第82話『そいつの正体』
かの世界この世界:82
『そいつの正体』
誰だおまえは!?
みんなが思った。
四人が手こずった玄武を一撃で戦闘不能にさせたのだ、それも三十センチあるかないかの身の丈で。
いや、ほんとうにこいつがやったのか?
棚の裏側から十年ぶりに出てきたフィギュアのように薄汚れて精彩がない。なんとか魔法少女のようなナリはしているが、作り込みが甘く、千円の福袋の埋め草にでも入っていそうで、薄情なユーザーなら即廃棄にしてしまいそうなやつだ。
アーーーーーー
なんとか口を開いたかと思うと、電池が切れたように白目をむいて真っ逆さまに墜ちていく。
ああ、待てーーーーー!
ブリュンヒルデを先頭に落下するそいつを追いかけた。
追いかけたわたしたちよりも、四号戦車の上で見上げていたロキの方が早かった。
地上に到達する数秒前には気づいて、四号の砲塔の上で脱いだシャツを広げて待ち構え、落下地点を見定めるとジャンプしてシャツで包み込むようにしてキャッチした。
ムヘン川でカエルを投げつけられたときから思っていたが、ロキは運動神経がいい。
「取ったあああ!」
乱暴な言い回しの割には、やさしく保護していた。
「なんなんだ、そいつは?」
ブリュンヒルデの問いかけにも、しばらく無言のロキ。
やがて、そいつの顔だけをシャツから出して、ロキがしみじみ言った。
「こいつ……ポチだよ」
「「「ええ!?」」」
「温もりってか、オーラで分かる、理由は分からないけど……ポチが変身したんだ」
履帯の修理に掛かっていたタングリスもやってきて、そいつ、ポチを介抱した。
シャツから出したポチは、疲れ果てて眠っているようだった。
空中で見かけた時よりも、デテールがはっきりしてきて、1/6サイズではあるが、はっきりした女の子の形をしている。
「おまえは、ちょっとあっちに行ってろ」
顔を赤くしているロキを遠ざける。
「受注生産の限定フィギュアくらいになってきたぞ」
頬に赤みがさして、小さいなりに体のメリハリもハッキリしてきた。閉じた目には1/6にしては長いまつ毛がそよいでいて、ザンバラな髪の毛も手櫛で整えてやると、なんとも可愛くなった。
「これは服を着せてやらないと……」
シリンダーであったころの名残が、なんとも言い難く。このままではロキに見せられない。
ポチの服を作ってやる者と履帯の修理をする者に分かれて作業に掛かる。
「おまえは、履帯の修理な」
ロキの首を抱えて、わたしは履帯の修理組に入る。ブリュンヒルデとケイトがポチの衣装だ。
タングリスが重い履帯を起動輪の手前まで引っ張り出してくれていたので、作業ははかどった。
十分ほどで履帯の修理が終わる。
「まだまだだ」
ポチが気になって仕方がないロキを呼び止める。
「履帯のテンションを調整する。あと、ついでに整備もな」
タップリ一時間を整備にあてて、ようやく終了。
「もういいだろ?」
「まだだ、町長さんをきれいにしてあげろ」
砲塔に括り付けられている町長をきれいにしてやって、ようやくポチの衣装が出来あがった。
「ポ、ポチ……」
「ロ、ロキーー!」
ポチはベッチョリとロキの顔に貼りついて再会の喜びを爆発させた。
不可抗力ではあるが、ポチはロキの鼻と口を塞いでしまったので、あやうく窒息するところであった。
☆ ステータス
HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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