第20話『みっちゃん飛んで!』


かの世界この世界:20     


『みっちゃん飛んで!』  






 あ………




 そう言ったきり中臣先輩は息をのんだ。


 ロンゲのお姫様カットで眉が隠れているのでとことんの表情は読めない。


 中臣先輩は表情の核心を眉に表す人なんだ。


 眉を見せてください……とも言えずに志村先輩を見る。キリリとしたポーカーフェイスで、さっきまでの陽気さが無い。


 消極的だけど、次の任務が大変なことを物語っている。




 モニターには、どこにでもある一軒家が映っている。


 


 二階建てで、カーポートと十坪ほどの庭が付いている。


 ラノベの主人公が住んでいそうな中産階級の見本のような家。今にもトーストを咥えた女子高生が飛び出してきそうな雰囲気だ。そして、最初の角を曲がったところで男の子とぶつかって――なんて失礼な奴!――お互いに思う。そして学校に着いたら、そいつが転校生でビックリして、そこからお話が始まるとか……。


「ミッチャンの思った通りよ、しばらくしたら誰かが飛び出してきて、角を曲がったところでミッチャンがぶつかるの」


「そんなラブコメみたいな任務なんですか?」


「ラブコメではないと思う。でも、そういうフラグが立っているのは分かる」


「そう、フラグなのよ……」


 志村先輩がマウスを操作すると、カメラが引きになりながら上昇……通り二つ向こうに学校が見えてくる。


「この学校が舞台なんですか?」


「これは小学校……見て、屋上の……」


「あ」


 それは、前の任務でも見た『白の丸』だ。


「この『白の丸』を『日の丸』に戻さなきゃクリアにはならないと思う」


「でも、それは、このステージの任務ではないと思うのよ」


「チュートリアルに毛の生えたような任務だと思う。白の丸に関わるのは、まだ先」


「初期設定は……HP50 MP50」


「時間が迫ってる。時子、ダブルクリックして」


「うん」


 中臣先輩がカチカチとクリックすると、ドアからトースト咥えて飛び出してきたショートヘアーの女の子……外股だ……え、女装男子!?


「時間よ、みっちゃん飛んで!」


「は、はい!」


 一瞬でホワイトアウトして、再び次元の狭間に投げ出されるわたしだった…… 






☆ 主な登場人物


 寺井光子  二年生


 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される


 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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