第3話 サッカーの練習が変わった

 火・木・土は、サッカーの練習がある。今日は、火曜だから学校から直接いつものピッチへ向かった。その時、授業で疑問を言うことが大事だという話が心の奥に引っ掛かっていた。それは、サッカーの練習の時、コーチがパス練習で「ツータッチで対面の相手に返そう」と言うと、俺もみんなも相手をまっすぐ見てその場でトラップし、インサイドキックでパスをしている。試合の時、こんな場面はほとんどないのになあと思うけど、コーチに言われるからやっている。この練習、これでいいのかなあという疑問、聴いたら怒られるかなあ。

 練習が始まった。ストレッチの後、パス練習だ。コーチが「ツータッチ」と言った。みんなその場でトラップし、インサイドで相手にパスをしている。俺もいつものようにやり始めた。その時、大畑コーチが近くに来たので、「これって、その場でやらないといけないんですか?」と聞いてみた。コーチは、「どうしてそんなこと聞くの?」と聞いてきた。質問に質問を返すなんて、まず応えてよと思ったが、疑問が生まれた理由を言った。「それは、コーチ達が、いつも試合を考えて練習をしよう。練習のための練習では意味がないよと言うでしょ。試合の時、お互いに向き合ってパスをすること、ほとんどないもん。これは、練習のための練習じゃないかなあと思って。」と言うと、「修平!進歩したなあ。そう考えることが出来るって、お前の状況イメージ力が向上している証拠だと思うよ。修平が気付いたなら、みんなにも一緒に伝えよう。」そう言って集合の合図を送った。

 大畑コーチはみんなが集まるとみんなを見回しながら話始めた。「修平から、対面ツータッチパスは、練習のための練習になっているんじゃないか、と言われた。みんなはどう?」と聞くと、「トラップやインサイドキックの基礎を復習する意味でやっていると思った」と学君が応えた。「そう、自分のトラップやキックの質を向上させる練習としていい。みんなもそう考えていたと思う。もちろんこれでいい。でも、対面ツータッチパス。試合に合わせた練習にすることできないかなあと修平は考え始めたようだ。」と学君を認めたうえでみんなを見回しながら聞いてきた。

 みんな動くのは得意だけど、考えるのは苦手だから、口をとがらせている子や上を見ている子が多い。それを見たコーチが「学と修平がツータッチパスをしている所で考えてみるよ。学ぶから修平にパスが来た。条件は、ツータッチ目にはパスをするということだ。修平のトラップする場所は指定されている?」と聞いてきた。当然みんな「指定されていない。」と応えた。コーチが「修平、どこでトラップする?」と聞くので、「えっ、インサイド。」と普通に応えると、「他の所の人いる?」とみんなに聞いた。「俺ならアウトサイド」「足の裏」という応えもあった。

 コーチは、「そう、試合の状況をイメージして、その場に合ったパスをすればいい。トップ下にいるあなたに相手が詰めてきているのなら、あえてインフロントで浮かしてそれをボレーで相手の裏にパスということもある。キックする足の前にトラップするのが基本中の基本。でも、相手や仲間との関係、チームの戦術で、体の右外側に、左外側に、背中側に、浮かして等、トラップする場所やボールを置く位置は変えていける方がいい。修平が今までの対面ツーたちパスを試合に近い練習に変えようとしている。みんな、どうする?」と聞いてきた。みんな「修平のやりたい」と口々に言った。

 新しい対面ツータッチパスは、誰が言いだしたのか、「修平パス」と言うようになった。コーチが「みんなも思いついたことがあったらコーチに言ってくれよ。」と言った後、「修平パス、始め。」と言った。何かにっこりしながら練習した。

 いつも適当にやっている対面ツータッチパスの練習が、真新しく新鮮なものになった。前を向き合ってパスをする練習から、試合をイメージして自分の技術を使う練習になったから、パスが来るまでにいろいろ考え、イメージを行動に移さなければならない。自分のイメージした動きが出来た時、うれしい。ちょっとイメージより遠くにトラップしてしまい、ツータッチ目が大変なこともあるけど、次にどうすればうまくいくか考え試してみたいから、早くパスを返してほしいと思え、ワクワクした。しかも、「修平パス」なんて名前も付けられた。今日は今までで一番面白い練習になった気がした。

 家に帰ると綾姉がいた。「今日、俺、サッカーの練習のレベルアップしたんだぜ。練習の名前も修平パスなんてなっちゃって、俺って天才と思っちゃったよ。」とサッカーの練習のことを話した。「何が、どうしたの?最初から言ってごらん。」と姉貴が言うから、「サッカーの練習でも疑問を大畑コーチに話したら、その通りだとなって練習が変わったんだ。」とざっくり話した。すると、姉貴は練習内容には興味を示さず、「どうして急にコーチに疑問を言う気になったの?」と聞いてきた。「えっ、それは松下先生が疑問は大事だっていう話をしたからかな。」と応えると、「リンゴの話した?私たちの時もした。あれ聞くと、疑問を大事にしなくちゃと思うよね。」と言い、続いて、「と言うことは、修平一人でやったんじゃなくて、松下先生がきっかけを作ってくれたんじゃない。私たちの時もそうだったんだ。」と目線をあげた。そして、俺のサッカーの練習のレベルアップのことは褒めないで、「さすが、松下先生だよね。松下先生の言う事しっかり聞いて頑張るんだよ。」と終わった。

 


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