第81話『遭遇戦・2』


かの世界この世界:80     


『遭遇戦・2』     






 HPが満タンになった!


 セイ!


 トールソードを振り上げ反撃しようとすると、雲に擬態した融合体は霧消した。




 ブリュンヒルデのツインテール攻撃が効いたのだろうか……いや、違う!


 霧のように飛び散ったシリンダーは、四か所で再び融合し始め、それぞれ特徴を持ったメスシリンダーに化けた!


 北のそれは玄武(頭はドラゴン尻尾は蛇の巨大な亀)に、南のそれは朱雀(巨大な火の鳥)に、西のは白虎(巨大な白い虎)に、東は青龍(巨大な青い竜)に擬態した。


 メスシリンダーは、ただ巨大なシリンダーであるだけだったが、より具体的な姿を持ち始めている!


 ――テル!――


 一瞬地上のタングリスの声が聞こえたが、直ぐに沈黙した。


 代わりに、ツインテールをなびかせながらホバリングしているブリュンヒルデの目が険しくなってくる。


 そうか、わたしに指示を与えようとしたタングリスが思い直してブリュンヒルデに檄を飛ばしているんだ。




 分かっておるわあああああああああああああ!!




 ツインテールとソードを滅茶苦茶に振り回す! き、キレたか!?


「白虎はテル! 朱雀はケイト! 青龍へは我が! 玄武は四号が砲撃! 無理はするな、敵わぬと思ったら擬態していないメスシリンダーから片づけるのだ。かかれ!」


 ラジャー!


 それぞれが指示されたメスシリンダーに挑みかかった。


 玄武の腹の甲羅で爆炎が上がる、四号の75ミリ徹甲弾が炸裂したのだ。その効果のほどを確認する間もなく白虎にソードを振り上げる。ケイトとブリュンヒルデのアタックもほとばしる闘志として背中で感じている。よし、いい連携だ!


 シュボ


 白虎の真っ向から振り下ろしたソードはむなしく空を切った。避けられたか!?


 いや、白虎は3D映像のようなもので実態が無いのだ!


 フェイクだ!


 振り返ると、ケイトのアローもブリュンヒルデのツインテールも虚しく突き抜けたり空を切ったりするだけだ。




 実体があるのは玄武だ!




 玄武は四号の75ミリが命中して爆炎を上げていたんだ!


 目を転じると、玄武がタメながら地上の四号を狙い始めたところだ。


「四号がやられる!」


 四号はドイツ兵の馬と言われたほど信頼性のある戦車だが、あの玄武に突っ込まれてはペシャンコになってしまうだろう。タングリス一人ならば、激突される寸前に脱出もできるだろうが、子どものロキと石化したミュンツァー町長がいるのだ。ぜったい助からない!


「玄武を止めろおおおおおお!」


 ブリュンヒルデの叫びでわたしもケイトも突っ込んだ。


「カイナティックアロー!」


 ビュン!


 チュイン


 渾身の力で放たれたケイトの矢は玄武の表面を掠っただけで弾き飛ばされる。


「喰らえ! ツイントルネードオオオオ!」


 ブリュンヒルデのツインテールは玄武との摩擦で先っぽが燃えている。すかさずケイトが矢を放ち松明のようになった先っぽを吹っ飛ばしている。


 セイーーーーーーーーーー!


 玄武の中心をわざと外して渾身の突きを入れる!


 ガキーーーーーーーーーン!


 はじき返されるのは織り込み済みだ、衝撃で玄武の進路がわずかにズレた。


 ドッガーーーーーーーーーン!


 四号をわずかに外れて玄武は山肌に激突、木々や土砂をまき散らして、直後、飛翔しなおし、我々から数百メートル離れた上空まで上がると、我々を嘲弄するようにゆるゆると弧を描き再び四号への突入姿勢に入る。


「「「させるかああああああ!」」」


 三人同時に声をあげ、玄武の進路を妨害にかかる。


 そう、進路を微妙に変えるのが関の山なのだ。


 タングリスの操縦も見事で、妨害が不発に終わったときもきわどくドリフトさせて躱している。




 しかし、もう限界だ。




 ブリュンヒルデのツインテールはザンバラのショートヘアーになってしまい、ケイトの弓は弦が切れ、わたしのソードも真ん中でへし折れてしまった。


 まずい!


 おまけに四号の履帯が切れてしまった。


 四号は残った片方の履帯を動かしてグルグル回るだけだ。


 町長には申し訳ないが、ロキとタングリスだけでも逃げてくれ!


 そう念じた時、我々の鼻先を掠めて玄武に向かっていくものがあった。




 ズピーーーーーン!




 そいつは玄武の正面を掠めて、目にもとまらぬスピードで見えなくなってしまう。


 直後、玄武の速度が落ちて、酔っぱらいのような軌道を描いたかと思うと、上下逆さまになって静止した。


 なんと、玄武の鼻先が欠けて、尻尾の蛇が傷口を舐めている。


 効果があったのかなかったのか、玄武はしかめっ面をしたかと思うと、猛烈なスピードで南に逃げ去った。




 呆然と見送っていると、気配がした。


 あれは?


 振り返ると、1/6フィギュアみたいな妖精がヨタヨタと飛んでくるところだった……。




 


☆ ステータス


 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)


 白魔法: ケイト(ケアルラ) 


 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 

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