第19話『新しい任務が表示された』
かの世界この世界:19
『新しい任務が表示された』
白い闇の真ん中がドーナツ状に凝縮していき、二呼吸するうちにUFOのような発行体になり、拉致されるのかと思ったらリング状の蛍光灯だと合点がいく。
どこかで見たような……考えていると霧が晴れるように白い闇が消えていき、部室の天井だと分かる。
分かると同時に背中に引力を感じる。
何のことは無い、見えているのが天井ならば背中は床だ。床方向に引力があるのはあたりまえ。
どうも、わたしの感覚は視覚的なようだ。
気が付いた?
ギクッとした。
視界の左に志村先輩の心配顔。
ホッと吐息。
右側に中臣先輩。
突然見えたみたいだけど、さっきから居たんだろう。私の感覚は聴覚的?
「大変だったわね」
「そっと起きるのよ」
「あ、はい……あ」
上半身を起こすと部室がグラ~っと回って、わたしはカエルを潰したように腹這いになった。めちゃくちゃ気持ちが悪い。
体中の穴から寺井光子の実体が溶けだしてクラゲかバクテリアになってしまいそう。
ソロリと先輩の優しい手で上向きにされる……すると中臣先輩の顔がズ~ンと寄って来た。
どうやら抱き起されている……先輩の美しい顔はさらに寄って来る。先輩のロンゲがハラリと頬に掛かった。
ア……
わたしの口が先輩の唇で覆われてしまった。
生まれて初めてのキスが先輩……すると口移しに爽やかなものが流し込まれ、ビックリしたけど不快じゃない。
爽やかなものは、瞬くうちに全身に漲って平衡感覚が戻って来た。
「初めてだから次元酔いしたのよ」
「次元酔い?」
「口移しにしてごめんね」
「わたしの方が良かった?」
「茶化しちゃダメよ美空」
「ハハ、まあ、この次は自分で飲みなよ、このドリンクだから。冷蔵庫に冷やしてあるから、あとでもう一本くらい飲んどくといいよ」
「は、はい。ありがとうございました中臣先輩」
「よかった無事に戻ってきて……あれを見て」
先輩が指したモニターを見ると、映っている三本の柱の右端のが青みを増している。ようく見ると、柱は無数の小部屋と言うか細胞というかで出来ていて、その半分ほどが青くなっている。残りは赤や、どっちつかずの白。見ようによっては無数のフランス国旗が埋め込まれているように見える。
「ミッチャンのお蔭よ」
「わたしですか?」
「うん、光子がミカドの窓際に座ったんで、あの学生と営業見習い風の女は出会わずに済んだ」
「あ、あの二人……」
「二人が出会うと、二年後には結婚して子供が生まれるの」
「男の子なんだけど、五十年後に総理大臣になるんだ」
「そして国策を誤って、日本どころか世界をメチャクチャにするの」
「メチャクチャに?」
「うん、でも生まれないことになったから、多分大丈夫」
「あの青いところが安全になった世界なんですね」
「そう、青が安全。赤は滅亡、白は一進一退というところ」
「真ん中のひと際明るい青がね、ミッチャンが修正したところ」
「あ、でも……」
思い出した。わたしと出会ったことで三十年前のお母さんは死んでしまうんだ。
「そうなんだ。危機は回避したけど光子は生まれない世界になってしまった」
「それで戻ってきたんですか?」
「まあ……でも、あの世界は大丈夫だから」
自分が生まれない世界と言うのは釈然としないが、母親の事故死を防げなかったという衝撃は小さくなった。
だって、他の世界、真ん中と左側の柱には、母が生きていて、当然わたしも生まれている世界がたくさん残っているのだ。
「そして、ミッチャンが冴ちゃんに殺されない世界も、まだ現れていない」
「それって……」
「もうひと頑張りしなくっちゃ……」
志村先輩がノーパソを操作すると、モニターに新しい任務が表示された。
☆ 主な登場人物
寺井光子 二年生
二宮冴子 二年生、不幸な事故で光子に殺される
中臣美空 三年生、セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生、ポニテの『かの世部』副部長
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます