第71話 『ローゼンシュタット・4』 


かの世界この世界:71     


『ローゼンシュタット・4』   






 月は人を化かすという。


 タングリスが迎賓館に戻ってからも月を見上げていたせいだと思った。




「く、来るなああああ!」




 庭とホールを隔てるドアに手を掛けると、タングリスの慌てた声がした。


「どうした!?」


 緊急事態だ!


 腰の剣に手を伸ばすというデフォルトの行動をとりかけたが、戦車乗りのコスに剣は付いていない。


 代わりにモーゼルを引き抜くと傍らの窓の隅っこから中を覗いた。


 着飾った町の幹部たちが見えた……ような気がした。


 同じところから覗いていては気取られるので、ほんのコンマ二秒ほどだ。


 場所を変えて二度三度……人数は八名か……ミュンツァー町長、ゼイオン司祭、他にレセプションで紹介された幹部の男たちが四名。それに、こちらに背を向けているスタイルのいいドレス姿の二人の女性。


 たった今、声がしたタングリスは?


 うかつに見てしまったので、ゼイオン司祭と目がってしまった!


 ゼイオン司祭が組んだままの手をひらりとそよがせた。




 カシャリ……掛け金が外れて窓が全開になった!




「どうぞ、テルキ殿もお入りになって」


 司祭にニッコリ言われ、オズオズと窓枠を跨ぐ……そう広くもないホールなので、背を向けた女性の直ぐ横に立ってしまう。


「み、見るな……」


 と言われてしまうと見てしまう。


 数秒かかった。横に立っているのは、髪も整え、美しくドレスアップした……


「タ、タングリス!?」


 ホールが明るい笑い声に満ちた。


 タングリスが女の子なのは、ムヘンの流刑地で出会った時から分かっていたが、いつも軍服姿だったので意識しなかった。


 なかなか、どうして……同性のわたしから見ても、震えがきそうな美少女なのだ。


「お、おまえ、こんなに可愛かったのか……」


「み、見るなと言ったろおが!」


「いやあ、明日の降臨祭にはドレスアップしていただかなくてはなりませんので、ちょっと試着していただいておるのです」


 ミュンツァー町長が嬉しそうに言う。


「似合ってる……恥ずかしがるな。ほんとはまんざらでもないんだろ。こうやって自分で着たんだし」


 そう、自分から進んで着なければ、こんなバッチリな着こなしにはならない。


「ち、ちが……呼ばれて、ホールに入ったら、瞬間で、こうなったんだ!」


「え?」


 ゼイオン司祭がニヤニヤ笑っている。どうやら、白魔法で有無を言わせず着替えさせられたようだ。


「テル! わたしのことも見ろ!」


 初めて気づいた!


 タングリスの隣の赤いドレスは、自慢げに鼻の穴を膨らませてさえいなけてば、そして大口さえ開いていなければタングリスの倍ほどもキュートなブリュンヒルデであった。


「すごいぞ、まるでバラの妖精だ!」


「それが気に入らぬ。我は真正のナイトメア、漆黒の堕天使の衣こそ相応しいのだぞ!」


 そう言うと、ここのところ小康状態であった中二病全開の顔を半分隠すポーズをとる、まるで五更瑠璃、小鳥遊六花!




「やっと、捕まえてきた!」




 騒がしく入ってきたのは、わが相棒のケイト。ケイトに腕を掴まれてジタバタしているのはロキだ。


 二人とも、立派に王子・王女の出で立ちで、空中をプカプカ浮いているポチまでもがドレスアップしている。


「さあ、あとは慣れていただくだけです! さあ、次は……」


 一同の目が集まる。


「え、え? わたし!?」




 わたしについては省略……。


☆ ステータス


 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 



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