第21話『ダイブの鍵』


かの世界この世界:21     


『ダイブの鍵』  






 ドッシーーーーーン!!




 いまどきアニメでも使わないような擬音が鳴り響いてぶつかった。


 アイターーー!!


 これまたガルパンの知波単学園の戦車隊長が吶喊直後に撃破された時のような悲鳴が上がった。


「ごめんなさい、急いでたもんだから」


 スカートを掃いながら立ち上がって絶句した。


「け、健人! なに女装してんのよ!?」


「イ、イテーなあ……くそ、食べかけのトーストがあああああ、邪魔すんなよテル!」


 砂まみれのトーストの半分を投げ捨て、ズレたボブのウィッグを直しながら健人は行ってしまった。


「なによ、意地も誇りもないってかあ!」


 ドラゴンボールの敵役みたく仁王立ちしたわたしは小早川照姫(こばやかわてるき)と名乗るようだ。


 前回は三十年前の世界にデフォルトの自分で飛び込んだんだけど、今回は寺井光子に上書きされた人格だ。


 砂ぼこりを掃って、健人の後を追うころには、テル、小早川照姫の人格に成りきっていた。


 視界の左上はインターフェイスのようで。レベル・3 経験値・5 HP・55 MP・55と表示されている。




 他にもいろいろ表示があるが、先を急がなきゃならない。


 


 健人はつまらない賭けをしやがった。


 マヤのグループとどっちが先にダイブするかで賭けたんだ。


 マヤのグループは揃って成績優秀の上、スポーツも、それぞれ運動部の部長が務まるくらいの奴ばっかり。


 タイマンならまだしも、一対七、あっさり負けを認めれば恥をかくだけで済んだのに、マヤの挑発に乗ってしまいやがった。




 これ着て八時までに登校したら一緒にダイブさせてやるわよ。




 そう言って投げ出された女子の制服。


 恥ずかしい真似はやらせない! たとえ遅れてダイブすることになっても見っともない真似はさせない!


――馬鹿な真似はしねーよ――


 メールの返事に安心はしたけど、馬鹿な真似の意味がわたしとは違うんじゃないか?


 予感がして寄ってみたら、このざまだ。




 馬鹿はよせ……




 祈りながらの学校へ。


 昇降口を二階へ上がってすぐの教室に入ると、誰も居ない教室の真ん中に健人は立ちつくしていた。


「なんちゅー格好なのよ」


「るっせー」


 汗みずくの崩れた女装が痛々しいを通り越して不潔で惨めったらしい。


「テルとぶつかってなきゃ……」


「人のせいにすんな」


「あいつらだけじゃ勝てっこないし、俺が一人ダイブしたってどれほどのこともできゃしねーよ」


「ただのゲームに、なんでそこまでムキになんのよ」


「テルには分かんねーよ」


 そう言うと、健人は背中を見せて後ろのドアから出て行こうとした。


 あーーーイライラする奴だ!


「どこにいくのよ」


「屋上からダイブする。地上スレスレで飛べば追いつくかもしれない」


「99パーセント死ぬよ」


「俺なら行ける」


「止してよ、創立記念日の学校で女装のまま墜落死するなんて!」


「…………!」




 キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……




 健人が抗弁しようと息を吸ったところでチャイムが鳴った。


 健人の目からホロホロと涙の粒が落ちていく。


 どうやらチャイムがタイムリミットの合図であったようだ。




 分かった、わたしが付いて行ってやるから。




 無意識にポケットから出したのは……ダイブの鍵だった。


 


 で、ちょっと待って。この設定って、中学の時にプロットの状態で放り出したラノベの設定に似ている。ヘタレの幼なじみを異世界の中で鍛え直すって物語……その冒頭の部分に似ている。


 えと、このあとどうなるんだったっけ? 幾百と書いたプロットやアイデア、中には途中で挫折したのもあって、この先の展開が思い出せない……だめだ、チャイムがリフレインのキンコンカンコンを打ち始めた!


 ダイブの鍵。


 ……とても危険なものなんだというアラームが神か悪魔だかの啓示だかが頭の中で明滅している。




☆ 主な登場人物


 寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫の人格が上書きされる


 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される


 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 


 

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