第68話『ローゼンシュタット・1』

かの世界この世界:68     


『ローゼンシュタット・1』    





 どっちが早かったのか……



 峠に差し掛かったところで「停まれ」と、ブリュンヒルデは命じた。


 同時に四号は停車した。



 当たり前なら、車長であるブリュンヒルデが命じて、即座に操縦手であるタングリスがブレーキを踏んだということなんだが、違うのだ。


 タングリスは、自分の判断で停車している。同時にブリュンヒルデも判断して命じている。二人それぞれの判断なのだ。


 十日に近い旅で、その微妙な違いが分かるようになった我々だ。


「え? どうかした?」


 付き合いの浅いロキには分からないようだ。


「一瞬、Cアラームが反応したような気がしたんだ」


 

 ブリュンヒルデはCアラームを見つめる。Cアラーム(クリーチャー警報装置)は砲塔の天井にぶら下げてあり、砲手であるわたしの視界にも入っているのだが、アラームの反応には気づかなかったというかアラームは反応していないと思う。装填手のケイトも怪訝な顔をしている。


「タングリスは?」


「いや……ちょっと気配がしたもんでな。気のせいでしょ、進めてよろしいか?」


「ああ、前進しよう」


 ヨッコラショと動き出すと、バラの香りが車内にまで入り込んできた。


 そして、峠が下り坂になった瞬間、バラの花で溢れかえったローゼンシュタットの町が広がってきた。


 荒れ地同然の草原や灌木ばかりの、ゴルフコースで言えばラフやベアグランドのようなところを走ってきたので、お花畑のようなローゼンシュタットの町はため息が出そうなほど新鮮だ。



 パパパパーン!



 町の入り口に差し掛かると可愛い花火が打ち上げられ、『熱烈歓迎ブリュンヒルデ御一行様!』の懸垂幕が教会の尖塔に掲げられた。


「ようこそ、お立ち寄りくださいました! ローゼンシュタットの町を代表いたしまして、町長のミュンツァーがご挨拶いたします!」


 同時に、町のあちこちから手すきの大人たちや子どもたちが現れて、バラの花びらを撒きながら歓待してくれた。


「い、いやあ……」


 戸惑ってしまった、我々は巡回警備の分遣隊ということになっている。いわば、ただのパトロールだ。


 どこの世界にパトロールを町ぐるみで歓待するところがあるというのだ!?


 ケイトとロキは無邪気に喜んでいるが、我々は当惑するばかりだ。


「承知しております、ですから、お名前の下の敬称は記しておりません」


 ……なるほど、ブリュンヒルデの下には『姫』だの『殿下』だのの敬称は記されていない。


「このようにバラ以外にはなんの取り柄もない町です。なにもございませんが、我が町、我が家と思ってお寛ぎください」


 詮索も野暮なようで、我々は、とりあえずはミュンツァー町長らの歓待を素直に受けることにした。




☆ ステータス


 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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