いざリウキウへ!



最初に断って置くが、僕はなかなかひねくれた男である。だから、これから参加者各位に一体どれだけの批評を浴びせるかわからない。それをまず、敬愛なる参加者各位と、いつか僕がこれを誰かに見せることとなったときの読者諸君に謝っておきたい。



召集されたステージの回りはやけに暑かった。いや、熱いというのが正しいような気もする。コウテイさんの方を見ても、彼女の額に少々の汗が光ったので、少しそんな風に思う。しかし僕はすぐにそれを忘れた。暑さなど、ここにいる人々の生む、若く青い興奮によるものだろうと思ったからである。このセリフを吐いた私こそ、若い男だが。

『改めまして皆さん、おはようございま~す!』

ステージの上では既に、開会式のようなものが始まっている。黄緑の長い髪の、探検服を身につけた女性がマイクを持って話している。彼女は確か、そう…ミライという人だ。パークの外にも彼女の噂は広まっていたりする。

けものしか愛せなくなった可哀想な女だな、と僕の友達は言い放ったが、その友達は機械に心を奪われていたので似たようなもんだと言っておいた。


おはようございます、に律儀に返事を返した猫のフレンズをみて少し微笑ましいなぁと横をみたが、ひねくれている僕は挨拶を返さなかった。小学…いや、幼稚園児のように思えてしょうがなかった。バカらしいあの下等教育の檻の事など忘れたい僕は、息を鳴らして少し笑ったように見せかけた。

『昨晩も言いましたが、皆さん今回は、当ジャパリパークの旅企画にご応募頂きありがとうございます。この旅では、皆さんが希望なされたフレンズさんと共に、私ミライの案内の元、パークやフレンズさんに触れて頂き…』

そのあと、旅の説明を聴いた…、のだが、説明しているパークガイドの後ろのステージで、なんだか知らないけれど音が聞こえた。最初は風か迷い込んだフレンズか何かかと思ったが、スピーカー越しの声の遠くから、隠しきれていない羽ばたきが聴こえるのである。

そのうち、まわりもざわざわし出した。ボソボソと聞こえる話し声の奥で、羽ばたく物音の答えはすぐにわかった。真面目に話を聴いていないのもたまにはいいものだ、ステージの裏から紅い鳥のフレンズが顔をみせ、そしてそのあと、呼ばれて、そのスザクと呼ばれた紅い熱風が舞い降りるようにした。


『皆のもの、待たせたの』


いや、知らんがな。

珍しい、神にも相当するフレンズだと言うことを知っていながら僕はこう心で叫んだ。待ってはいないし、その前からガッツリ丸見えである。鳥だけにトリアタマという事だろうか。恐らくだが、周りの彼らも同様の事を思っていて、動揺はステージにいるあの園長さんらしい継月さんという男と、その隣のパークガイドだけのように見える。フンボルトペンギンのフルルというPPPメンバーの一人のフレンズは、わぁ~と言った。だけ。

度胸の座った…いや、無関心なだけのようだと見える彼女を見たそのあと、四神が一柱より、歓迎の旨の言葉と脅しを受けた。


『是非とも、フレンズ達と心通わせ、良き楽しい思い出を作ってくれたら幸いじゃ。

…とはいえ、自然やフレンズを無闇に傷付けるような粗相はするでないぞ。お主らなら大丈夫だとは思うがのぅ。昨晩も、フレンズを連れ去ろうと考える不届きな輩が忍びこんでおったからの。』


風と人がざわついて、木々が揺れた。

さっきの可愛い猫ちゃん、たしかジョフロイネコとかって言った子は、ヒーローショーの怪人に本気で怖がってしまう少女のようだった。ペアの風庭さんにべったりくっついている。

コウテイさんにも少々の緊張の色が見える。

「君は…そうは見えないな?」

小声で、隣の彼女が言うので、

「さあ、僕は見かけ程良いヤツじゃ無いですよ」

とだけ返した。意地悪すぎただろうか。


なんでも、不届きな輩とかいう人間らしい奴らは既にとっちめられて本国でお縄だそうだ。全くふざけたヤツもいるなと思うと同時に、同じ立場なら僕もそうするかもしれないと思えて、少し前の僕のセリフが可笑しかった。



______________________





「安全運転デ行クヨ。クルーザーシステム…起動。クルーザー駆動部…各部異常無シ。システム、オールグリーン…アンカーノ巻キ取リ完了。

…出発スルヨ」


あの会の後、ラッキービーストが船を出した。

もちろんというか、隣はコウテイさんになり、僕は貰ったしおりを眺めながら周りの会話を聴いていた。もっとも、何が知りたくて会話を聞いていた訳でもないのだが。


「なぁ、ちょっといいか?」


ふとコウテイさんに肩を叩かれて、僕はしおりを膝へ置いた。下を向いているとメガネはズレる、そのメガネをすっとかけ直した。


「どうかしましたか?」

「いや、別段なんという訳でもないんだけれど…。」

少しだけ悩んだようだったけれど、それを止めて聞いた。


「さっきの話は本当?あの、君がいいやつじゃない、って話」

僕は思わず笑った。

「そんな、本当なわけないじゃないですか。からかっただけですよ、気に障ったならごめんなさい。」

「はぁぁよかった!けっこう本気にしたんだぞ!?」


恐ろしいまでの純粋に僕は恐怖した。と同時に抱きしめたいほどの愛に駆られてしまった。かわいらしい少女であることに変わらないんだ、と納得した。


「すみませんね。まさか本当に信じてるなんて思いもしなかったので。」

「私も本気で疑って済まなかったよ…険しい顔をしてたから。」

暑かったんですよ、と言ったら、

「なんだ、私もだよ」

とだけ言って笑って見せた。


それから、水の音と波の揺れに揺らされつつも日程を二人で確認した。

キョウシュウからクルーザーに乗船して、そこからリウキウへと向かう。そしてリウキウ到着後、そこを納めている守護けものからの軽い挨拶を挟んでそこからは自由行動だということだそうだ。そのあと午後からゴコクへ向かうそうだ。


「私…リウキウのかき氷が食べたいかな。」

「奇遇ですね、僕もです。」


楽しみが積もっていく。

南国の雪に舌鼓を打ってやろうとか、ラーメンも美味いらしいとか、なんとも食欲に忠実な計画を立てようと、無駄に分厚いしおりを僕たちはいつの間にか肩を寄せて読んでいたのである。




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