ゴコク豊穣



最初に断っておくが、僕にはもう最初に断っておくことが無くなってしまった。僕は自分に正直でありたいと願う嘘だらけの人間だが、別にこんなことにしょうもない嘘をつく気は無いので思ったままを伝えている次第である。


ガタガタと鳴いているのは道かタイヤかとはもう知らない事だが、バスが揺れて、舗装のされた森のなかを進む。旅というのは永遠と続くこの景色を楽しむものなのかもしれない、時間という概念を忘れてしまうようだ。


「次はゴコクだったよな?」

「ええ、……イヌガミギョウブさんがいらっしゃるそうです。」


イヌガミギョウブ、漢字では隠神刑部と書く四国は愛媛県松山市に伝承の残る808匹の狸を纏めあげる化け狸のトップである。イヌガミとは言うがオオカミが敵で、飛鳥時代から生きているという妖怪全体で、妖怪カーストだとかなりの地位にいるそうだ。というか神らしい。

そんなものがフレンズになってしまうとはサンドスター畏るべしである、神だか妖怪だかなんでもかんでもあの虹色のキラキラに掛かれば女の子だ、サンドスターを操る神でも居るならそいつはきっと性癖が大変ぶっ飛んでいると見ておおよそ間違い無いだろう。


コウテイさんはさっきの話を引きずって居るのだろうか、難しい顔をしている。イヌガミギョウブという概念を知って、よくわからないなぁ、と言う感じではどうも無さそうだ。僕も適当言い過ぎただろうか、しかししょうがない。去るものを変に追ったところで何も変わらない。自分で出した答え、自分で招いた最後なのだろうから、我々が無駄な事を考えるような必要はない、まあよろしくやってこいよと言うしか無いだろう。それが例え出任せの嘘であったとしてもだ。



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しばらく揺られたあとだ。

ミライさんがいつも通りこれからの動向のさっくりとした説明があった。その中で、妙な物が出てきた。

Luckybeast Automation Maneuver System、

という、ラッキービーストが自動運転をしてくれるシステムが内蔵された腕時計型のアイテムだった。システムの略称を[LMDSランズ]というらしい……えっどこをどう略したんだそれ?

らっきーびーすとおーとめーしょんまにゅーばしすてむ、の中にDは無い、どっから生えてきたんだ。driveの頭文字取ろうとしてランズで名前通したらシステム名変わったとかそういうオチだろうか?つかどうあがいてもそれLMDSランズとは読まないだろ、なんつーかこう…ラムダスとかに成るんじゃないのか?なんか雨観測する……そうそうあれだあれ、アメダスだ。AMeDASみたいに成るんじゃないのか?違う?

…まあ文句言い続けても良くないし忘れよう。ラムダスだかアメダスだかランズだかラムレーズンだか知らないがソイツが運転を勝手にしてくれるらしい。便利だね。


そういえば、読者諸君は今頃花咲く春にいるだろうか?もしくはまだ寒い冬にいるだろうか、はたまた烈火踊る夏だろうか?この旅路は秋という事を覚えておいて欲しい。神通力か何かがあるのかは不明だが、どうも守護けものと呼ばれるものたちの領域は他の地帯の気候区分が所謂ケッペンの植生区分法で言う冷帯とか熱帯とかが再現されて固定されているその他の地帯とは違い、四季が存在するそうだ。しおりの端っこのコラムに、このパークで学者をやっている、節来という方の見解として今の話が載っていた。横にあった写真の冴えないながらもどこか芯のある細い目とフレームの四角い眼鏡が印象に残っている。


境内の中に続く石畳の中の燃えるような紅葉は高揚を我々に覚えさせる。木々の間、遠方には長く続く鉄道か何かの線路が見えていた。そういえば平城山さんは……あぁもうそっちばっかり見てるわ、彼はああいうのに目がないとかなんとかってご飯の時に聞いた。


……酒臭っ。いや臭っ。

石段を登りきり、光陽が差す森の最中を過ぎた。

その酒臭さの正体がいわゆるイヌガミギョウブのフレンズだという事は自ずと判明することだった。にしても臭い。っていうか「ぅぇ~い」みたいな掛け声出して女の子が立っちゃダメでしょ、顔赤っ!んで臭っ!今度はけもの臭……いのは僕の目の前に飛び出したキタキツネさんだった、あれ、意外とけもの臭さの後にいい匂いがするぞ。


「よう来たのう、待っておったぞ。…んあ?遅れてすまんだとぅ?なぁに事前に予定よりちとばかし遅れる旨は聞いておったし、お主達が麓の鳥居をくぐった辺りで出迎えの準備をしてたから問題はない。安心せィ。」


継月さんが話しかけに行ったのを聞いていた。なんでもお得意の神通力のお陰でこちらの動向は筒抜けだそうだ。……エッチなこと考えたらバレるだろうか?おっぱいおっぱい。


「……タコ?」

「はい?何か付いてます?」

「いや……何でもない。」


コウテイさんの洞察力すごいな、エッチな事考えるのはやめておこうと思う。肌色面積バグ神の事とかね、あれはマジでアウトだと思う。

コウテイさんもアウト寄りのセーフだと思うが。


「イヌガミギョウブじゃ。皆、パークの外からようきたな。

ここ、ゴコクエリアはパークの中でも特に自然に触れることの出来る場所である故、是非ともパートナーのフレンズと共に豊かな自然を見て歩くのも良いぞ。

あぁそうそう、勿論このゴコクエリアでも美味い料理はあるぞ?オススメはなんといってもコウガワちほーのうどん。これが酒の〆に持ってこいなんじゃよ。

最近はタヌキと良く似た…アライグマ、じゃったかな?そやつが店を構えた…とかなんとかで、中々盛況らしいぞ?」


流石に真面目に話を聞いておかないと怒られる気がするので聞いていた。饂飩が美味しいらしい……食べてばっかりだけど行こうか?


「うどん……」

「行きます?」

「……あぁ。」


決まりだ。

なーに結構動くから大丈夫大丈夫。



その後例のお名前間違ってますよバンドを貰って、腕にぐるん。おー、結構カッコいいじゃぁないか、僕はこういうのに心踊るタイプの男の子だ。名前間違ってるけど。


「集合は16:50です。それと…、先程のリウキウエリアではリウキウタイムと言うことでスケジュールを組む時点で最大で一時間の遅れは考慮してギョウブさんにもその旨は事前に伝えておきましたから特に大きな問題は起きませんでした…が、これからの行動ではくれぐれも時間に遅れる事が無いようにお願いします。天真爛漫で可愛いフレンズさん達の姿に時間も忘れそうになる気持ちは分からなくもありません。ですが、それを理由に遅刻…なんてことは絶対ダメですからね?」


あっミライさんこっち向いて言ってる、ごめんなさい、いやホントに。悪いのは完全に僕らなので文句言うとかそういうのは全く無いです。はい。

機械の名前間違ってるけど。


しばらくしたその後で解散になった。

行こう。ゴコクのそれが五穀なのかは知らない。




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ここではコウガワと言うらしい、所謂讃岐は香川県に対応する所辺りまで自動運転車に連れられて来た。他のペアと方向が被っていないのか、それとも時間帯が違うのか、兎に角ほかの人には会わなかった。

遠方へ広がる渇いた草原。それを横断する道とさらに遠くに広がる山脈。本土の香川もここまで極端では無いにしろ実は同じような風景だったりする。地理的に雨は降りにくく乾燥しており、水を貯めにくい。そして水を貯めにくい地域の穀物と言えば麦だろう、まあ絶望的な程ではないのでイネを作るのは別に困難ではなかったようなので小麦が作りやすかった、と言うべきか。地理的な意味を生む要因である山脈は四国産地と言い、中国地方、ここでいうアンインエリアの辺りの中国山脈と挟まれて独自の気候を持つのに至っている。小さな地中海のような気候というのかなんというか、Little Mediterraneanと言った所だろうか。なんだかホラーゲームみたいである。海があって麦があって、つまり塩が作れてだしの小魚を取りやすく麺を用意しやすい。なら作るものと言えば…


「おいしいな……!」

コウテイさんがすすり始めたうどんである。

「僕のもお願いします。」

「まっかせるのだ!」


アライグマのアライさんがうどんを手作業で頑張ってこねる、というなんだか前衛的しまった!うどんシリーズだ!な光景。だがこれが旨い。コシって言うのだろうか、のどごしがつるりとしており、醤油のだしが最高。それでもって大根おろしや生姜が乗っかれば……。

「旨い……!」

食ってみなッ!飛ぶぞッッッッ!?



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「余裕ですね、多分。」

「間違いなく一着だろうな。」


また神社に戻ってきた。遅刻するのはアレだし、イロイロ見て回ったのだが、大きく心引かれる物があるか……というと我々にはちょっと無かった。あ、渦潮はここにもあってそれは凄かった、コウテイさんが「泳いだら良い感じに厳しそうだな……」と言っていた。マジ?

その観光していない代わりと言ってはなんだが、それこそイロイロ見た道中で土産を用意した。ここのメンバーとも分け合って食べられそうなものを幾つか用意したので後で回そう。例えば、意外とさつまいもの生産がされているので大学芋……だったりとか、他だとうどんキット的なのも買った。おうちでうどんが食べれる優れものだ。


「んで、わしには発泡酒か。ん~この草原のような黄金。そそるのぅ……たまらんのぅ……ツマミにはカラスミとカツオの叩き……わかっとるのぅ……」


神に貢いでおこう、と思った訳ではない。あくまで気紛れで用意した。あくまで気紛れだ。良い機会だからためになればなあなんて思ってない。


「お主も変わり者よなァ、わしなんかに土産など……嬉しいが」


「嘘でも喜んで貰えたら嬉しいです。」

「私たちで考えて選んだんだ。」


コウテイさん僕の強がりの意味を消さないで…


「うむ、その謝意しっかりと受け取っておる。ありがとうよ。……そうだ、一着のお主らに良いことを教えておこう。


困ったら、

そうはしなはのこ、って言うのじゃ。

……のう、嘘つき?」


「ハハハ……そうですね。」


コウテイさんはきょとんとしていたが、僕は確かに大嘘つきだと言い切れるような人間ではある。もちろん不正してここに来たとかそういう意味では無い。僕は、紅陽が山に消えていき、それでぬれ少し間の抜けた彼女の顔の真っ直ぐさに見とれていた。






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