雲間から射し込む陽光

 昨日友人がラインで教えてくれたんですよ。

「あの文房具屋の隣の喫茶店って夏緒はんの行きつけじゃなかった? 昨日解体されてたよ」

 なんですと!!

 行きつけだったよ! 解体!? そうなの!?

 とまあ、びっくり仰天しました。

 この文房具屋の隣の喫茶店っていうのがですねぇ、わたしにとってはとても大切な場所でして、今日はその只今絶賛解体中らしい喫茶店のおはなしです。


 その喫茶店は「喫茶チロル」といいまして、焦げ茶色のログハウスみたいな外観のちっさいお店なんです。

 屋根とか壁とかにグリーンを這わせてあって、重い扉を押して開けると内側のベルがカランカランって鳴ります。

 店内はオレンジ色の照明で、天井付近に小さなテレビがついてます。

 カウンターはぎゅうぎゅう詰めのスツールが6つ置いてあって、テーブル席は5つです。

 カウンターの向こうにはサイフォンが3つ並んでいます。

 昔ながらの純喫茶。

 わたしはそこに、生まれたときから18年間通いました。

 病院とかスーパーとかが近くてですね、母親がちょっと休憩するときによく連れて行かれておりまして。

 ご夫婦で経営されていて、わたしなんて生まれたときから知られてるもんだから、ちっさい頃から何歳になっても常に名前を呼び捨てにされておりました。

 わたしは二人のことをおっちゃん、おばちゃん、と呼んでいたんですけども、これがまたなかなか、客と店の関係を超越しておりまして、保育園の頃からちょーっとごそごそするだけでいつも怒られておりました。

「こら夏緒! ソファに膝立ちするんじゃない!」

「メニュー表をいつまでも触るな」

「水が溢れるから動くな」

「零したら自分で拾えそもそも零すな服が汚れる!」

などなど、親ではなくおっちゃんとおばちゃんが常に怒る。笑

 彼らに躾けられたといっても過言ではありません。

 祖父母のような存在でした。

 高校生になると、学校帰りや遊びの待ち時間にひとりでも立ち寄るように。

 サンドイッチ、ホットケーキ、オムライス、ナポリタンスパゲティ、チャーハン、オレンジジュース、ホットココア。

 あと何故か鍋焼きうどん。

 どれ食べても美味しかったです。

 3年くらい前に帰省したときに、旦那と子どもらを連れて遊びに行きました。

 二人は当たり前だけど老いていて、それでもなにも変わらないその店に酷く嬉しい気持ちになったのを覚えています。

 そして当時のわたしと同じように遠慮なく怒られる我が子たち。笑

 大切な場所でした。

 大切な場所なので、わたしの創作物にもちょいちょい影響が出ています。

 読んでくださった方しか分かんないと思うんだけど、現在放置プレイ中の『舞台女優』でゆり子はんが行こうとしていた喫茶店は、この店がモデルになってます。

 わたしが書いてる作品はよくオムライス食ってることが多いんですけど、この店のオムライスです。

 

 グループラインだったので、わたしたちのやりとりを見ていた別のお友だちが教えてくれるには、なにやら道路拡張の予定があるから移転するらしいとのこと。

 ってことはふたりともまだ生きてんのかな。

 なんて考えてちょっと安心しました。

 でももう、あの場所に行ってもあの店はもうないんだな。

 わたしがなかなか帰省をしないので、次にいつ帰るか分からないんだけど、これから道路になるらしいその場所を、最後に見れたら良かったのになと思いました。

 取り敢えず新しい店ができたらまた友人たちに教えてもらおうと思っています。

 いつになるか分かんないんだけど、顔を出したいと思う。

 

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