第5話 図形の既習事項ってそんなにあるの?

 6年生の算数、「対称」の授業が始まった。最初に松下先生が「図形や図形の関係について覚えていることない?」と聞いてきた。俺は、何を言っているの?と思い、首を横にかしげた。みんなはどんな様子か横目で見ると、どの顔も暗い表情だ。先生はみんなを見回し、「例えば、三角形ならどんな三角形があるか覚えている?」と言った。これならわかる。「正三角形」とつぶやくと、先生は頷いている。それを見た子が「二等辺三角形」と呟いた。先生は、「いいねえ。まだ言えるかな?」と言った。それを聞いて「直角三角形」や「直角二等辺三角形」が出てきた。それらを聞いて「いいねえ。」とつぶやき、「三角形の中には、正三角形、二等辺三角形、直角三角形、直角二等辺三角形」と再度言葉にしながら画用紙で作られたそれらの名前が書かれた図形を黒板に貼っていった。それを見ていた山崎君が、「四角形もある。長方形や平行四辺形」と言うと、桐山さんは「円や扇形もそうだろ。」と言った。それらを聞き、にっこりしながら先生は四角形の中には正方形や平行四辺形、円の中には円や扇形とつぶやきながらそれらの図も貼っていった。「それなら・・・」と言う子を手と「まだあるよね。」と言いながら、「でも、ちょっと待って。」と止めた。「いろいろな図形があることは思い出せたね。これ以上の横の広がりが必要になったら、自分でやって。」と言い少し間をとった。

「今までは広がりを見てきました。次は、深まり。」と言った。何それ?と思っていると、「どういうことかと言うと、二等辺三角形についてどんなこと覚えている?」と先生は聞いてきた。それなら、「二つの辺の長さが等しい」と俺はつぶやいた。先生は、「そう。そういう事。」と応えてくれた。すると、「下の角の大きさが同じ。」というつぶやきが聞こえてきた。先生は、「そうだよね。そういうことやったね。」と言いながら、二等辺三角形の図の下に、二つの辺の長さが等しいと、二つ角の大きさが等しいと板書した。そして、「この性質を図の記号で表したいんだけど。誰か覚えている?」と聞いた。

田中さんが、「あそこの辺とあそこの辺の長さが等しい時、チョンチョンという印を書いた。」と指さしながら呟いているのを先生が見つけ、「黒板の図にチョンチョンを書きながら説明してよ。」と田中さんに促した。田中さんは、もじもじしながらも前に出て、左の斜辺と右の斜辺を指さし、「ここの長さが等しい。」と言った。先生は、頷きながら、僕らの方を見ていた。僕らは「同じです。」という言葉しか出なかった。先生は、ちょっと間をおいてから、「だから、左の斜辺に棒の記号を入れました。」と言って田中さんにチョンチョンの記号を入れさせた。田中さんが書いている時から先生はみんなの方を見ていた。そして、田中さんが書き終わると、少しの間をおいてから、「どう?」とみんなに聞いた。「あ~」「やったことある。」「正三角形は三つの辺すべてに同じ記号を書いた。」等のつぶやきが聞こえた。そうだ、5年生の平行四辺形でもやったと思い出し、頷いた。先生は、みんなの反応を見回してから「やったねえ。」と言った。みんなはぬっこりして「うん。」と応えていた。それを聞きながら「こういうのを図に記号を入れるということ。」と言った。

それを聞いていて、伊藤さんが、「この角とこの角が等しい。」と言いながら、両方の底角の内側に弧を描き、そこに一本棒の記号を書いた。それを見た先生は、「素晴らしい。そういう事です。」と言った。角の反応は良かったので、すぐ次に行った。

先生は、「これらを、式で表すこともできます。」と言って、三角形の頂点に「A」「B」「C」の記号を書いた。辺ABをなぞりながら「辺AB=? イコールは、同じ長さと言う事ですね。」で言葉を止め、みんなを見た。俺は、それなら、辺ACじゃないの?と思っていると、石橋君が「辺AC」と応えた。先生は、「辺AB=辺AC」と言いながら板書し、「辺の決まりを式で表しました。」と言った。さっき図でやった辺の長さのことと同じだ。

だったら、角のこともできるのかなと思った。先生が、「∠B=?」と聞くと、みんな「∠C」と応えた。「そうだね、∠B=∠Cも書けるね。」と言いながら板書した。

 先生は、「三角形や四角形など、いろいろな図形を知っているという横の広がりと、二等辺三角形について詳しく知っているという深まり、そして二等辺三角形の性質について言葉や図、記号などで勉強してきた。こういったことが既習事項となり、これからの図形学習の土台となります。それと、もう一つ、図形と図形の関係についても、みんなは勉強してきました。それは、合同です。どんなことか覚えている?」と言いながら、またみんなを見回してきた。

 5年生でやったなあと思っていると、山崎君が、「ぴったり重なる図形じゃなかったかな?」と言った。先生は、「そう、ぴったり重なる図形だよね。この三角形、ABCで説明して。」と黒板に三角形ABCを貼りながら言った。「写せばいい」と誰かが言った。先生は、「そう、写せばいいね。時間が無くなってきたから、先生が写すよ。」と言って三角形ABCを基にチョークで三角形を書いていった。そして、「できた三角形は、ABCでいいの?」と聞いた。「違う記号を付けた。」という言葉に、「DEFとするね。」頂点にローマ字を書き、二つの三角形の下に、三角形ABCと三角形DEFは合同と板書してみんなを見た。俺は見られて、何かするの?と思った。

桐山さんが、「辺AB=辺DE。」と言った。それを聞き、「辺BC=辺CF」と言う子がいた。その後。「辺AC=辺DF」という子もいた。みんなを見回した先生は、「合同な三角形の関係で、辺ABと辺DEを何と言ったか覚えている?」と聞いた。何だっけ?同じ場所になるんだよなあと思っていると、三星君が、「対応する辺」と言った。先生はみんなを見回し、様子を観た。そして、対応する辺ABと辺DEと書き、図では矢印でつなげた。それを見て、内田さんが、「だったら、辺BCと辺CFも対応する辺。」と言った。先生は、違う色の矢印でつなぎ、「だったら?」と言いながら振り返り、みんなを見た。俺もみんなと一緒に「辺 AC と 辺D F が対応する辺。」と応えた。

その時、「先生、角でも言える。」と三神君。「∠A=∠D、∠B=∠E、∠C=∠F」と一気に言った。それを聞きながら、ニコニコ笑って「みんなわかる?」と聞いた。みんなが「うん。」と頷くと、「三神君。一気に言えるって、すごいなあ。でもこういう時に、∠Bと等しい角はどれですか?とみんなを参加させる。そうすると、三神君の力だけでなく、みんなの力をコントロールしているのが三神君だから、もっとすごい発表になるよ。」と、さらりと言った。あの天才三神にアドバイスするなんて、すごいなあと俺は思った。

先生は、「この辺と辺を対応する辺と言ったのを覚えているかなあ。」と聞いた。そう言えば、そんなこともあったかもしれないと思っていると、「『対応する』を使って、この辺の長さと角の大きさのことを言ってみてよ。」と言った。黒板には、「対応する辺」まで板書されている。これでいいのかなあといった表情の子が多い。そんな時、先生と目が合った。まずいと思ったが、遅かった。「修平君。どう?」と聞かれてしまった。俺は「対応する辺が等しい」と言った。先生は、「そうだね。」と認めながら、板書する時には「対応する辺の長さが等しい」とさらりと長さを付けてくれた。「最初、頑張ってくれてありがとう。だったら、どうなりそう?」と言いながら、みんなを見た。俺は、もう当たらないだろうと先生やみんなの顔を見ていた。本間君が当たった。「対応する、、、角の、、、大きさが、、等しいかな?」とつっかえながら応えた。先生は、「えらい。迷いながらも、応えようとしていた。挑戦していた。挑戦する子は伸びていくよ。」と言いながら、対応する角の大きさが等しいと板書した。そして、対応する辺と対応する角を線で結んでいた。「こんな図を書いた学級もあったかな?」と言い「図形と図形の関係も既習事項です。これらを利用して、6年生の図形の問題を制覇しましょう。」と言った。

そして、「今日の授業はここまで。既習事項で忘れていたことは写す。今日の授業の感想を書く。それが出来たらノートを出して終わり。挨拶は今から先にやっておきます。背筋を伸ばして、終わりましょう。ハイ、ノート書いて。」と言った。何か既習事項の振り返りで一時間終わってしまった。でも、俺達、こんな勉強をしていたんだなあと思い、少し考える土台がはっきりしたように思えた。感想には、「既習事項を使えば、本当に解けるのかなあ。本当なら、今日勉強した既習事項を使って俺も問題を解く。」と書いた。

家に帰り、綾姉に「今日、既習事項をみんなで言って1時間終わった。」と言ったら、「始まったねえ。」と返ってきた。「えっ、何が始まったの?」と聞くと、「松下ワールドに入っていくよ。思いっきり頑張りな。頑張る人は、必ずフォローしてくれる。そして、伸びていく。私の時は、周りの子がそうだった。だから、私も頑張った。最初から頑張れば、もっと遠くまで自分で行けたかもしれない。修平、遅れるんじゃないよ。必死でやってきな。」と気合いが入った姉貴の言葉だった。俺は、「分かった。」と言うほかなかった。と、同時に、あの姉貴がこれほど信じている松下先生なら、俺も信じていくべきかな?と思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る