ホテルイマバリ(前編)
「
・17:30にホテルにチェックイン
・食事は20:00に1Fの宴会場で行う
・翌日の朝食は朝食用の会場で8:00から
・チェックアウトは10:00
・チェックインから夕食前までの時間と食後から翌朝の朝食前、朝食からチェックアウトを自由時間とする。
大浴場や部屋に付いてる風呂に入るも良し、ホテル内部や近辺のお土産屋さんを物色するも良し、ホテル周囲の施設を見て回るも良し。
公序良俗に反する事さえしなければ基本何をしようが自由。
……か。」
「尚しおりにも書いてある通り、大浴場は朝の6:00からも空いていますので、朝もお風呂に入りたい人は良かったらどうぞ。」
ホテルイマバリへと向かっているバスの中、僕は断っておかなければいけないことがある。
旅に何を求めるか、などは正直各々の勝手である。そして少なくとも、そうでなければならないと僕は思っている。旅をして、癒しを求めるのか、果てを求めるのか、あるいはそれよりももっともっと遠い何かを求めるのか。僕はこの旅の日記を深く青い人々の
バスの中でしおりを読み直しながら、正直に言って落ちてきた瞼をどうにか上げる努力をしながら、周りが奏でる雑音を耳で受けて右から垂れ流す。存外、これが心地よくて、もう赤いだけの西日が顔を焼く。朝日が焼く、黄色から白に変わる光とは違う、照りつけるようなことではなくて、消えそうな火の色。
「眠いのか?」
「少し。」
「もう少しで着くから、耐えてくれ?」
夕日に沿って揺らめく白黒の輪郭線が、まるで人と鳥の間というのか、否か、幽霊のようで、妙に安心する気がした。うつら、気を抜くと、宙がひっくり返ってしまうようで。
「なんとかして見せますよ」
ホテルイマバリへ到着まで後5分あるかないか、
といった距離だった。マイクを持って今日の日程のページを確認しながらアナウンスするミライさんが言うには、とっとと荷物を纏めろ……だそうだ。目覚めてくれ、僕。大丈夫、きっとホテルのベッドは良いベッドだ。僕は昔、修学旅行のホテルの部屋で、同級生に夜更かしを勧められたその5分後に寝落ちした覚えがある。同室になる予定の平城山さんがビリー・アイリッシュ流しながらベッドの上でステップ踏むイカれヤローじゃなさそうで安心している。ぐっすり寝られそうだ。
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17:30。春過ぎ頃の“夕焼けだぞ帰れチャイム”はこれくらいになる覚えがある。そういえば、もう何年も聞いてない気がする。
「みんなは、その辺のソファでゆっくりしてて」
継月さんが一人で受付のお姉さんの所に行って手続きをしている。広義ではあの人たちもパーク職員になるのだろうか?採用基準とか、色々と気になる所だ。
帰って来た芸人兼俳優兼園長さんがサッと出したカードキーを集合が19時という旨と一緒に受け取った。カードキーって言うと、しゅっとスライドさせるとピピピッって言うアレね、アレ。
彼によれば部屋割りは以下の通り。
301 継月ペア&澄禾
302 僕ら&平城山ペア
303 ペロペア&けもペア
305 風庭ペア&ローラン&ミライ
確か、これは予定通りだったと記憶している。空いた枠に代理が詰まってたりはするが、概ねは同じだ。あと、部屋の代表者は僕らしい。任せておいて大丈夫か?1ヶ月に一回は絶対水筒持って家出るの忘れる男だし、電車で寝てしまって1駅寝過ごしたりする男だぞ?
まぁ、ガワが真面目そうとは良く言われるのでそこを買われたと思っておくことにする。しかし真面目なのはガワだけだぞ、見た目からして僕は大嘘つきらしい。
しかしどうしようかな、ベッドの上でラジカセ抱えてそれこそ湘南乃風とかWANIMAとかを流すような人間が相手ではないとしても、僕らの関係など、無いに等しい。皆が各々の欲望を満たさんとして旅に臨んでいるだけなのだから、当然の事とも言えなくはないと思うけれど、他人に興味が無い結果だと言ってしまえばその通りと言うべきか、なんとすべきか、云々。
いろいろ考えていたところでその時になればまぁ済むだろう、とりあえずカードを構えてエレベーターに乗り込んだ。クソデカな溜息を吐きそうになって、深呼吸して、吐いた。
「あれ?平城山さんは?」
同室であろう彼がエレベーターに乗っていない。人混みは嫌いなのだろうか?まぁわかる。ジョフロイネコとコウテイペンギンとグレーターロードランナーがいるのでヒト混みというのは少し違うのかも知れないが。少なくとも息苦しさみたいな閉塞感と目のやり場の終着点の無さは、特筆すべき困難と言えよう。
「彼なら大丈夫だろう。なにか用事があったみたいだし」
コウテイさんがそういうので、そうなんだろう。
それこそ腹か何かを痛めていないといいんだが。
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暫くして宿泊する部屋に到着した。二人が来るのは…………しばらく後だろうか。なにせ広い上に階層もかなりある。エレベーターがあるとはいえ我々の後にもう1グループ控えていたはずだ。5分くらいは見積もっておこう。
「このあとは、どうする?しばらく時間があるが……。」
「彼ら二人もいますし、とりあえず訊いてからですかね。個人的には風呂にとっとと入りたいとは思いますが。」
南国で走ったのだ、察してほしい。この部屋について最初にしたことが部屋着への衣装チェンジだ。ゆるっとしながらギリギリ人前でも恥ずかしくない服を荷物に積んでおいてよかった。よくやったぞいつかの僕。
ところで、だ。
「あの人…………ほら、スミカ、でしたっけ。伏城 澄禾。あの人、誰なんです?」
嘘というのは全く素晴らしいもので、誰かを救うことも出来る。騙すだけが嘘ではない、優しい嘘もある。彼女の嘘もきっとそういう嘘だ。獣が人のフリをするように、他人が化物に見えるように。
それは神に化かされるのと、変わらないのかもしれない。
「…………さぁ。あまり、見ない顔だったな。」
「そうですか。まぁ、そうでしょうね。」
全く参ったものである、僕の故郷の近くではあの白い人はわりと有名神だ。いろいろと彼女が漏らした情報を整理していたらたどり着いてしまった。
だから誰だと言い当てようなんてつもりはない。ただ、あぁ、あんなものまで等しく少女になってしまうのか、と心配になるくらい。
とにかく触らぬ神に祟り無し、だ。過干渉は避けよう、ああいうタイプのソレは無礼を働くといつまでも憑き続けるなんて話をよく聞く。
「どうした、ぼーっとして。もうすぐ二人がくるはずだから、ベッドの使い方だけ考えておかないか?」
「あぁ、すいません。いや、どて煮と串カツが食べたいなぁ…………って。」
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