第103話『ヤコブの秘密』

RE・かの世界この世界


103『ヤコブの秘密』ブリュンヒルデ 


 



 自分はヘルム島の出身であります……


 

 舷側を並んで飛んでいたカモメが餌ももらえぬと羽を翻し、ようやく沈黙を破るヤコブ伍長だ。


「ヘルム島……」


 ヘルム島と言えばレーゲ海の宝石と言われるほどに美しい島で、昔から観光で栄えた豊かな島だ。


 観光以外にも海産物やレアメタル、真珠の養殖などが有名で、神の覚え目出度い安心安全の島だ。今次の大戦においても戦場になったことは一度もなく、父オーディンの知ろしめす地上において最優秀の土地と言われている。


 その優秀さは、島に父オーディンの部隊がただの一人も駐留していないことでも知れる。兵を駐留させないしヘルムから徴兵することもない。だからヘルム島出身の兵というのは技術畑の軍属か少数の志願兵に限られている。ヘルムの志願兵は軍属と共に高い技量を誇っており、実直で軍の内外から重宝がられている……のだが。


 そのヘルム軍人の有りようからはズレている。


「ヘルムの平和と繁栄には秘密があるのです、この秘密を知るのは島民以外には、主神オーディンのほかは、ごく少数の神々だけなのです」


「オーディンの姫たるわたしでも知らぬことなのだな……」


「意外ですが……」


 なんだ、こやつの目に一瞬浮かんだ憐れむような光は? 問いただすかどうか腕組みしている間にヤコブが語り始めた。


「島にはヤマタという主とも神ともつかぬものがおるのです……そのヤマタが四年に一度生贄を要求してくるのです」


「生贄?」


「はい、十七歳の処女を要求してきます。三年に一度奥つ城の神殿に供えるのです」


「食べられてしまうのか、生贄は?」


「分かりません、あくる日に行ってみると生贄の姿は無く、戻ってきた生贄もおりませんから……今年、その生贄に妹が選ばれてしまったのです。父は早くに亡くなって、母親一人で切り盛りしておりますので……」


 あとは言葉にならなかった。


 ヤコブは手摺に載せた手を祈るように握りしめた。


「それで島に戻ろうと……」


「はい、ゲペックカステンの中にゴムボートを忍ばせてあります。島に一番近くなったところで抜け出るつもりです」


「ゴムボートでか?」


「四号のエアークリーナーの一つがマイクロ船外機になっています」


「なるほど、そういうわけで四号を強化したのか」


「いいえ、整備に掛けては手抜きは有りません、北辺のグラズヘイムに耐えられる改装に手抜きはありません」


「キッパリ言うなあ」


「はい、戦車の整備は我が天職でありますから」


「そうか……この件は、わたし一人の胸に収めておくぞ」


「は、はあ……」


「ガッカリするな、わたしは、この部隊の隊長だぞ。決定権はわたしにある」


「はい」


「目を見ろ、わたしはブリュンヒルデだぞ」


 おずおずとヤコブが目を向け、小さく頷こうとしたとき、異変が起こった。


 船を挟んで水柱が二本立ったのだ!




 ズズッボーーーーーン!!


 な、なんだ!?


 


☆ ステータス


 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)

 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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