第25話 城里と始まりの歌
時刻は水曜日の午後十一時半。季節は夏。
城里は、お気に入りのアーティストさんの曲を聴いていた。
「……ん?」
そこで城里は何かに気づく。
「……こんな曲あったかな?」
そう、yotyubeに城里のお気に入りのアーティストの知らない曲があったのだ。
「……新曲かな?」
新しい曲でも出したのだろうか。とりあえず聞いてみよう。
聞いてみると、その曲はバラードだった。落ち着いた曲であり、人生に悩んでいる人への応援歌だ。
城里はこの曲に聞き入ってしまった。なぜなら城里の中で、もやもやしている部分が晴れたからである。
もともと歌うのが大好きで、小さいころから歌に熱中してきた。歌手になりたいなとも思った。だけど、自分の実力なんてわかっていたから言葉にしてこなかった。
そんな時、このアーティストのデビューシングルと出会った。そして、その曲が言っていた。
『味わった敗北の傷は、涙やって花を咲かせる。諦めろと笑えばいいさ。そんな言葉、僕は知らない』
その一言に衝撃を受けた。なんていったって、これが私の求めていた言葉だとすぐにわかった。
やれるだけやってみよう、そう思った。城里の心情として思ったら即行動が根本にはあったから、まずはそのことを親に話してみた。
最初は当然のことながら反対された。無理だとも言われた。だが、城里は頑なだった。一度やると決めたことはやる性格だった。
だから、バイトも始めた。ボイトレの資金も貯めた。バイトも先輩に仕事を教えてもらいながら、徐々に覚えていった。余談だが、その先輩は声優を目指しているらしい。同じ“夢”を追いかけている者同士、すぐに仲良くなった。
この城里の姿勢が評価されたのだろう。親から『やれるだけやってみたら?』と言われた。それが嬉しかった。これでやっとスタート地点に行ける、ここからが私の人生のメロディーラインだ。
ボイトレが始まってからというもの、辛いことも楽しいこともあった。否、辛いことしかなかった。楽しいことなんて、ほんの一割あればいい程度。
辛い時は何度も何度もそのバラードを聴いた。どうやら、何かのアニメの主題歌らしい。
「今度、時間を作ってみてみようかな」
アニメとか全く興味がなかったが、この曲が主題歌になったとなると話は別だ。
内容としては青春群像劇。どうやら、二期も決定したらしい。
楽しみだ。そう思いながらコンテストに出続ける城里。そして、関東大会出場が決まる。
それが、高校一年生冬の出来事であった。
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