ゴコク観光……その後に


最初に断っておくが、僕は噓をついている。ここに居る皆にだ。なんなら読者諸君にも噓を吐いているまである。僕は大噓つきである。その嘘の正体を吐露するときは今では無いけれど、嘘を吐いているという事だけはここに明らかにしておこうと思う。そうはしなはのこ、と呟く時はくるのか、もしかしたらいつまでも噓つきのままかもしれない。でも、それで良い。旅は、嘘と事実と思い出で出来ている。



次に断っておくが、僕はこの女の事を知らない。

キリリ吊り上がった目、端整な顔立ちの軸になっているであろう高い鼻、流れるような白い髪、ふわりふわりと揺れるワンピース、シルクのようなあの髪を防護しているつばの広い白の帽子。

この目の前に現れた女性を僕は知らない。やけに神々しいのと白一色で統一された服装で八尺様か何かかと一瞬思った。Twitterでよく田舎のバス停で少年を食べているあの背の高い妖怪(?)にそっくりだ。……あと、ちょっと酢飯みたいな匂いがする。寿司の臭いがするというのか?槍を飛ばしてくるような気配はないし、カッコイイbgmも流れないし、とりあえず勇者半魚人というのは見当違いのようだが。




真白い彼女に出会うまでの話をしておこう。

イヌガミギョウブ様にお土産を届けたあと、集合場所の広場に僕らは向かった。僕らは一番乗りで戻ってきたので、他の参加者を待つことに。本来の僕の姿はこうだ、だいたい集合がかかれば集合の五分前には着いている。早く着きすぎて周りの散策に少し出ている間に待ち人とすれ違ってしまった経験……と寝坊の経験はあるが。あとリウキウのもカウントに入れとくか、汚点、汚点。

これがいまから遡ると……

だいたい20分前くらいか?


「あれっ?コウテイとタコ君じゃん。早いねぇ」


「あぁ、継月か。」


「どうも。」


いや、大体15分前くらいだったな、間違いない。この会話を交わしたのがそのタイミングだった。境内で待っていると、継月さんが一人で歩いてきた。鳩が豆鉄砲を喰らったような表情だった。そんなに意外だったか?


「ありゃ、二人に先を越されてたのか。一番手で到着したと思ってたんだけどね。」


どうやら意外だったらしい。

いやホントごめんって。


「先のリウキウでは遅刻してしまったので、少し余裕を持って動こうかと思いましてね。」


「そっか。……他の皆は?」


「まだ着いてないみたいだが。」


一応広場にも顔見せはしたが……まぁ一番乗りだとそりゃ見てないわけで。どうせ時間を見て動く心づもりだったのだから、他人を気にするつもりも無く……え?他人との旅の意味?となりのペンギン一羽じゃだめ?だめか。良いってことにして?……よし、良いってことにしよう。これでこの話終わり。


「皆、今頃ゴコクを楽しんでいる事じゃろうなぁ?……二人除いて。」


遠くを見つめてギョウブ様は言っていた。なんか言いましたよね?ちょっとぼそっと言いましたよね。……まぁ、いいか。


「さて、そろそろ皆も戻ってくる頃じゃろう。二人も麓へ戻ったらどうじゃ?ほれ行った行った。ワシは酒を飲むでの……。」


「そうですね、そうします。……行こう、コウテイさん。」


「……!あぁ、行こう。」


とりあえず促されたので、相変わらず呑むとおっしゃるのを見届けながら階段を降りることに。あのペースでお酒を飲んでいて果たして肝臓や腎臓は大丈夫なのかとかそもそも彼女たちにはそういう概念があるのかとか、とりあえず色々と思うところはあるが……まぁ体臭だけどうにかする努力をしてほしい、という苦情の対処だけ頑張ってくださいねと思うだけにしておく。


「あれっ、コウテイとタコくんだ~」


「やぁ、フルル。」


「な~んだ。俺たちが一番乗りじゃなかったのかよ~」


広場についた。時間にはまだ余裕がある。フルルさんとロードランナーさんが迎えてくれた。二人とも明るい表情だった、ちょっとうれしい。なんというか、安心感というか、旅人を迎える姿勢はこうでないといけないのかもしれないな、と思った。

……ところで、コウテイさんがフルルさんの持っていた袋をじっと見ていた、よほど気になるのか?あの……パンパンの袋。


「フルル、それは?」


「芋けんぴ~」


「なんつーか……随分な量っすね」


フルルさんが持っていたのは芋けんぴの大量に入った袋。マジでパンパンだった。よく食えるなぁと思いつつ、あの体の大きさで出せる力を維持するには結構な量食べないといけな……いやそれにしたって多いだろう。


「詰め放題やってたんだ~。ところでコウテイ達はどこに行ってきたの~?」


質問を質問と答えで返すn

……いや、それが正しいのか。

失礼。


「私達は一先ずアライさんのうどんを食べて、その後はあちこちを転々としていたよ。お土産を探すのも楽しかったな。」


「ええ。……途中、渦潮見た時にコウテイさんが泳いでみようかとか言ってびっくりしましたけどね。」


「うへぇ……渦潮のあったとこってナリモン海峡ってとこだろ?よくあんなの入ろうとか思えるなー……」


全くもって正論である。

ほんとうに耳を疑った。

全力で止めた。


「コウテイはたまに自主練で険しい場所行ってるよ~?」


「「嘘でしょ……」だろ……」


正気の沙汰じゃあない。

そんな会話をしていたら、見知らぬ女性がふらりと現れた。白い髪、白い服、白い帽子に酢飯の匂い。先ほど話題に上げた女性である。つまり、ふりだしのあれだ。


「あら皆さん、早かったですね?」


「……ミライさん、其方の方は?」


どうも同行していたらしいミライさんに訊いてみることに。

知らない、ならば訊かざるを得ない。


「彼女は……っと……」


えっ。知らない口ですか?待ってくださいよ、不審者の類なら連れ出した方が良いのでは?風貌のせいで妖怪かそれに準ずるものかと思って訊くのを少し躊躇った僕の身にもなってくれ。最初に断っておけばよかった、僕は素性のわからない人間に付いていかないように教育されたし、不審者は警察に突き出す方が良いと教えられた人間だと。


「ふふっ♪実はここからサンカイエリアまで皆さんに同行する手筈になっているんです。……でしたよね、ミライさん?」


「あっ、はい。そう、なんです。はい!」


「ふふっ♪まだ参加者全員が揃ってないようですし、自己紹介はまた後程……ということで。」


「は、はぁ……。」


スタッフ、もしかすると仕事さぼったのでは?

不審者さん笑顔でこの地の土踏んでますヨー!?




「あ、よかった合ってた。ただいま戻りました。」


暫定不審者さんはとりあえず真白さん(仮)としておくとして。

少しして平城山さんたちが戻ってきた。なんだか満足気な顔をしている。僕の予想……列車の駅の名前を噛み締めしゃぶりに行くのだろう……というのは概ね合っていたわけだ。アードウルフさんが眠い目を擦っている(物理)と見受けられたが、どこか安心しているようにも見える。張りつめていた物が消えたとでも言うか、風通しが良くなったとでも言おうか。


「お疲れ様です。トイレ行くなら向こうっすよ。」


「あー……っと。さっき、済ませました。」


このセリフは先駆者の特権だ、言えるだけで喜ばしい。不発でもいい。お手洗いにはしっかり済ませておくべきだ。ちなみに僕は時折下痢止めと仲良しだ、察してくれたまえ聡明な読者諸君。


「なら良かった。」


「け、けっこう心配したんですからね!」


「もう大丈夫ですから!……ホント、ありがとうございました。」


え?

なんかちょっといい雰囲気?

クソみたいなクソの話で?

……まぁ、いいか。いいとしよう。


その後酒の匂いを纏った神と、ソレのツマミ造りを任された芸人もとい継月さんが合流。なんか真白さん(仮)と話があるとかで、一瞬離れてさっと再び現れた。どういうアレなんだろうか、まあ知ったことでは無いが。どうせ姉御とかそんなノリなのだろう。背も高いし。八尺様と酢飯をサンドスターで煮込めばそうなったりしそうだ。

八尺利真白やつしゃり ましろ

……もうこれで良くない?

あの暫定不審者さんの名前。


まあいいとして。

風庭さんとけもさんもほぼ同じタイミングで帰還。あとペロさんも……何故か泥にまみれて森から出てきて帰還。磯の匂いやら泥の匂いやら、彼は自然を纏うのがお好きなのだろうか?良いことだ、大自然を謳歌出来るのはその人物に余裕と教養、そして人の心がある証明だ。


「……ターコタコタコじゃん」

「……だね、むぅーッ」


……とりあえず自然愛好家とは違うみたいだ。こっちみて死ぬ程睨んでくる。なんだろう?僕が一瞬キタキツネさんの匂いを嗅いでしまったのが気に食わなかったのだろうか?

キタキツネさんの睨む先はギョウブ様だったが、それも何か関係しているのか。あるいはこの真白さんが関係しているのか。キツネさんはそちらも睨んでいる。ただどちらかというと憎悪よりも、親戚を旅行先で見つけたような顔だが。


「皆さんお揃いのようですね。

それでは、この後は今夜宿泊する施設へと向かうのですが……、その前に、先程から皆さんの気になっていたこの方に自己紹介して貰いましょうか。」


おやおやそれはご丁寧にどうも。

ざんていふしんしゃ ましろおねえさん

の自己紹介が聞けるそうだ、ミライさんがさっきから苦笑い気味なのが気になる。この役回り嫌なら猫でも吸って来るといいと思うんですけど。


「皆さんこんにちは。ここからサンカイエリアまでご一緒させて貰います、伏城 澄禾ふしぎ すみかです。暫くの間ですが、宜しくお願いしますね♪」


げ、こっち見てウィンクした?

読心術が使える方が多すぎる、ジャパリパーク列島は読心術の国だったりするのだろうか?


「じゃあミライさん、そろそろアンインエリアへと向かいましょうか?」


「そうですね。あぁそれと、先程皆さんに渡したLMDS改めLAMSは、この後のエリアでも使いますので、失くさないようにしてくださいね」


あっさらっと修正しやがったこの人。

誰が作って誰が名付けたのかは知らないけれど、機械の名称は覚えやすくしておくべきだ。

Connected Autonomous Vehicle、略してCAVなんて言うのが最近ちょこちょこ話題なのだしそれを拾うのもありなのではないだろうか?

CAVは『つながる自動運転乗り物』みたいな意味で、要はまあICTで弄れる勝手に走る車といった所だ。ぴったりだろう?LBCAV、エルビーカーヴ。

どうよ?……いや、どうでもいいか。


「……お主、ぼーっとし過ぎじゃ。」


「え?」


どうでも良いことを考えていたら話が終わっていた、そして皆がバスに向かっている。あーっと。


「まあよい。楽しんで来るのだぞ。あと、嘘は程々にな。」


「貴方はお酒をね。」


「ヘッ、お互いやめられぬと知っているのにこんなことを言うなんてのォ。此方はまた呑むとすらァ、とにかく楽しんで来るといい。」


嘘も方便と言うのだから。

コウテイさん達を追いながら、その言葉をやんわりと思い出していた。


________________




やはりというか隣はコウテイさん。通路挟んで向こうのアードウルフさんと話しているようだ。一緒になんたら……かんたら……。ホテルまではどれくらいあるんだろうか?あんまり脳ミソを使って考えていないので話も真面目に聴いていない。それもまあ、どうでもいいとあきらめて。


嘘というのは全く素晴らしいもので、誰かを救うことも出来る。騙すだけが嘘ではない、優しい嘘もある。僕の嘘はそういう嘘だ。獣が人のフリをするように、他人が化物に見えるように。

それは神に化かされるのと、

変わらないのかもしれない。

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