第109話『紅茶まみれの姫騎士』
かの世界この世界:109
『紅茶まみれの姫騎士』語り手:ブリュンヒルデ
突然の砲声に満身創痍のシュネーヴィットヘンは慄いた。
船腹に大小六つの穴を開けられマストもへし折られたシュネーヴィットヘンは千トンあまりの注水で水平を保っている。そのため喫水は貨物デッキから一メートルちょっとしかなく、海面の高さと変わらなくなっている。そこに弾をぶち込まれればひとたまりもない。
しかし、その慄きは杞憂であった。
二発目の砲声が轟いても、船はおろか海面にも弾着の水柱が上がらない。ヘルム島から撃たれたのは礼砲なのだ。
そうと知れた途端に、船内の復員兵たちはデッキに群がってヘルメットやら小銃やら戦闘帽を振って応えた。振るものを持たない傷病兵たちは松葉杖や腕のギブスを振ったり、包帯を解いて白いテープのようになびかせた。
「すまん、四号の主砲を撃ってくれ!」
船長がタラップを滑り降りながら叫んだ。
そうだ、礼砲には礼砲で応えなければならない。しかし、シュネーヴィットヘンは輸送船、答礼するための砲が無い。
「わかった船長、弾数を聞いて礼にかなった空砲を撃つ。みんな配置についてくれ!」
「「「「ラジャー!」」」」
舷側に並んでいたみんなが声を揃えて車内の配置に着いた。
砲塔を九時の方向に旋回させ、主砲を最大仰角に上げる。
シュネーヴィットヘンの船長は大佐だ。大佐への礼砲基準は無いから准将待遇として十一発、領事待遇で九発か……なんと、元首待遇の二十一発を数えた!
思えば、一万トンを超えるオーディンの軍艦がヘルム島に来るのは初めてなのだ。しかも休戦協定に違反するパラノキアの攻撃を受けて傷ついているのだ。最大の歓迎と言っていい。
船と港の双方からヘルム湾を震わすような歓声が沸いた!
ムヘンこの方、戦ってばかりだったので、思わず眼がしらが熱くなる。ロキもケイトもテルも礼砲を撃ち終わるとハッチから身を乗り出し、他の復員兵たちと同じように帽子やらスパナやら薬莢やらを振っている。タングリス一人操縦席に収まってポーカーフェイスだが、うなじが紅く染まっている。素直に感激すればいいのにと思う。
わたしは堕天使かつ漆黒の姫騎士に相応しく鷹揚にコマンダーハッチをガチャリと開き。砲塔の上に聖グロリアーナ女学院のダージリンの如く泰然と立ち上がって左手にソーサー(分かるわよね、ティーカップの下のお皿)、右手にティーカップを持って、優雅に姿を現す。
あいた!
無様な声をあげて、ドジを踏んだローズヒップのように砲塔の上でひっくり返ってしまった。
「な、なにすんのよ、ポチ!」
そうなんだ!
パラノキアの対巡洋艦戦の時のようにダッシュで飛んできたポチがわたしのことを避けきれずにぶつかってしまったのだ!
「すごいよ! すごいのよ、みんな!」
「何事だ、今度こそ首輪をつけるぞ!」
「港は、歓迎の人たちでいっぱいでさ! メチャクチャ可愛い女の子がティアラにローブを羽織って花束抱えて待ってくれてるよ! まるでお姫さまだよ!」
「わたしだってお姫様なんだけどな!」
「ブリの百倍は可愛いもん! みんな聞いてえ!」
「それって、港の女王とかのコンテストで選ばれた可愛いだけが取り柄のマスコットだぞ!」
くそ……漆黒の姫騎士を紅茶まみれにして、ポチは船内に触れてまわりやがった!
☆ ステータス
HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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