めんそーれ!りうきう!
最初に断っておくが、僕は自分の心には正直な男である。よって、これから起こる事象に対しての罵詈雑言に近いものや率直な感想で、参加者各位殿や、これをいつか世の中の濁った海に解き放つとなったときに、あなた方やその他誰かの気分を悪くするようであれば申し訳ない。これが僕である。これが僕の旅の道である。そのことを、再びになるが、参加者各位殿や読者諸君に謝っておこうと思ったまでである。
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モーター音を響かせ海の上を走るジャパリクルーザー、そんな
「なぁ、タコ。」
「なんでしょう?」
「これ、しおり?」
彼女がこんな質問をしたのもまぁ無理はない。たぶん旅のしおりっていうと紙ファイルにパンチで穴あけたプリントを閉じていく、要は修学旅行とかで学生が手にするしおりとか、旅行会社の出してるパンフレットとかを想像していたのだろうが、これはもうしおりっていうか攻略本なのだ。それも、RPGなどのストーリーを済ませばあとはやり込み要素だけになるようなゲームではなくて、武器や防具、敵、とにかく情報量の化け物のゲームの攻略本のようだと言える。コウテイさんが訊きたくなるのもわかる。持っているのがそもそも大変、これで人ぶん殴れば殺せそうである。
内容もよく見りゃ纏まってるとは言い難い、いや、勿論、ここが良いどこが良いということは書いてあるが、如何せんその…うん、情報量とページ数で往復ビンタでも喰らってる感じだ。
「そういえば、タコは継月とは知り合いなのか?」
前から段取りを話し合っている彼の声が聞こえたからだろうか、唐突な質問である。でも生憎、ここに居る参加者各位とは特に深い関係ではない。なんなら初めて顔合わせをした方ばかりである。
「いえ、特に深い関係では。そもそも僕、企画に応募したのも忘れてましたし、ここに来るまであの人がパーク関係者って事も知りませんでしたし。」
「じゃあ何だと思ってたんだ?」
「概ね顔が良いから俳優か、まぁせいぜい芸人とかそんなもんだと。パーク主催で芸能人雇って場を持たせようとでもしたのかとばかり。」
そう、これは皮肉であるとかそういうのではなく、純粋に顔立ちが良いのだ。医者か何かに就いていれば看護婦さんがキャッキャするかもだ。
それを考える僕の隣で、あー…と、コウテイさんは言いづらい事がありますよ、と顔にしっかり書きながら顔を横に向けた。
「どうかしました?」
「あーいや……ううん、言うか…ちょっと耳貸してくれ。そう、そこ。えっとな…継月はな、なんというかな言うほど…面白くないぞ…うん。」
……。良いこと聴きました。
とだけ言って、しおりを見直した。
コウテイさんの吐息が耳をくすぐって、
こそばゆく思った。
「モウスグ、リウキウエリアダヨ。皆、下船ノ準備ヲシテネ」
ラッキービーストがそろそろ到着の旨を告げたので、僕は先の話題に挙げたしおりをカバンの中にしまって、準備を整え、揺れる船が止まったそのとき、サンゴきらめく煌々とした直射日光のもとへと旅のコマをすすめた。
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AM9:30~リウキウエリア ホンベ港~
「「ちゅ~がなびら!」」
暑い太陽の熱視線に背中を見られながら、紅色のいかにも南国な花たちの踊る島の土を踏んだ。
荷物を背負った皆が集まり、先のキョウシュウの時のように挨拶が始まった。
「…ちゅーがなびら、ってどういう意味だ?」
「こんにちは、って意味ですよ。家族やら友達とかわすようなものってより、目上の人への挨拶や、公的な場でのものですかね。」
挨拶は大事だが、ちょっとまって欲しい。
なんだこの格好。
おっとまずい、相手は聖獣だ。
あまり無礼は………………………
「みなさん紹介しますね。このリウキウエリアの守護けもののシーサーレフティさんとシーサーライトさんです」
「皆よく来たね!」
「めんそーれ、歓迎するわ」
継月さんと二人……二匹?いや二柱?
とりあえずあの二人の情報を整理しておく。
まず、最初に話し始めた方、皆よく来たね!と声をくれた方。
彼女がシーサー・ライトだ。
アニマルガール、要はフレンズなので彼女という呼び方をしたが、恐らく彼女は雄のシーサーのフレンズだろう。左右の雌雄の違いというのは諸説諸々あるそうなのでちゃんとした事を言えたもんではないが、阿吽で言う阿、シーサー像の口を開けたほうが雄らしい。
となると二人目、めんそーれ、要はいらっしゃいと歓迎してくれた方。
彼女がシーサー・レフティだ。
阿吽で言えば、吽の方。口を閉じた雌側のシーサー。
ちなみに二人は姉妹だそう。
で、それはいいとして、
格好よ格好。
ガードの硬い女の子、と本人たちは自称しているらしいが、どう考えたってこの格好はアウトだ。神通力かなんかでガード出来るのか知らないが…………。
断っておくが、僕は自分の心には正直な男である。よって、これから起こる事象に対しての罵詈雑言に近いものや率直な感想で、参加者各位殿や、これをいつか世の中の濁った海に解き放つとなったときに、あなた方やその他誰かの気分を悪くするようであれば申し訳ない。
というわけで言わせてもらおう。
エっっっっロ……………。
「改めてこんにちは、ここの守護けものを任されてるシーサーライトと」
「シーサーレフティよ」
相変わらず長い話を真面目に聞こうという心持が僕には欠けているので要点だけちゃちゃっとまとめると、
・要は沖縄だぞ!
・海がきれい!
・独特の食べ物があるぞ!
・オープン前の水族館を見ていくのもありだぞ!
という話であった、楽しみである。
そんなところで次の話らしい。
「そうそう。そういえばリウキウには『いちゃりばちょーでー』って言葉があるんだ」
「いちゃりばちょーでー…って、なに継ちゃん?」
「『出会った人とは兄弟のように仲良くしようね』って意味だよ」
「じゃあ私たちフレンズと一緒だね!」
「そうそう!つまり!」
「リウキウで繋がる、人とフレンズの!」
「「大きな輪!」」
継月さんとシーサー・ライトは腕を合わせて二人で大きな輪っかを作った。
「「はい!ライトじゃー…ないと!」」
そしてビシッと指差しポーズを決めた。
………………………。
何がしたかったんだ。
「いまのは、繋がりという意味の大きな輪とリウキウの今の言い方の沖縄を掛けたホットなジョークだよ~」
フルルさんが解説を入れてくれたお陰でなるほどね、となると同時にコウテイさんの忠告が見事に的中であった事が証明された。
大きな輪、おおきなわ、おーきなわ、沖縄と。
よく考えれば月をライトと読めば、シーサー・ライトとも掛かっている。
しかし一ミリも面白くない、というか突然ギャグでぶん殴られて唖然としている。一周回ってスベリ芸で芸人目指せそうである。やっぱ芸人じゃあないか。クルーザーに乗っているとき後ろから聞こえてきた芸人ってのもこういうことだったらしい。
実際僕ら二人とレフティさん以外は滑った彼らを見て笑っている。やれやれ。
「うんうん!やっぱり笑顔が一番!私たちからの挨拶は以上だ!それじゃあ、リウキウを楽しんでね!」
「では、シーサーのお二方からの挨拶も終わった所で、ここからは自由行動になりまーす。12:00に昼食を取りますので、11:50までにシーサー道場に集まってきてくださいね~。では、解散!」
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「はぁ、まさかあんなにも面白くないとは。」
「だから言ったじゃないか…ま、それはそれとして。行こう?沢山時間があるわけではないし。」
ここからは自由時間とのことなので、デカイしおりで確認したカキ氷でも食べに行こう、そこに至るまでの景観も楽しみつつ、色々しつつ。
僕らは歩き出した、朝から緩やかな坂を登りさらに熱くなっていく太陽光と、それを静かに涼やかに流していく潮風が髪を鳴らす。舗装されていない白い砂混じりの道を踏むたびに鳴る音が気味のいいもので、横にいるコウテイさんがなんとなく楽しそうなのも合わさって心情としては最高以外の言いようがない。
「綺麗だな、ここの海。」
「見ていきますか?浜まで降りて、そこを歩くくらいの時間はありますし。」
じゃあ、ということで降りていった。僕らの降りた浜にはそこまで人影がなかった。別段汚いというわけでもないし、十分に美しい、ここの言葉を借りるなら
「人、いないんですね?ここ。」
「そうだな。なんでだろう。綺麗なのに。」
この話をして僕は気づいた。
ここには映えるものがないんだ。
わかりやすい、万人受けするよさがない。
方角的に太陽が昇ってきたり沈んだりを直接ここにいて見られる訳でもない、遠方の島があるわけでもない、だから観光客も来ない。そして人が来ないと寂れる。錆びて行く。手入れもされていないらしいのが、今降りてきたコンクリートの階段側の砂の上には流木が溜まっていたので分かった。
「へぇ、淋しいな…。こんなに綺麗なのに。」
「評価なんてのはそんなもんです。本当に本当の本質を見抜いているのなんてごく一握りの人々ですよ。誰もがここを見たら綺麗だって言うはずだけど、名前もついてないような浜には誰も見向きはしない。それがダメとは言いませんけどね、ただ、勿体無いなと感じます。」
「……そうだな。」
難しいことを言ったせいだろうか。
浜で、
彼女の声をこれ以上聞くことはなかった。
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お待たせしました。
という声で、遠くを眺めていた僕の脳みそは目の前に戻ってきた。
浜を抜けた後、リウキウぜんざいの店に着いた僕らは、イマイチ会話が続かずに、
ただひたすらに注文したものが来るのを待っていた。昔から話だけは自分の強みだと思って生きてきたのに、これではその強みも音を立てて崩れていってしまう。
「いただきます。」
リウキウぜんざい、それは本土沖縄のぜんざいと定義は同じ。早い話がカキ氷だ。ただ、そのスタイルはどんどんと変わってきているらしい。フルーツが乗ったものもあった。しかしまぁあれだ、初体験なので普通のを注文した。
「ん、おいし。」
「ほんとですね、美味しい。」
口に含んだ瞬間、神経系を走り回る甘みとダイレクトな清涼感。のんびりとした甘さが引いていく、風がまた吹いた。時間が無限にあるとも思っていそうな潮風が僕らを撫でる。人気店らしい店の中は、都会なら静かに五月蠅く忙しいはずなのに、ここはまったりとうるさい。自然に笑顔にさせられる黒魔術でもかかっているようだ。
「……よかった、笑った。」
「はい?」
「いや、ずっと難しい顔というか、悩んでいそうというか。」
「ホントですか?」
「ホントだよ、心配になるだろ?本当に何か悩んでいるのなら言ってほしい、君と旅をするんだ、快く行こうよ。」
全く僕という男は、
「やっぱり、見かけほどいい奴じゃないですよ。」
「ふふ、そうかもな?でも、できれば笑ってほしいな。もちろん無理にとは言わないけど。私も、少しでも楽しんでくれるように頑張るからさ!」
彼女の笑顔を見て、自分が情けなくなってきたので、ぜんざいに急いで手を付けた。味はまずくもおいしくもならずずっと美味いままだった。
食べ終わったその時に、時計は11時40分を指し……
あっと。
「あぁおいしかった。こういうのも悪k…」
「…行きますよ、コウテイさん!」
「は、え、なんだ!?」
「時間!!あんまりにも行きに寄った砂浜が綺麗だっただとか、ここのも美味しいからってコイツはゆっくりし過ぎましたよ!」
「なんだとッ!?」
忙しいのは僕らそのものだったのかもしれない。
急いでお会計だけ済ませてカバンを担ぎ僕らは集合場所へ向かった。
僕は無意識のうちに彼女の手を引いていた。
海風はまだ吹いていた。
遅刻した。
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