その4 御前様死す。
夜が来た :
馨と馨子となごみ、そして無限が御祈祷所に集まる。
馨が呪文を唱え、集中する。
みな、静かに氣が動くのを待つ。
と、突然なごみ「あっ!!」
「何?! なごみさん、何かあったの?」
「分からない。すごい音。何か爆発した!」
実際、遠くで爆音す。
みんな固唾をのみなごみの様子を見る。
「お屋敷が、御前様の御屋敷が爆発した。」
「やつがやったの?」
「分からない。」
「お屋敷の人たちは?」
「分からない・・・・分からない・・・・何も・・・。」
なごみは集中して様子を伺う。
「来た。多分、あいつ、見える。」
なごみは鏡に映す。
「あ、やつだ!!」無限が小声で叫ぶ。
「持った。」「持った。」「持ったわ。」
御頭様が馨の仕掛けた勾玉を無限の勾玉と思い手にした。
「熱い!!」「大丈夫なごみさん。」「煙で見えない。」
「きゃ!!」「わぁ~!」なごみ凄い熱風受ける。
熱風は抜けるも、風圧が凄く周りの様子見えない。
多分、お頭様猛スピードで移動中。
★伏魔殿 :
御頭様帰宅。手下御出迎え。ご機嫌よさそう。みなほっとする。
御頭様、階段を上がり、正面扉開ける。
「家についた。」「見える?」「・・・・・。」
馨、なごみに氣を入れる。
「あ、扉、ん?」なごみ、「わっ!」どこかに落ちた感じ。
「歩き出したわ。すごく複雑な感じ・・・迷路みたな・・・。」
「うん。迷路だ。」
「扉、扉、扉、扉、扉・・・・。」
最後の扉が開いた。と、ぼ~と部屋に明かりが灯る。
「何か言ってる。なごみさん聞こえる?」
「う~ん。」馨、氣を合わせる。
「あ、聞こえた。」「話して、なごみさん。」
なごみ、御頭様の話す言葉を聞き取り話しだす。
〈ただいま、わたしの
御頭様が、お気に入りのゆったりとした椅子に腰かける。
そして、ポケットより勾玉を出し眺める。
「あ、男の子。」「あっ、無限っ!!」「ぅわ、わたしだ!」
〈やっと、この日がきた。どんなにこの日を待ったことか。〉
無限、げろげろ。一番鳥が鳴く。
「また明日。わたしの無限丸。え~と。
明日こそ、やっと、お前の微笑みがみられるのだね。
いい夢がみられそうだ。おやすみ、わたしの無限丸。」
「ぎゃ~、うぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」無限、虫唾はしる。
御頭様、勾玉をもって秘密の部屋を出る。
「階段、上がってます。」「奴の部屋だ。」「わぁ凄い。」
「悪趣味だわよ。」
「きゃ!」「うわ、すっぽんぽん。」「馨子ちゃん、見ちゃダメ!」
「え?」無限、馨子の目覆う。「見えないじゃないか!」と馨怒る。
「あとは寝るだけか。」「もういいかしら?」「うん、そうだね。」
馨、白紙広げ筆をたらす。
「さぁ、忘れないうちに屋敷の見取り図を写そう。」
「あの迷路、覚えてないけど。」
紙の上に馨左手でたらした筆が勝手に動き出す。
まず玄関を入ると手下が並び御頭向かい入れる。
広いロビー有り。階段あり、吹き抜けて回廊がまわる。
玄関正面階段1階昇り正面扉有り。扉開けて入ると階段無し。
落下。ここは飛び降りる。
着地地点、迷路の入り口。
「真直ぐ5歩。」馨子が言う。
「あと、どちらに曲がったかは分からない。
でも、歩数は覚えてる。」
「うん、真直ぐ5歩ね。」
天眼の記憶をたどり筆が動く。
「そこは8歩、次、2歩・・・。」
馨子が曲がる度、歩数を上げて右手で書く。
ついに扉。「扉は5個。」馨子が言う。
「勝手に開いたようだけど。」「霊力で開けたのかな?」
「鍵がかかってるんだろうね。」
「なごみさん、どうやて開けたか分からない?」
「・・・・・?」
「なごみさん、天宇受賣命の血を引いてるんでしょ。
扉の開け方、分からないの?」
馨、避難がましく言う。
そんなこと言われても、なごみには分からない。
なごみ、あからさまにムッとする。
「馨さん、式神使えば。式神飛ばせないの?」
と、なごみ意地悪く言へば、馨言い返す。
「再三言ってるけど、僕は超能力者でもなんでもないんだ。
何もない処から何も出てきやしないよ。」
「でも、僕はこうしているけど。」と、無限が言う。
「だって君は、元があるじゃないか。
勾玉から、
なんでもない紙を操るような技術、僕にはないよ。」
「虎の巻に書いてあったじゃない。やってみたら。」
「だったら馨子がやればいいじゃない。」
「無理よ、わたし、氣を使う力ないもん。」
「ごめんなさい。わたし、余計な事言って・・・・。」
「なごみさん、大人なんだから、
自分のすべきことは自分でしてくれなきゃ。
僕は、自分のことで精いっぱいなんだから。」
「ごめんなさい・・・。」って、何故わたしが、となごみ思うも謝る。
「なごみさんは、十分やってくれてるよ。」無限慰める。
「でもさ、馨。僕たち、中には入れなんだ。
天眼だけで探るのは難しいよ。」
「うん。それもそうだね。」馨ちょと考えこむ。
御頭様秘密の部屋出て寝室へ行く経路残す。
「あれ、迷路は別の道だ。」
お手伝いさんが朝食の準備ができたと呼びに来る。
「取り敢えずここまでだ。今晩もあいつ、あの部屋に行くだろう。
これでいいか確かめよう。まだ分からない所もあるし。」
無限御子達と顔合わせ:
顔を洗い身を整え向かう。既に、御前様の御子達いる。
「おはようございます。」そう言って、御子達、無限を見詰る。
「あなたが、無限丸さんですね。」
「はい。わたしが見えるのだね。では、御前様は・・・。」
「はい。多分、亡くなりました。」
馨と馨子は呆然とする。
「奥方様も? 他の方々も?」馨子が恐る恐る聞く。
「はい。恐らく。まだ知らせは来ませんが。」
「どういう事? っていうか、無限とはずっと一緒だったよね。
新宅儀の時も、しょっちゅう顔合わせていたじゃない。」
「ムゲン?あ、無限丸さんのことですか。
無限丸さんは、当主にしかその姿は見えないのです。
僕に見えると言うことは、つまり、そうい事です。」
「わたしには、ぼんやりとしか・・・でも見えます。」お嬢言う。
「えええええ!!今まで見えなかったんですか?」馨と馨子驚く。
「馨さん、言おう言おうと思ってたんだけど・・・・、
あなた達こそ、凄い力があるんじゃないかと・・・・・。」
なごみ、恐る恐る小さな声で言うも、馨聞き取れず無視。
「君たちの御父上は立派な人でした。残念です。」
無限が悲しみをこらえて言う。
「ええ。有難う御座います。」
馨子も馨も御前様たちの死を信じられずにいるが、
認めざるおえないのだと悲しく思う。
そして、自分たちが昨夜見たことを話す。
「僕は、何を?」
「君は、君の分を生きて下さい。
わたし達は、わたし達のやるべきことをします。
力を尽くしてあなた達に協力します。」
無限は、御前様の御子たちに誓う。
食事が済むと御子達と別れる。
「ねぇ、無限。どうして僕たちには無限が見えるの?」
「え?ん~。多分、君の言う『氣』ってやつが会うのだろうね。」
「そう。忍冬の絆ってやつかな。」「そうかもね。」
無限はふっと考える。そうであるのに何故、あいつ・・・。
「え、誰?」「いや、何でもないよ。」
「そういや、水縹の剣士、あの人に声かけられたって・・・。
お母さんにあげた人形、何故、あの人持ってるんだろう。」
「そうよね。いつか、また、お会いできるかしら。」
「さぁね。」無限はぶすっとする。馨が悪戯っぽく笑う。
「君と水縹の剣士は、氣が会うんだ。」「とは思えないよ。」
「だったら、その氣は、『悋氣』だ。」
馨は笑い、無限はムッとする。「なに、それ?」と馨子が聞く。
「なんでもない。」本当、何でもない会話。
なごみは、少年たちのたわいのない会話を微笑ましく思う。
こんな風に、時を過ごせたらいいのに。
子供らしく、少年らしく、少女らしく。
ひよりも、もう少し大人であったら、
こんな風に暖かく見守ることができただろうにと。
「なごみさん、扉の開け方、ちゃんと考えておいてよ。
開かない扉を開けるのは、あなたの本分なんだから。」
馨、また指図する。なごみ、やっぱり可愛くないとむっとする。
「取り敢えず、寝よう。夜に備えて。
なごみさん、今晩も頼みますね。」
無限、そう言い、それぞれの部屋に分かれ休む。
馨、人型を作り、虎の巻を見ながらもじょもじょ唱え、印を結ぶ。
ぱたりとも動かない。何度か試すも全く動かず。不貞寝。
馨子、尚も、虎の巻熟読。睡魔に襲われ眠入る。
お屋敷が俄かに騒々しくなる。多分、お屋敷からの知らせだろう。
身体を休めながらも、やはり、御前様たちの事がきにかかる。
それぞれがお屋敷の思い出し、悲しみに浸る。
特に、馨と馨子は、母のような奥方様を偲び寂しく思う。
★二夜目 :
日が落ちる。御頭様目覚める。
「起きた。」なごみ。
勾玉、部屋に置き部屋の窓から飛び立つ。
「出かけた。」「食事に行ったのかな?」「うわっ!生々しい。」
「帰ったら、教えて。」馨、馨子と虎の巻を見ながらごそごそする。
無限、馨が描き取った図面を眺め、図面通り動いてみる。
なごみ、集中して御頭様帰ってくるのを待つ。
「帰ってきた。」なごみの一言で、皆、鏡に集中する。
「きゃっ!」「あ、また風呂か。」御頭様は綺麗好きらしい。
身支度すると、勾玉に頬ずりし、窓の外を眺める。
無数の星が煌めく。
「多分、やつの部屋は最上階にあるのだろうね。」
部屋を出る。馨、図面と照らし合わす。馨子歩数数える。
階段を降り、玄関ホール昇りの踊り場扉開ける。
落下。迷路入口着地。真直ぐ、左、右、右・・・・
「ここは・・・5歩入る。・・ここ7歩だった・・・・。」
馨子訂正していく。扉、扉、なごみ扉が開くのを集中して見る。
やはり、どこにも触れない。扉は御頭様が前に立つと自動的に開く。
重さで開くのか、それとも他の何かであろうか。
最後の扉が開く。明かりが灯る。無限丸の姿が浮き上がる。
〈ご機嫌いかがかな、わたしの無限丸。〉なごみ音声化する。
御頭様、無限丸のケースの前に立つ。
〈やっと、魂が戻る日が来た。随分と長かったね。〉
御頭様、ケース開け、自分で掛けた封じ手解く。
〈さあ、わたしの為に微笑んでおくれ。さぁ。〉
「なんでだよ。」と無限、気持悪がる。
無反応。当たり前のことであるが。御頭様考える。
勾玉を割ればいいのかと思い、壊そうとする。
「まずい。壊される。」
天眼、衝撃うけて悲鳴に似た音をたて鈍く光る。
「わっ。」「ばれたっ?」「まずいな。」
御頭様驚き、勾玉眺め、無限丸にうっかり触れる。
〈うっ、つぅ~!〉〈あのクソガキがぁ!!〉「どのクソガキ?」
御頭様、怒りめらめら。また封じ手する。
〈あの陰陽師の子倅めっ。くそっ。〉
勾玉もとに戻る。御頭様、自分の封じ手の上から無限丸の頬触る。
「触るな、ぼけ!」「大丈夫。可能の封印効いてるみたいだ。」
「そういう事じゃない。気持ち悪いよ。」無限胸糞わろし。
〈あのクソガキめ、こんなことしやがって。〉
どうやら、御頭様、可能がかけた封印のせいで、
無限丸の魂が身体に入れないと思ったご様子。
むすっとした顔で椅子にどかっと腰を下ろし思考。
「ってかさ、なごみさん、クソガキんとこ凄く気持ち入ってない?」
「気のせいですわ。」なごみドキッ!
御頭様、勾玉置いて自分の部屋に戻る。
あ、置いて行った。」「まずいな。」「どうする。」
訂正を加えた屋敷見取り図見る。
「僕、行こうか?」無限が言う。
「危ないわ。」「うん、無理だよ。」馨子と馨が言う。
「でも、行かなきゃ。僕が行かなきゃ身体取り戻せない。」
「うん。でも、今は無理だ。」「今はやめた方がいいわ。」
「ってかさ、なごみさん、何か良い手無い?」馨がなごみにふる。
「・・・・・。」馨ため息。「ごめんなさい。」何でと思いまた謝る。
「なごみさん、疲れたでしょう。ゆっくり休んで。」無限労う。
なごみ自分の部屋に帰り、無限は馨たちの部屋に行く。
「この見取り図で本当にあの部屋までいけるかな?」
「実際、行ってみなきゃ分からない事もあるしね。」
「はぁ~、どうしよう。」みなため息。
「馨がね、式神の練習してるのよ。」
「馨子黙ってろよ、まだ全然だし。」馨子にばらされ馨ちょっと怒る。
「さっきもじょもじょしてたね。ごめんね、僕の為に・・・・。
苦労かけっぱなしだ。君たちに危険な目に会わせたり・・・・。」
馨子も馨もいつもと違う無限の様子に驚く。
「僕は、君たちには何もしてあげれてない。」無限落ち込む。
「何言ってんだ。ほら、腐れ縁ってやつさ。」
「可能も永遠子も僕のせいで死んだんだ・・・。僕の・・・」
「そんなことないよ。あいつに攫われたのが君じゃなくたって、
可能は、きっと、他の少年だったとしても戦ったよ。」
「そうよ。永遠子だって、あなたがいなかったら強いられた生活・・・
そういや、永遠子はあの後、どうなったのかしら?」
馨子は、鬼子に幻影を見せられ、気絶した後のことを知らない。
つまり、永遠子の最後がどうなったかを。
「永遠子も、あの騒動の後、あいつの犠牲になったんだよ。」
馨は、やんわりと濁す。残酷な記憶は思い出す必要はないと。
「そう。それが永遠子の運命だったのでしょう。
こうして、わたしたちが居るのも。宿世ってやつね。」
馨子は、無限を慰めようと微笑むも、無限は一層心が痛む。
「無限、無茶はするな。せっかくここまできたんだ。」
「うん。」
馨は無限の肩をぽんと叩く。
★お葬式 :
御前様とご家族の葬儀行われる。馨たちもお葬式の手伝いをする。
内々だが御前様経営の会社重役や隊の上役等主な者弔問に訪れる。
御前様自爆による家族道連れの心中と聞き馨たちは心痛める。
こと、馨は特に奥方様の死に対して受け入れられない。
馨にとって奥方様は特別な存在。
馨は母凪子が脳神経に障害を持ったのは自分のせいだと思っている。
馨子は何の躊躇いも無く凪子に取りすがって甘えもしたし、
奥方様に対しても屈託なく接することができたが、
馨は男子ということもあってか恥じらいもあり、
馨子のようにはできないでいた。
と言うのも、自分は目障りな存在のような気がしていたからだ。
自分が生まれたことで母の身体により負担がかかったのではないか。
また、馨子に対しても、若し、馨子だけであったなら、
こんな中途半端な身体ではなく、女の子として生きていけたのに。
そうであるなら、今頃、義伯母からも嫌われる事も無く、
娘として可愛がられていただろう。
隊に入ることも無くこんな辛い思いをせずに済んだだろう。
思えば、可能もそうだ。母からは母らしい慈しみを受けたことがない。
こうした思いは、輪廻転生、永久に昔の思いに縛られるのだろうか。
実母の愛情を受けずにきた馨は、奥方様に母の像を重ねる。
情感豊かで慈愛にあふれる奥方様は馨にとっては理想の母像そのもの。
御前様を憎むには筋違いな事は分かっていつつも、
奥方様を巻き添えにした御前様を恨めしく思う気持ちが拭えず、
馨は馨で気持ちの整理ができないでいる。
見知った人々の死もあって、馨、馨子、なごみらは心の調和を崩す。
そんなせいもあってか、馨は気が利かないとなごみに苛立ちを感じる。
時置かずして家督相続の儀行う。先祖・神々に報告。正式に家督相続。
若御前激しく頭痛。疫神『御守様』祀り少し楽になる。
無限、家督相続の後、少なからず造反有りと若御前に忠告。
★水縹の剣士と会う:
夜も深まり、若御前の介抱などし、馨たちは部屋に戻る。
それぞれの思いを胸に疲労もあってか皆無言。
部屋に戻る途中庭に佇む影有り。男が一人星空を見上げている。
無限はふっと足を止める。つられて、馨も止まる。
なごみはちらっとその様子を見ただけで先に部屋に帰る。
何か物悲しい。それでいて、静かに怒を燻ぶらしている。
その時、無限は、何故かその姿を美しいと感じる。
男らしい隆々とした肉体。迸る息吹。
その閑な佇まいが、その内で盛る火焔の一瞬が。
馨子が夢中になるのも分かる。そして、人の一生の儚さを噛みしめる。
こうした強靭な肉体でも、いづれは滅んでしまうのか・・・・と。
暫く、無限は見入っていた。不覚にも魅入ってしまっていた。
同時に、無限は、赤丸を思い出していた。
昔、義父が野党狩りで拾ったという鬼の子、俘囚の子だ。
勿論、赤丸は、野性的で粗削りで、男とは全く別な印象ではあるが、
男と赤丸、その真髄は、何か通じるものを感じる。
男は、ゆっくりと無限たちの方に虚ろに視線を向け、口を開く。
「嗚呼、君たちか。ここにいたんだ。」
馨子がはにかみ馨の後ろから控え目に顔を覗かせる。
馨と無限とそして馨子。3人を前にして男の表情が緩む。
男は、言わすもがな、水縹の剣士。一人ずつしっかりと顔を確かめて。
「そうだ、君たち2人が兄妹で、君はこの二人の仲間だったね。」
「そうだよ、おじさん。馨子に人形返してあげてね。」と無限が言う。
居場所が分かったのでここに持ってこようと水縹の剣士は約束する。
「どうしてあなたが母の人形持っているの?」と馨が尋ねる。
水縹の剣士は言葉足らすに凪子の最後を話す。
「最後の最後に、君たちのお母さんは、意識を取り戻したんだ。
君たち二人の姿をその目に捉えて、子どもたちを・・・と、俺は、」
「僕たち? かあさま、僕たちが分かったの? 僕も?」馨、驚く。
「そうだ。君も、君の妹も、ちゃんと分かって、
君たちに向かい手を伸ばして。」「かあさまが?僕に?」
「嗚呼、そうだ。」水縹の剣士は馨の様子を見て少し考え、
「お母さんは何もかも分かって、それは一瞬かもしれないけど、
最後まで君たちを心配して、慈しみの全てを・・・・」と続ける。
馨は押さえていた感情が、縛りが解けてか、自然と涙が溢れ出てきた。
水縹の剣士は馨の頭を優しく撫でてやり慰める。
馨子は馨とはまた違った感情で母を恋しく思い涙が出てきて、
出てきて出てきて泣き出す。二人はついに号泣。水縹の剣士困惑。
水縹の剣士、無限に視線向ける。無限助け船出す。
「おじさん、ありがとう。
よかったね馨。馨子ちゃんも。お母さんの最後聞かせてもらえて。」
そう言い、水縹の剣士から馨子と馨を引き取る。
「僕たちのかあさま、綺麗でしょう。」「ああ。」
馨と馨子は最後には気持ちも落ち着き、部屋へと戻る。
水縹の剣士は一人、星空の下、自分は母を知らずに育ったことを思う。
そして、凪子のその面影、温もり、香りが過る。
『嗚呼、確かに、美しい人・・・。』
母が子に向ける無償の愛。あの一瞬の輝き。そして儚さ。
自分には、最早、一生得ることのないあの慈愛に満ちた眼差し。
水縹の剣士は一人、星降る闇に、どこともなく消えていく。
馨子は、ぽつんと独り言を言う。「赤丸って・・・誰?」。
★伏魔殿 :
御頭様、一日の締めくくりに無限丸に会いに来るのが日課と分かる。
特に変わることなく、数夜過ぎる。馨、未だ、式神操れず。
「来た。誰か連れてる。」皆、鏡を覗き込む。
「誰?」「神主さん?」なごみ、耳を凝らす。
〈結界解いてもらおうか。〉
神主のようないで立ちの男が、無限丸の前に突き出される。
腰が抜け、すごく怯えた様子。とても平常心ではいられない。
御頭様、ケースと明け、自分の封じ手を解く。
『ほら、さっさとしろ!!』『た・た・たすけて~!』
何か呪文めいたものを唱える。しかし、封印は解けず。
〈この役立たず。偽呪術師が。〉
御頭様、男の首筋に喰いつく。血どぶぁ~。
「きゃ~!!」なごみ失神。無限、馨、馨子固まる。映像消える。
馨子、ふっと何かが脳裏をよぎる。
なごみ、気がつく。心臓ばくばく。無限介抱す。
「なごみさん、大丈夫?」なごみ、はぁはぁして喋れない。
以後、御頭様、夜な夜な呪術師連れて来る。
「もう嫌!わたし・・・いや!」
どばっ、ぐえぇ、ぎゃはっの連続。なごみ、ついに拒絶。
「だいたい、どうしてあたしなの? なんでわたしを呼んだの?」
「あなたが応じたんじゃない?」馨が言う。
「嘘よ!!そんなの。」「嘘じゃないわ。」馨子が悲し気に言う。
「そんなの出鱈目よ!」
「でたらめじゃない。馨の卜占が西を指したもの。」
「僕は、出鱈目になんかじゃない。根拠のないことはしないよ。
お父さんから教わった様に暦や星や資料見て計算したんだから。」
「だったら間違ったんじゃない。きっと東よ。いえ、北だわ。」
「何だって!僕のお父さんが間違ってるっての?!」
『ん?お父さん?僕の?』と馨子は思う。
なごみは二度と見たくないと部屋に籠る。
仲間内で不協和音が生じる。
「どうする無限。」「うん。刺激が強すぎたね。」
何度呪文を唱えようが、どんなに目を凝らそうが、
何も見えないし、何も聞こえない。
「やっぱり、なごみさんじゃなきゃダメだ。」「うん。」
「今夜はそっとしておこう。」無限が言う。馨子の氣も沈む。
「わたしも、あんな風に食べられたのかしら?」無限胸が痛む。
「永遠子は食べられてない。負傷したんだ。
悪い事は、無理に知る必要ないよ。馨子は馨子で永遠子じゃない。」
馨が言うも、馨子は永遠子の記憶を探る。
反省そして和解 :
誰でも、人が殺されるのを見るのはいいもんじゃない。
馨は馨子の心境の変化を感じ取る。このままでいい筈がない。
無限もまた、馨子に不安を感じるも、何もできないもどかしさ。
無限はなごみが残虐行為を見ないようにできないものか馨に頼む。
馨は難しいと改善の余地を見せない。
無限は、馨がなごみに対して冷たいと言い、
なごみは馨より年上であってもまだまだ子供だ。
それに世間知らずの田舎者だし、多くを望んではいけないと。
また、何にでも行き届いた奥方様とは違うのだとも。
馨は、無限のその言葉に反発を覚えるも、
馨子にこれ以上残虐行為は見せたくないとも思う。馨思案。
馨は、天眼の氣に合わせてなごみを調整。
その為、天眼が収集した情報は、なごみに嫌でも入ってくる。
ならば、なごみに天眼を合わせたらどうだろうかと思いつく。
なごみが見たくないと思えば、天眼からの交信を阻止できるだろうと。
なごみの気持ちに沿って操作できるよう、馨天眼の設定一時解除。
次の夕刻、なごみ説得の為、無限と馨、なごみの部屋の前に行く。
なごみに負担を掛けすぎたことを無限と馨謝るも当然ながら応答なし。
次の日も足を運び、今度は天眼をなごみ氣に合わせるからと説明。
当然ながら応答なし。
次の日も説得する。無限、そろそろあせりだす。馨、苛立ち始める。
次の日、遂に、「大人のくせにいい加減にしろ!」と馨ブチギレ。
無限はあくまでもなごみの自主性に任せたいと思い馨を制する。
「冗談じゃない!この今の今でも人は殺されてんだ。」と馨気が奮起。
だんまりのなごみ。怒りをつのらす馨。それを制する無限に
「これじゃ、奥方様や御子達の死が無駄になっちゃう。」馨訴える。
「くそったれ!!御前様に恩を仇でうるのか!」「言い過ぎだよ。」
「仕事もしない給料泥棒!恩知らずの田舎者!!」「もう、馨・・。」
なごみ、もはや黙っていられない。売り言葉に買い言葉。
馨子も馨を宥めようとするももはや聞かず。
「煩いんじゃ!くそ餓鬼が!
あんな残忍な場面、もう、見たくないんじゃ、ぼけ!
あんたに分かる?目を瞑ってもあの映像が追いかけてくるのよ。」
「だから、そうならないよう馨が調整してくれるって・・・。」
「わたしだって、御前様やご家族の死は悲しいし、
痛ましく思っとるわっよ。」
「だったらちゃんとしろよ!大人なんだから。」
なごみ、遂に襖を開けて仁王立ち。馨と激しく言い争う。
無限と馨子の入る隙なし。
「わたしだって分かっっとるわ。分かっとっても・・・・。」
と遂になごみ泣き出す。馨、驚く。
大人が子供の様に泣くとは思ってもみなかった。
無限、なごみを優しく宥める。
「馨、だから言ったろ。なごみさんはこれからなんだ。
これから、色々なこと経験して、大人になっていくんだ。」
「ああ、分かったよ。なごみさんごめん。僕言いすぎた。」
一応、馨となごみ和解す。
馨は、天眼をなごみの氣に合わせる。
御頭様は夜な夜な可能の結界を解く為呪術師を探しているが、
未だ結界解けず。呪術師もなかなか見つからない様子。
若御前の憂鬱 :
若御前は世襲相続後、正式に当主として活動始める。
朝は早く起き、神々に祈る。
先代からの秘書に仕事の説明と報告を受ける。
経理からは一日の収支報告受ける。
奥の事は女中頭指導の下お嬢が取り仕切る。
若御前、時々激しい頭痛に見舞われる。お嬢心配す。
卜占した処、霊障の兆し有。しかし、殺人鬼ではないよう。
無限、卜占とは別に組織内での不穏な動きを警戒。
御前様死亡早々重役若御前に鉱物採掘を申請。
先代は余り乗り気ではなく、許可を出さないでいた。
原風景が変わることへの懸念と鉱物の安全性に疑問有り。
しかし、先代の死後、鉱物採掘急速進展。
無限、調査申請。屋敷の外に出ること決心。
無限、馨と馨子に若御前の用事で出かけることを告げる。
馨に、屋敷の外でも十分活動できるよう依頼。
馨、自分も一緒に行くと言い出すも、無限許可せず。
書置きし夜明け早々出立。馨と馨子、こっそり無限の後を追う。
無限採掘所へ行く。道路の整備し山を切り開く準備。
土砂崩れなどし遅々として進まず。怪我人続出。
無限、現場に挙動不審人物見つける。様子伺う。
後ろに気配。馨と馨子追いつく。帰れと言うも最早遅し。
その男、見かけは大人しそうな人の良い感じ。悪人には見えず。
しかし、怪しき妖術を使い人足達の邪魔ことごとくす。
馨、霧切に手を掛けると微かに反応。人とは違うものを感ず。
人気のいない高台で男工事現場見下ろす。風下から様子見。
馨、印を結び足を踏む。男、ふにゃふにゃと崩れる。
中から手のひら程の黒いとげとげ現れる。無限捕える。
どうしたって勝ち目無し。観念して素性話す。
自分は古くから山に生息する古代栗の精モグリだと言う。
現場監督高橋の身体に入り、まんまと紛れ込むことに成功。
山を荒らされるのを嫌って妖術で邪魔。
速やかに山を下りてくれれば命は取らぬと言う。
無限がモグリを放してやると、モグリは慌てて高橋の身体に戻る。
高橋はすっくと立ちあがり逃げようとするも、また、無限に捕まる。
そして、人足達の帳簿を見せるように要求。
高橋、帳簿見せる。3人ばってんで消されている。
一人は病気で退職、一人は滑落死、一人は逃亡と思われるとの事。
「違います。違います。わたしは殺しちゃいませんよ。
本当の事故です。わたしじゃありません。」
「じゃ、もう一人は・・・・・?」「・・・・。」高橋言葉渋る。
無限攻め寄り、馨印を結ぼうとする。
「ああ、やめてください。話します。」高橋服を整えおずおずと話す。
「
狒々は、何処の頃から現れたのか、いつの間にかこの山に住み着き、
猿を手下に傍若無人な振る舞いで山の主に収まる。雌の猿だと言う。
「妖術も効かないの?」と馨子が尋ねる。
高橋、突然現れた少女にびっくりするも、
普通の人間ではないことを改めて感じ自分なりに納得す。
「相手も猿だけにさるもの。わたしたちの妖術ではとてもとても、
それに、弱みも握られていますし、全く歯が立ちません。」
母体となる古代栗の木を人質にとられ、
妻のヘグリは狒々にいいようにこき使われていると言う。
それに、人間の侵略は自分たちにとっても脅威。
利害が一致しただけで、仲間ではない。
山から下りてくれさえすればいい。故に高橋は人は殺してないとの事。
「わたしは話しましたよ。今度は、あなたたちの番です。」
無限は、警戒を少し緩めた。
「我々は、この山の持ち主の家人。無限に馨と馨子。」と無限は紹介。
もとより先代は山の開発には反対であったが、亡くなった途端、
鉱物採掘の事業が進み、何が起こっているのか見に来たと答える。
モグリは、少し、ほっとした様子を見せるも、無限たちに不信を持つ。
「あなたたち、普通の人間じゃないですね。」
無限は自分は影のような者で1000年近く生きる魂だと答える。
馨と馨子は普通の人間。双子の兄妹。馨は呪術が使えると教える。
「へ~。双子は知っていますが、
一つの身体に二人住まわっている個体は初めて見たした。」
馨子、そのいいようにむっとする。
「気に障ったらごめんなさい。」高橋全く悪意のない感じ。
無限は、狒々の巣に連れて行ってくれと高橋に頼む。
高橋歩く。山の奥を更に行くと開けた大地に出る。
水の流れが聞こえる。下を覗くと広目の河原と河の流れ。
河原から高台に向かい栗の木が群生。
高台の一番日当たりのいい所に巨木一対有り。
「立派な栗の木。」「凄いわね。」
「そうでしょ、1000年なんて若い若い。」
河原に下りると緑味がかった岩肌が見える。馨子、かけらを拾う。
岩は層になり透かして見ると緑の層に光が貫け淡い緑色をなす。
「この山一帯がその石でできています。
それこそがあなた方人間が欲するものですよ。」
高橋は忌々し気に言いうと河原の斜面の洞穴の前に立ち止まる。
無限はすぐさま中に入る。馨と馨子も躊躇いがちについていく。
高橋仕方なく渋々後を行く。猿がキイキイ鳴いている。
入り口は狭いが奥に行くと思ったよりも深くて広い。所々火が灯る。
要所要所で道別れ高橋は覚悟を決め無限たちを案内す。
猿たち様子伺い1匹狒々に高橋が来たことを知らせに走る。
狒々の間に出る。猿たちかしずく。ヘグリ、狒々の毛繕いさせられる。
「モグリか。丁度良い。お前を呼びにやろうとしていたところじゃ。」
狒々、子ども連れの高橋に目をやる。
「貢物か。やっと妾に従う気になったか。美味そうじゃの。」
高橋無言直立不動。無限睨むも狒々には見えない様子。
「お前に頼みがある。どうしたら妾は人間になれるかのう?」
「お前は人間にはなれぬ。」狒々顔を赤くする。
「お前にできて、何故、妾にできぬ。」
「わたしは5千年生きてきた。この大地と共に、水と空気と、
生きとして生ける全てのものと長い月日をともにしてるからのう。」
「妾は知っているぞ。お前が人間の身体をどう手に入れたか。」
狒々が合図すると猿が動いた。
「あっ!なごみさん・・・・。」「何で?」「なにやてんだ!!」
なごみ猿に猿轡されて縛られている。
「こめんあはい。」どうやら、馨たちの後を着いて来たらしい。
「美しい娘じゃ。これからどうして娘の体に入ればいい?」
「お前には無理だ。」「何お、ヘグリがどうなってもいいのか。」
狒々、ヘグリを自分の毛から摘まみ締め上げる。ヘグリ苦痛の表情。
馨子、ヘグリを心配するも、高橋気に留めない様子。
狒はモグリの巌とした態度に怒り心頭。ヘグリを握りつぶす。
「あっ。」馨子驚く。
狒々の手から煙のようなものが立ち上り、高橋の方へと流れ込む。
ヘグリはとげとげの形に体を変え、高橋の身体にしがみ付く。
「無駄だ。我々には形がない。何にでも混ざり合えるのだ。」
狒々、控えの猿がもつ剣をやおら抜きとり、なごみに向ける。
「妾は知っておるぞ。この娘の魂を追い出せばいことを。」
狒々は、なごみを剣の先で突っつく。なごみ、怯える。
「だが、その先が分からぬ。
妾はどうしてこの体に入ればいいのかのう?」
高橋は地滑りに巻き込まれ瀕死の処、モグリが身体に入りこんだもの。
「だったら、あなたの体切り裂いて魂とばせば?」と馨子が言う。
「お前はバカが。それでは妾が死んでしまうではないか。」
狒々、考えるも何も思いつかず苛々。
「この娘、殺してみるか。」剣を振りかぶる。
無限の刀はそれよりも早く、剣を振り払い、なごみの縄を切る。
「おのれ、妖術を使ったな。」狒々高橋睨む。猿ども大騒ぎ。
狒々、目をこする。「おお、小童一人まだおったか。」
周りの猿どもは無限に襲いかかるも歯が立たず。狒々、怒る。
奥の間に逃げ、それを追う。なごみ、よろけながら皆に着いて行く。
「まずい。わたしたちの母体が・・・・・」高橋焦る。
奥からキラキラと緑色の光が漏れる。
白く長い物が天井から幾重にも垂れ下がり複雑に絡み合う。
「ほほほほほ、モグリ、妾に逆らっていいのかえ?」
狒々は、上から垂れ下がる一番太い物を選びがぶりと噛む。
高橋、激痛走る。なごみ、高橋を介抱。
それは古代栗の根。狒々の棲家は栗の群生の下にある。
猿も追いつき、後ろから襲撃。無限応戦。
ヘグリ、狒々に飛びつき目襲うも払わられる。
狒々が怯んだ隙に、馨子、強烈な蹴りくらわす。
狒々、古代栗根の間の入り口まで飛ばされる。猿ども固まる。
馨、祓霊刀霧切に手を掛ける。「おのれ妖怪、成敗してくれる。」
狒々呆然として、身起こす。ちょっとくらくら。
「お前は何人を食らった?」無限が構え尋問す。
「妾は人など食ってはおらぬ。」「嘘を言うな。」高橋叱責。
「お前は長年、旅人や村の子供などかどわかし食らってきたろう。
わたしは、ずっと見てきたぞ。
恐らく、人足だって食らったのは一人だけではあるまい。」
馨、霧切抜く。波紋が荒れる。狒々、霧切の放つ氣にびびる。
「おのれ~!」胸が赤く発光。遂に正体現す。目を赤らめ巨大化す。
洞窟ぶち抜き土埃舞い上がる。差し込む光。塵が緑に輝き舞い踊る。
「吸っては駄目だ。口と鼻をふさげ。」高橋叫ぶ。
皆、隙間から上に這い上がる。太陽は、西に傾いている。
狒々が踏み出すごとに地響。洞窟が崩れいく。古代栗沈む。
ヘグリ高橋にしがみ付く。なごみ高橋を安全な所に引き上げる。
猿たちも這い上がり、戦いを見守る。なごみ負傷した猿たち介抱。
狒々は、馨を威嚇するも、馨は怯まない。
無限が援護し、腕を斬り付けるも皮膚が硬くて刃刺さらず。
振り回す腕をよけながら斬り付ける。今度は喰い込み狒々痛がる。
狒々逃げながら攻撃。無限応戦。気合を入れて心臓突く。
馨、氣を集中さ呪文を唱え祓霊刀霧切を祓う。
狒々の体、仰向けに倒れ、赤い光がぼうっと抜ける。
赤い魂は飛び回り逃げるも、馨、霧切にて結界描く。逃げ場失い静止。
ヘグリ、とげとげから抜け出、その殻を高橋投げる。
とげとげの殻はぱかっと開いて、赤い魂を呑み込みぱたんと閉じる。
なごみは、そのとげとげの殻をそっと両手に包み込む。
「大丈夫かしら?古代栗が穴に落ちてしまったけど。」
なごみが嘆くと、高橋は大丈夫だと言う。
多少枝が折れ、根が切れ、木は傾いてしまったが、
何れいいように落ち着くだろうと。
無限ひどく咽る。なごみゼイゼイとした咳。
馨は馨子が蛙の呼吸で息を吸わない様にするも、喉痛める。
「それより、早く、あなた方を浄化させなきゃ。わたしもね。」
高橋は無限たちを栗林の中へを連れて行き、呪文を唱える。
すると風舞い上がり、服の繊維、髪の毛1本1本までにも吹き込む。
そして、身体に付いた埃を全て払い吹きさっていく。
その間、ヘグリなごみの鼻から体に入り、口から出るを繰返す。
はじめ驚き、痛くて苦痛に藻掻き腹をたてる。
しかし、針のようなチクチクとした物を見せられて感謝する。
一人一人、皆、身体に入ったチクチクを取ってもらう。
猿たちもゼイゼイと苦しみ悶える。ヘグリ猿たちも取ってやる。
中には、間に合わずに呼吸困難で死んだ猿もいる。
無限はその様子を目に収め、出てきたチクチクを包んで懐にしまう。
無限、高橋に、このことを若御前に報告し、事業中止を約束す。
無限たち山下りる。猿たち、すっかりなごみになつき見送る。
高橋は、仕事場に戻り社員としてまた働く。
道中、馨、なごみに何故捕まったと聞く。
なごみ、馨たちの様子を見て、慌てて後をつけたと言う。
しかし、途中、見失って、猿に捕まったとの事。
「猿女巫女だけに、猿にもてもてじゃない。絶世の美女って・・・。
そのまま山にいれば、女王様にだってなれたかもね。」
馨、なごみに嫌味がましく言い、なごみむっとする。
無限、まただと思い中に割って入ろうとなごみにふっと目をやる。
「なごみさん、それ・・・・。」
なごみ、雌猿に巣食う赤魂、大事そうに両手で包み持つ。
「あっ!持ってきちゃったの?」馨、なごみを睨む。
「それは、モグリが栗林に治めてくれる手筈になってたのに。」
馨は、持ってきてどうするんだと文句を言う。
しかし、もう屋敷はすぐそこ。それに、日が暮れかかっている。
仕方なく、そのまま屋鋪に持って行く。馨何時までもぐちぐち。
★屋敷に戻る:
無限身なり整え、若御前に早速報告。持ち帰ったチクチク見せる。
人体に多大なる害有り、事業は即廃止することを進言。
若御前、赤字嫌がり今までの経費等考え渋る。
目先の赤字より将来の損失莫大。企業に痛手と無限説得。
また、見事な栗の群生地。山を整備し栗栽培を勧める。
若御前鉱物採掘解散命令下す。反発有るも強い指導力発揮。頭痛軽減。
馨、狒々の赤魂祈祷所に収め、ぐちぐち文句たれる。
部屋に帰っても文句ったれで、馨子耳にたこ。
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