第2話 朝の話「疑問の価値」「話し方」「聴き方」「自分褒め」

 次の日、朝の話で先生が「昨日の授業像を掲示用に作ってきた。」と言い、前の入口の上に授業像を貼った。「みんな」「発表」「みんな」「解決」「楽しい」の所に吹き出しがついているが、言葉は隠してある。

 最初の「みんな」の吹き出しの中身をみえるようにしながら、「疑問を感じた子とわかったと思えた子、どっちが先に発表した方がいいと思う?」と聞いた。分かった子が発表すれば、みんなわかるから、わかったら発表すればいい。俺も分かったら、すぐ発表したいよと思った。誰かが「分かった子。」と言った。みんなが頷いた時、先生が「自分の疑問の応えにはならないけど、今やっている問題の答えになることを誰かが発表する。みんながいいですと言う。そこで、疑問のある子は、発表するかなあ。島田君、君なら発表するかい?」と聞いてきた。俺は「発表する必要ないジャン。問題の答えが分かったんだから。」と言った。

 すると、「そうだよね。でも、最初に思った自分の疑問は解けていないよ。その疑問がみんなにとっても重要なことを生み出す基になることもあるんだ。」と言ってみんなを見回した。みんなは、何が始まるんだろうと先生の方を見ていた。何人かと目が合ってから先生は、また話し始めた。「みんなも知っているリンゴが落ちるのを見て、ニュートンは万有引力の法則を発見していくんだ。」そう言って皆を見回す。なぜニュートンと思いながらも、その話は知っているので、俺は小さくうなずいた。それが合図のように先生は、また、話し始めた。「『なぜリンゴが木から落ちるの?』という疑問。それを解決していったから発見できた万有引力の法則。このように疑問の中には、素晴らしい可能性を秘めたものもある。だから、とりあえず、私は疑問を先に言ってほしいなあ。」と言いながら、最初の吹き出しを開き、①疑問や?②気付き③分かったことを見せた。「①②③の順番かな。疑問や気付きは、できるところまででいいよ。先生も一緒に考えてみんなで応援するから。」と言い、みんなを観た。先生がそう言うならいいよといった思いで頷いた。周りを見ると、みんなもそんな感じだった。

 それを確認し、「わかったことを言う人は、自分が分かったことを話すという意識から、相手が分かるように話す方に意識を変えてほしい。自分の言いたいことを言うという話し方ではなく、相手が分かったか確認しながら言うという相手の理解を推し量りながらの話し方にしてほしい。」と言った。まさに先生こそ、俺たちの理解を考えながら話をしてほしい。意味が全く分からない。俺は唇を尖らせ目を寄せた暗い顔になった。そう、俺は単純だから、すぐ感情が顔に出るんだ。周りにも暗い顔の子が沢山いる。

 そう思っていると、先生が俺達を見て、「ちょっと難しかったかな。それじゃあ、例を出すね。言葉で言うのと、図で話すのと、みんなはどっちが分かる?」と聞いた。少し間を開けて、みんなは「図」と応えた。「そうだよね、図だよね。だったら、発表する前に自分で図を用意すればいい。ノートに書いてあれば、この提示装置で写すから。」とみんなを見回した。「相手の気持ちを推し量りながら話すということは、相手のことを考えて、分かり易いように話しましょうという事。」とまとめた。それなら俺も分かる。最初からそう言ってくれればいいのにとも思いながら頷いていた。

 先生は続けて「全部答えが書いてあるのと、クイズのように□で隠してあるのと、どっちが楽しい?」と聞いてきた。授業でクイズをしてもいいの?と思いながら、わかればクイズの方が楽しいと思った。「クイズ」「□で隠す」とみんなが口々に答えた。「そうだよね。クイズ形式の方が楽しいよね。だったら、わかっている人は、そういう発表が出来るように準備をしてくれればいい。正しい答えを言えることも大事だけど、社会へ出たら、何人の人を納得させたかも大事なんだよ。新商品の発表(プレゼンテーション)なんか、わかってもらえなかったら、いくらいい商品でも売れないんだから。」と言った。何だか、今までの発表よりレベルが上がるなあ。俺はやめておこうかなとも思った。

 すると、「発表の仕方は練習します。また、うまくいかなかったら、途中まで発表し、この続き、やってくださいというのもいい。人の考えを使って発表できる人の方が、理解が深い。そういう思考の広げ方をしていくことは、続ける子にとっても、大変有意義な時間になるから。できる人が説明するのは、すんなり終わる。でも、わかったつもりになることが多い。半分かりの人が発表すると、溝があったり曲がっていたり、みんなで修正しながらわかっていくから理解が深くなる。とにかく、自分の思いを発表し、みんなでわかっていきましょう。」と言った。何かよくわからなかったけど、とにかく発表していこうと言いたいのかなと思った。そして、疑問を言う方が簡単だなあ。答えを言うのは、今までよりも難しくなるのかなあと思えた。

 続いて、「『リンゴがなぜ落ちるの』と言うことを聞いた大人は、そんなの当たり前だと共感や共有しなかったでしょう。普通の人は、そういわれれば考えるのをやめてしまいます。万有引力の法則は見つけられない。天才ニュートンだから考え続け、万有引力の法則にたどり着いた。でも、私たちは普通の人。自分の気持ちが分かってもらえなければ、もう疑問を話すのをやめようと思う。でも、疑問は自分たちを高みに導いてくれる可能性のあるものです。友達が出す疑問に対して、君はそう思ったんだねと共感的に受け止め、その思いを共有してほしい。」そう言いながら二つ目の吹き出しの「みんな」を開いた。「その先に誰もが分かる本当の解決があると思う」と言いながら「共感」「共有」(➡)「心からの解決」を見せてきた。

最期に「愉しい」の吹き出しに手をかけながら、「テストが出来ていい点をとるのは楽しい。結果が出ることで、自分の成長が分かるものね。でも、結果だけでないところでも、自分の成長を感じられたら愉しくなると思わない?例えば、漢字ドリルを今までよりも短い時間でできたら誰かに勝ったとかではないけど愉しくならない?それは成長を感じられるからだよ。同じように、今まで思い出せなかったことが思い出せると愉しくならない?それも以前の自分より成長していることを感じられるからだよ。決まった時間に勉強したり、自分から勉強したり、今までできなかったことが出来るようになると愉しくなる。それも自分が成長しているという予感があるからだよ。

テストの点というような結果だけでなく、今までの自分と比べ伸びたところは、途中経過でも成長だ。誰かの物差しではなく、今までの自分と比較して成長を感じられる自分の物差しをもってほしい。そして、成長を感じたら、「えらいぞ俺」とか「頑張っているね私」と声に出して自分を褒めてほしい。この自分で自分を褒める『自分褒め』が上手になれば、もっと挑戦する力が強くなる。もっと挑戦するのが愉しくなる。そして、伸びていく可能性が広がる。」と言いながら、吹き出しを開き、「自分の成長」「自分褒め」(➡)「愉しい生活」を見せた。’愉しい生活’を見せながら、「自分の気持ちや思いで感じる愉しいの方が広い意味なので、こちらの愉しいを使います。」と言った。何かよくわからないけど、先生はすごいことを考えているんだなあと思った。








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