第70話『ローゼンシュタット・3』


かの世界この世界:70     


『ローゼンシュタット・3』    






 プリンツェシン・ローゼンの降誕祭にやってきたのは偶然だ。




 ノルデン鉄橋を通過する装甲列車が擱座して通行不能となり、ムヘンの首邑ムヘンブルグとムヘン最大の港湾都市ノルデンハーフェンを結ぶ街道はグスタフで途切れてしまい、街道上の宿場は足止めを食らった隊商や旅人で一杯になってしまった。


 やむなく街道を逸れた町か村で泊らざるを得なくなり、広げた地図で、たまたま見つけたのがローゼンシュタットだったのだ。


 見つけたのが、気まぐれ姫のブリュンヒルデなのだから、深慮遠謀などあるはずもない。


 それが、ローゼンシュタットの司祭で老白魔導士でもあるゼイオン・タングステンの予言通りで、横断幕やら迎賓館まで用意しての歓待ぶりだ。


「なにか隠していることはないのか?」


 歓迎レセプションが終わった後、迎賓館の庭にタングリスを連れ出して聞いてみた。


「無いと思うが」


「オーディンに会いに行くのは、オーディンとブリュンヒルデの間に確執……話し合わなければならないことがあるからなんだよな?」


「さすがはテルキ、ポイントを絞った質問だな」


「なんなんだ、その確執とは?」


「それは……意見が合わぬからなのだ」


「なにについての意見だ?」


「言えぬ」


「なあ、これから長い旅になりそうだ。できるだけ、信頼関係をもって旅をしたいじゃないか、思わないか?」


「思うよ。思うし、あんたのこともケイトのことも支持てはいるんだ」


「だったら……」


「ここで、あんたに分かりやすく説明することはできるんだが、それでは一面しか説明したことにしかならないんだ。そういう浅い理解は有害でさえある」


「しかし……」


「たとえばだ……」


 すると、戦車兵用の手袋を外して、ちょうど目の前のバラの花に止まった蝶々に手を伸ばす。見かけの割に男勝りのタングリスだが、こういう仕草は意外に女性的だ。


「蝶々の説明をしたいのに、目の前にいるのは毛虫だったとしろ。説明を受けているあんたは蝶々を見たこともないとしろ。毛虫の説明をしても蝶々のイメージは分からないだろう、毛虫の説明をいくらしても本質である蝶々からは離れていくばかりだ。もし、蝶々の姿が見たいなら、もう少し我々に付き合ってくれ」


「蝶々ね……そんなふうにはぐらかすあんたは、可愛くないよ」


「ハハハ、これでもトール元帥の副官を務める軍人だからな」


「もう一つ聞いていいか?」


「答えられることならな」


 蝶々を離してやると、タングリスはわたしに向き直った。


「グスタフからこっち、クリーチャーには出くわさないんだが?」


「じつはな……クリーチャーと共生しようという奴らが居るんだ」


「クリーチャーと?」


「ああ、テルキ、あんたらがこの世界に来て出会ったクリーチャーはほんの一部だ。説明は難しいが、この世界にはいろんなクリーチャーが居る。そのクリーチャーと対決するんじゃなくて共生しようと言うんだ」


「クリーチャーとか~?」


「他にも事情はあるんだが、そいつらが、力で我々を……オーディーンの秩序を破壊しようとしている。その戦いがあるんだ」




 タングリス殿ーーーーぉ!




 迎賓館の方で呼ばわる声がして、ヒョイと肩をすくめて、タングリスは大股で行ってしまった。


 


 すぐに戻るのも億劫だ。


 ふと見上げた夜空には恐ろしいほどクリアーな月が浮かんでいる。


 そう言えば、マジマジ月を見ることなど久しぶり……思わず見入ってしまった。




☆ ステータス


 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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