またやーたいリウキウ


最初に断っておくが、僕は遅刻した。

時間にして五分。

自分で言うのもなんだが、普段遅刻なんてめったにしないので焦っている。昼時の金輪は青いリウキウの天上の海に浮き、地平線の向こうまで続く細波の空はさらに熱く、吹き抜ける風はさらに強い。


「あっ!あそこだ!」

「えぇ、まだなんとか置いて行かれずに済みましたね!」


コウテイさんと運ぶ脚を止めずに約五分、時間にして五分だ。全く起伏のない道が多くて助かったというべきか、いや、なんというか、腕時計の指す時間もスマホの示す時間もピンチだぞって教えてくれたあの瞬間、世界の全てに見放されたと思ってしまった。そんな事をコウテイさんにぶつけたら、


「……面白い例えだね、私の味方も君だけみたいだ!」


なーんて返答が帰ってきた、

……そのせいだろうか、心臓の鼓動が止まらない。

なわけあるか、走ってればこうもなる。





「はぁっ、はぁ……おーい!」


コウテイさんが、集合場所に集まっている人々に声を飛ばした。


「すみません…遅れ…ました…」


人間なめるな、フレンズほど体力はないのだ。ともかく到着。表情を見る限り意外と怒られなかった……というかむしろ想定内というような顔をされている。


「いいよいいよ。寧ろ5分なら誤差の範囲内だから」


「怒ってないのか?」


「まぁね。リウキウタイムって言って、沖縄ではこういった集まりには少し遅れるくらいがちょうどいいのさ。あくまで11:50ってのは集合する時間の目安。それに、前もってゴコクで待ってるフレンズには予定より一時間くらい遅れるかもと伝えてあるし……」


ウチナータイムとか沖縄時間とかなんたらかんたら……というやつだ。集合時間に遅れてくる事などを指す言葉で、人にも寄るが1時間遅れまでセーフになる時もあるらしい魔法の言葉だ。まぁ公的な場でそれをやらかそうものなら、吊るされ捌かれ鳴き声以外を食い尽くされるだろう、僕が豚ならな。



「まぁ、こういうちょっとしたハプニングが度々あるのも、旅の醍醐味ってもんだけどな。「今のは旅と度々を掛けたジョークだな?」…えっ?」


「えっ?」


「はいっ、ライトじゃーないとっ!」


コウテイさんがギャグを説明した上、決めポーズまで掻っ攫った。いいぞもっとやってやれ。普段はフルルさんの役目らしく、まさかコウテイさんがやると予測してなかった継月さんは耐えられなかったらしく噴き出している。


「いやコウテイ!?今のは偶然だからな?それにそれ俺のセリフだし!まったくも~……」


「…やっと笑ったな、継月。ここ最近のお前は色々忙しいのか、空元気…とはちょっと違うかもしれないけど、どこか無理に笑ってるように思えたんだ。そんなお前がいくら面白そうなギャグを言ったって、観客が面白く感じるわけないじゃないか。まぁ多分、チンチラ達みたいに芸のひとつでも覚えた方がいいと思ったんだろう?」


「気づいていたのか…」


「寧ろ気づかれてないと思ってたのか?まったく…これでもフルル程ではないとはいえ長い付き合いなんだ、継月の考える事はそれなりに分かる。」


この人は芸人とかそういうわけじゃなくて、普通に一人の人間として、ここで生きてきたって訳らしい。そうしてここで生きる術のうちに彼のギャグってのがあるんだろうなきっと。

……にしても、妬けるな。僕に向けて言ってくれたような言葉を彼もかけられている。まぁ付き合いの長さの差ってやつはあるしこれは逆に、僕にあれだけの言葉をくれたその事実だけでも喜ぶべきか。そのあとのギャグはまぁやっぱり面白くなかった。


「で……フルルさん、今回はギャグの説明しないんすね。」


「したら雰囲気壊しちゃうよ。それに、あれはフルルがギャグの説明をして継ちゃんがそれに突っ込むまでがセットだから~」


だそうだ。

まぁ面白くないのはもう見慣れたし、構わない。



しばらくして、海草まみれのペロさんがニッマーっとした顔のキタキツネさんとここに到着して着替えに行ったり、サーバルさんという常時リウキウタイムを発動している存在が帰ってきたり……。

そうそうちなみに、僕たちが着いた時には既に平城山さんと風庭さんは到着していた。彼らは流石常識人と言ったところだ。


「そう言えば…。継月、あんかけはどこだ?もしやあんかけもペロと同じで着替えてるとか…?」


言われてみれば居ない。ロードランナーさんはすぐそこにいるので本人が居ないのは不思議な話だ、継月さんは何か知っているn……あーこれ知ってる顔ですわ。


「どうも、体調が悪くなっちゃったみたいでさ。大事を取って先に帰したんだ。今はセントラルへ向かってる頃じゃないかな?」


ダウト、痛いところつつかれた時の表情だぞ。


「そっかぁ…。

 あんかけちゃんとも旅したかったなぁ…。」


「んまぁ仕方ないさ。また遊びにくるかもしれないし、そんときにこの旅の土産話でもしてやればいい。そうだろ?」


土産話か、僕が残せる物はなんだろう。


_____________________







少しして昼食タイム。

リウキウでのお昼ご飯は、白米、味噌汁、ゴーヤチャンプル、にんじんしりしり等々、沖縄の郷土料理が目白押し。

テーブルは2組。向こうは継月さんたち8人で、こっちはペロさんたちと平城山さんたちとの計6人。

これ大丈夫?あんまり話してないよ?


「いただきまーす…」


とりあえず悩むのもアレだし、箸をつけよう。

本場の料理ってのは美味しいとも限らないが、今回は普通に美味である。ニガウリはどうもあんまり得意ではないが、温かいとこうも旨い物かと感動を覚える。


「これは…なんだ?」


「僕しってる。ラフテーだよ。ピーチマントレインで見た。」

「キタキツネは物知りでかわいいな?」

「ふふん。ビンボー様に注意だよ。」


コウテイさんの質問に答えるのはキタキツネさんで、それに娘を褒めるような声をかけるのはペロさん。ラフテーってのは泡盛とかいうアルコールお化けとその他もろもろで作る豚の角煮。中華文化の色が強い琉球ならではといえるだろう。

しかし豚肉ねぇ……。


「あの、これお肉……、ですよね?これ……食べちゃっていいんでしょうか?」

「フレンズさんは……どうなんでしょうか?」


アードウルフさんたちがちょっと狼狽えた。

ちなみに彼女は狼ではないので狼狽という言葉で言うソレじゃない。



「食というのは動物を、命のなんたるかを知る上では欠かせない、避けて通ることの出来ない要素の1つだと、俺は思ってます。それにそもそもの話、食物連鎖は生命が生まれた時、何十億年も前から行われてきた、極当たり前の事。自然の摂理なのですから。」


ちょいと遠くから声が聞こえてきた。オイオイタイミングがいいなアンタ。間の取り方がわかってるしやっぱり継月さんは芸人ってことでいいんじゃないのか。いや俳優か?

まぁそんなことはどうでもいい。誰だって他人から搾取せねば生きてられないのはこの世の理だ。それは彼女たちフレンズだって同じはず。


「なんか……そういうことらしいっすよ?」

「だな。よっし食おうキタキツネ。」

「わ……私も感謝していただきます!」


なんか丸くまとまった。

これがご都合主義ってやつ?


「ふふ、美味しいな。」

「えぇ、僕もそう思いますよ。」


いいか。

コウテイさんが幸せそうな顔を見れて幸せ。

ご都合主義がなんだってんだ。

構わない。




_____________________














「それじゃあみんな。またね!」


「また会いましょう!」



「「さよなr……」「「じゃあな!」またやーたい!「まったね~」「ありがとうございました…!」「まったねー!」」「またね…!」」


……肌色面積バグの起きている神々の声に答えようとしたらこれである。去るぞという時がきて別れを告げる。サヨウナラじゃなくてまた会おうがリウキウ式だ。にしても読みにくいな!言えなかったっぽいのが僕たち二人だ、失敬読者諸君!




僕らは促されてクルーザーに入った。

最終的にはホートクエリアに向かうらしい。

んでそのためにまずはゴコクエリアに。

あんかけさんの離脱によりミライさんがそこに入った。前後左右のおかげかまぁ中々どうしていい匂いがする。うーーーーーん天国かな。

大体45分掛かるらしいので、僕は太陽光に殺された体力を養うために少し仮眠した為にクルーザーの中の出来事は覚えていない。ただ揺られているあの感覚は意外といいものだった。



PM13:55 ゴコクエリアのミサキ港。

ここからはバスらしい。女性率はさらに上がる。

awensome!やべぇ!



ガタッゴトンッっと音が鳴り、

出発してから少しした。

僕にコウテイさんが話しかけてきた。

……しかも小声で。耳元で喋らないで。



「あんかけ、なんで離脱したんだろう?」

「体調不良って言ってたし、それを信じましょう。」


「いや、だけど。継月のあの顔……」

「わかってます。もしかしたら僕らに嫌気がさしたのかもしれない。もしかしたら大怪我を負ったのかもしれない。もしかしたら大罪を犯したのかもしれない。もしかしたらスザク様の言う悪人は彼女だったのかもしれない。」

「タコ!わからないからってそれは……!」


「でも0じゃない。疑いというのは晴れないものです。でも0かも知れない。わからない事はいつでも是と否を孕んでいます。だから、そっとしておきましょう。そして信じておいてあげましょう。旅というのはそういうものです。コウテイさんなら、わかりますよね?」

「……あぁ、分かる。信じるよ。自慢じゃないけど私も意外と旅をするからな。」

「200キロ、ですよね。」


「あぁ。」


旅はそういうものだ。

別れたあとはわからない。

だから信じてあげよう。

彼女と我々の行く末を。





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