第67話『腹が鳴る』


かの世界この世界:67     


『腹が鳴る』     





 ローゼシュタットに向かうには街道を西に外れる。



 西に外れるまでには宿場町が二つある。


 シュタインドルフを出てからベッドで寝たことが無いので、ホテルや軍の宿泊施設を横目に殺すのは努力がいった。


 燃料補給に立ち寄った補給処はちょうど昼食の準備中で、揚げ物のいい匂いがしていた。


「燃料補給が済めば、直ちに西に進路をとる。昼食は走行中にレーション(携行食糧)で済ませる」


 ブリュンヒルデの、ちょっとムキになった宣言は命令と言うよりは自分自身への戒めの響きがある。


 タングリスが車長にしたのは正解のようだ。ブリュンヒルデは与えられた立場によって変わっていく性格であるようなのだ。


 補給処の整備兵がエンジンとトランスミッションのチェックをしてくれて、予定よりも五分オーバーで出発。




 グーーーーーーーー


「あ~~揚げ物の匂いが離れないよ~」




 ロキが盛大にお腹を鳴らしながらグチる。


「あたしも……」


 歳が近いケイトも装填手シートでお腹を押さえている。


 この嗅覚的幻想が消えない限り大味なレーションを食べようという気にはならない。


 それにしても、この匂いはしつこい。恥ずかしながら唾が湧く。


「警戒を代わろう」


 半身を外に晒して警戒しているブリュンヒルデに声を掛ける。車内で腹の虫が鳴ってはみっともないのだ。


 身をよじってブリュンヒルデと交代……しようとしたら揚げ物の嗅覚的幻想が一段と強くなった。


「食べる余裕がなかったので調達してきた」


 操縦席から紙袋が差し出された。


 なんと、タングリスが人数分の揚げ物を、コッソリと仕入れていてくれていたのだ。


「いつのまに!?」


「停車するわけにはいかないが、食べてくれ」


 補給の間もタングリスは四号を離れていない、おそらくは、補給処の隊員とはツーカーの仲なのだろう。


 こういう気の利かせ方も含めてのコマンダーだということをブリュンヒルデに示しているのだろう。


「ローゼンシュタットの受け入れはいいのか?」


 揚げ物を受け取りながらブリュンヒルデが聞く。


「補給処の定時連絡で入れてもらっています、むろん暗号ですが。十マイルに差し掛かったところで、もう一度連絡、それは車長からお願いします」


「暗号でか?」


「これが暗号書です、ロキも勉強しておけ」


「オレも? うわー、なんだか数学の本みたいだ!」


 四号は、ローゼンシュタットを見下ろす峠に差し掛かろうとしていた……。




☆ ステータス


 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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