CSO9―初めての装備!
まだ装備はしてないが、私の画面には下記のものが書かれていた。
――――――――――――
武器:《世界樹の
『全ての大陸を内包するユグドラシルが枯れ落ちてから千年後、再び生えたその新芽を集めたもの』
破損:しない
エンチャント:可 《現在:無》
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「うーむ······」
説明からして、ただの葉っぱではないことは理解できた。“ユグドラシル“という名前も聞いたことはある。神話に出てくる“九つの世界を内に持つ大木“だったはずだ。しかし、設定とはいえ、そんな大それた新芽を摘んでしまっていいのか――と、些か疑問ではあるが。
「ねぇ、とーこ。これ、攻撃力とか使い方書いてないの?」
「書いてないよー。世界をプレイヤー同士で作り上げるってのがゲームのコンセプトだから、攻撃力や防御力、レア度みたいな明確なものを装備に用意されてないんだー。もちろん、使い方もねー」
「んー、そっかー」
「でもその代わり、掲示板や攻略サイトがあるって感じだよ。公式も“いい意味“で、それを黙認しててねー」
――と、そこからスイッチが入ってしまったのか、おっとりとした口調ながらも「この杖は、どこどこで手に入ってー」とか「『勝手にランク付け』や『レアアイテム一覧』とか、そこの毎日のチェックはもう欠かせないんだー」など、画面を開いたままの私を置いてけぼりに熱弁し始める親友。
「まぁ、スペルはプレイヤー同士が戦うイベントとかあるから、有名人以外そう書かれないんだけど、でもそこがまた面白くてねー。“どうやってこの人を倒すかー“とか考えたり、固有スペル以外は個人帰属だから取引出来たり、そのおかげでスタイルに幅も作れるし、おかげでプレイヤーとの駆け引きもさらに生まれて切磋琢磨――みたいなね。これこそゲームの醍醐味ーって感じで、本当このゲームよく出来てるなーって思うんだよー。他にも大陸のボスの倒すために必須のアイテムあったり、それがまた本当に大変でー、私どれだけ巡ったかー············あっ、ごめんごめん。今はカリンの装備のことだったねー」
――と、ようやく「失敬、失敬」と頭を掻いて元の落ち着きに戻ってくる親友。こんな姿も、その“皆で作り上げる世界“の一環なのかもしれないと思った。
さておき、
「とりあえず、今はそれ装備してみよ? カリンならきっと気に入ると思うからー」
それを聞いた私は呆れから襟を正して「うん、わかった」と画面を操作。ちょっと手間取りながらも《世界樹の子葉》を所持品(インベントリ)からスライドさせ、画面上の自己アバターに重ねる。
すると、
「うん、いい感じだよーカリン。似合うー」
私の髪色にも似た、緑の粒子が虚空から降り注ぐように出現してからすぐ、私の服を形成した時と同じように――今回は
「へぇー、かわいいー」
「でしょでしょー?」
てっきり、私は手に葉っぱが現れると思っていたからこれは嬉しい誤算だった。武器なのにアクセサリーとして見えるその“葉っぱ“は、よくある植物のような軟性ではなく、金属や宝石のような硬さを備えていた。
「装備した姿は画面のアバターにも反映されるから、相手からどう見えてるとかは、そこでちゃんと鏡代わりに見れるよ」
「そうなの? ――あっ、いいかもー」
「気に入った?」
「うん。いいねー、これ」
「ふふーん。じゃあそれ、そのままカリンにあげるよー」
「えっ、いいの?」
「いいよー。だってほら、さっきも言ったけど私には似合わないしー」
「そんなことないと思うけど······。んー、でもそっか。じゃ、そういうことなら頂いちゃおっかなー」
「うんうん、貰ってー」
「やったー。ありがとー、冬子ー」
「いいよー――むぐっ。嬉しいのは分かったから、やたらめったら抱きつかないでー。それにここでは“とーこ“だからー」
そしてそれから少しの間、拘束されてジタバタする「撫でても何も出ないよー」と言う彼女から燃料も補給。もちろん感謝の気持ちを伝えるだけのつもりだったのだが、途中から、癖になりそうなこの髪のふわふわが気持ちよく、わざと長めにハグしてしまった。
「はぁ······もう······」
ようやく、一通り満足した私から解放された彼女は髪を直しながら不貞腐れたような呆れの溜め息。この不満気な感じは、やっぱり“向こう“の彼女と同じである。そんな彼女だが、
「それじゃ、後は戦闘に関して大事なことだけど······」
髪を直し終え、再びその説明に戻ろうと、いじる――自身の頭から私のほうへ視線を移した時――、
「ん?」
目をパチクリと開いた。そして突然、直前の不満も忘れたように私の後方を指差し、
「あっ、いたいたー!」
“なんだろう?“と私が振り返ると、そこには――私達の歩いてきたその道には、傍の草影から現れたであろう一体のモンスターが跳び跳ねていた。その、ポヨンポヨンと音を立てて辺りを移動しているモンスターは、ゲームの中ではいつの時代も定番中の定番とされてきたあのモンスターだった。
「スライム?」
「そー、スライムー。カリンにはあれと戦ってもらおうと思ってるんだー」
どうやら彼女の目的は、あの青いスライムと私を戦闘させることだったよう。スライムと言えば多くのゲームの序盤で現れる敵。だから“彼女の目的“も、そういった“初心者の手引き“を“あれ“とさせようという魂胆なのかもしれない。
「とーこも一緒に戦うの?」
「ううん、今回はカリンひとりー。攻撃そんな強くないから安心していいよー」
「そうなんだ。じゃ、私でも大丈夫そうだね」
「んー、そうだねー。ふふーん」
「――?」
さて、今は私の隣にいる親友なのだが、彼女のこういったニコニコはこの
「とーこ、何か隠してる?」
「ふふーん? なにもー?」
彼女はそう言うが、今回のその透け透け具合は嘘偽りも良いところである。曇り一つないガラス窓のように、明らかに何か企てているのがその奥にははっきりと見える。だが、ただしかし、その中身だけはずる賢く見せてくれないが。
「とりあえずさ、ほら、相手が逃げちゃう前に戦ってきなよー。大事なことは後で教えるからー。ねー?」
うーん······。とても嫌な予感がする。
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