の上の辺の真ん中と下の辺の真ん中で折ると、ちょうど重なります。この折り目は、何色になりますか?」と言った。みんなは、笑いながら「赤」と応えた。「そうですね。赤ですね。」と言いながら羽田君は赤い線を引き「だから、❼花模様は、家の仲間です。」とまとめた。それを聞きながら、さすが羽田君、発表がうまいなあと思った。すると、「別の確かめ方があります。」と本間健一君が言った。みんな「えっ?」という顔になった。あのいたずら小僧の本間君が発表するの?という驚きと、羽田君が言った以外にもあるの?という疑問が渦巻いているように思えた。先生が「本間君、どうぞ。」と言うと、「羽田君は、縦に折ったけど、横に折っても重なります。」と言って先生から花模様の形の画用紙をもらい折ってぴったり重なるのをみんなに見せた。俺は、横に折ってもいいの?と思った。隣を見ると、石橋君は、横に折りだしている。発表の時、みんなを見ている先生は、それに気づき「石橋君、確かめようとしているんでしょ。いい心がけです。でも、自分一人でやらないで、「ちょっと確かめる時間をください。」と言って、みんなも作業が出来るようにしようよ。言ってごらん。」と言った。石橋君は、「確かめる時間をください。」とオウム返しで繰り返した。先生は、「いい意見です。3分間時間をとります。確かめてください。折り目で重なったら、赤い線にしてください。本間君の意見が正しければ、赤い線は2本になるんですよね。時間が余るなら他のことを確かめたり、何と発表しようかと準備したりしてもいいです。それでは3分間、活動はじめ。」と言った。

 俺は、本間君の言うように下を上に重ねてみた。ぴったり重なった。縦の折り目と横の折り目が赤くなった。線を引き終わると、花模様が少し回転した。今まで斜めの辺だったところが上の辺になった。だったら、斜めで折ってもできるかも?と思いやってみたら、できた。赤い線を引いた。これが出来るなら、もう一本もできる。全部で4本、赤い線が引けた。ニコニコしながら周りを見ると、先生が座席表をもってみんなの様子をメモしている。その時、先生が、「内田さんは4本引けたんだ。」と言った。「俺も一緒。」と自慢げに反応した。その時、山中君が、「俺は8本。」と言った。空気がザワザワっとなった。

 ピピタイマーが3分を知らせた。「時間です。発表になるわけだけど、時間が少ししかありません。今日のまとめと感想を書き、宿題の説明をします。まだ折り目があるのか調べたい人は、自主勉でやるといい。発見できてもできなくてもあなたの力を伸ばす基になるよ。」と言った。そして、「半分に折ると重なる図形を線対称と言います。」と言った。三神君が「ぴったり重なるから合同だ。」とつぶやいた。それを聞いた先生は、「三神君、前の勉強とつなげられるなんて、素晴らしい。二つの図形と見れば、例えば、右と左の図形は重なるから合同だ。合同で使ったことが使えるかもしれないね。」と言い、続けて「折った線、赤い線を対称の軸と言います。今日、みんなは線対称の仲間を見つけましたね。」と言った。今日の勉強で大切なこと一文、思ったことを一文は書く。そして、画用紙をあげるから、好きな形をつくり、どこか一つは赤い線にする。それをノートに写す。」と言いながら、好きな形を画用紙に書き、ハサミで切り、一つの辺は赤い線にした。「赤い線を軸にその図形を反対側にやる。そして図形を写す。合同な図形が書ける。」と活動しながら説明し、「そうすると、何ができる?」と聞いた。みんなは、できた図形を見ながら、「線対称な図形」と応えていた。「そう、線対称な図形を3つ書いてきて。使った画用紙は、その図形の近くに糊で貼っておいて。」と言い、A5判の画用紙を「名前書いておいてね」と言いながら分けた。

 何だか、すごい忙しかった。まとめと感想を書こう。線対称を勉強した。花模様の対象の軸は4本見つけた。本当に8本あるのかな?と書いた。書き終わったところで、チャイムが鳴った。先生は、「終わりの挨拶を先にしよう。その後、まとめと感想を書いた子からノートを出して休み時間にしよう。はい、終わりましょう。」と言った。

 ノートには書けなかったけど、折ったり、赤い線を引いたり、重ねたり、透かしたりして線対称についてたくさん勉強したと思う。俺は宿題でどんな線対称な図形を書こうかなと思ったけど、思いつかなかった。給食の時、先生が「どんな図形を画用紙に書く?」と聞いてきたので、「分かんない。」と力のない目で応えた。先生は、「そうかあ。」と言って、何か考えていた。

 帰りの会の時、先生が、「今日の線対称な図形を書いてくるだけど。」と言い、「先に赤い線を書き、最初はうっすらフリーハンドで書いていい。その線を線引きで濃く引いたり、コンパスで曲線にしたり、フリーハンドで濃い線にすればいいね。」と作業をやりながら説明した。「ただ、線の始まりの頂点は、はっきりわかるように●で分かり易くしよう。」と左側に動物の耳のようなものがある図形をつくり、赤い線でひっくり返して写し、線対称な猫の図形を完成させながら説明した。俺は、先生を見つめる目力が少し強くなり、言葉と活動をつなぐことができ、うなづいている自分がわかった。これならできそう。面白そうだと思った。

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