CSO8―初めての贈り物!

「ロクリアス!」


 そう言って、先端にクリスタルの付いた杖を掲げる冬子。しかし、私の目の前に現れたようなあの魔方陣は見当たらない。だが、杖を下ろした――町のほうを見る彼女の顔を横からよく見ると、その青い双眸には、二重円に三角の入った魔方陣が描かれていた。


「あー、やっぱり」

「どうしたの?」

「いやー、なんでもー」


 さっきもそうだったが、またもそうニコニコしてはぐらかす彼女。しかしやはり、後ろめたいことを隠しているような雰囲気ではないので、なんだろうとは思ったものの追求はせず。そんなことを考えていると両眼の魔方陣を消した彼女が、


「それより、これから鈴華のこと、ここでは“カリン“って呼び続けるけどいいー?」

「ん? うん、もちろんいいよ。私も、“これ“が学校での私と同一人物だって知られてもちょっと面倒だし」


 ――と、まだ例の件に僅かな望みを抱いている私。傷のほうはすっかり癒えてしまっていたが、はまだまだ断ち切れぬよう。


「私も冬子のこと、これからはここじゃ“とーこ“って呼ぶね」

「うんうん、そうしてー」


 ちなみにだが、彼女の名前――句読点『。』に関してはわざわざ述べるまでもあるまい。「とーこ、まる」とか「とーこ。」と、国語の定番ネタじゃあるまいし。基本割愛だ。


「改めて、よろしくね。とーこ」

「よろしくー、カリンー」





 さて、そうして『始まりの草原』を後にした私達だが、それから町へ向かう······のではなく、町から少し離れた小さな森を歩いていた。


 というのも、


『ちょっと先に行きたい所があるんだけど、町行く前に寄ってもいいー? カリンに、戦闘で大事なこと教えておこうと思って』


 ――と、彼女が提案したからである。


 当初の目的である“彼女との再会“が果たされた私はそう焦ることもなければ、彼女から「町にもちゃんと行くからー」とも聞いていたため快く了承。


「うわー、いかにもモンスター出そうって感じだねー。明るいけど鬱蒼とした木々とか、まさしくゲームの森って感じ」

「でしょでしょー? 『始まりの森』っていう、ホントは町のNPCから聞いて来る場所なんだけど、別に、その説明も次の場所へ行くための案内ってだけだし、まっ、そこの前後は気にせず“ごあいきょー“ってことでねー」


 ちなみに、一人町に向かおうとしていたことは彼女には内緒のままである。先の発言から推察するに見透かされていたのかもしれないが、ともあれこの先、私からその件についてこれ以上語ることはないだろう。きっと。


 ――と、ふと思ったことが。


「そういえばさ、とーこ」

「んー?」

「私、とーこと違って“武器“もなにも持ってないけど大丈夫?」


 それは、少し前を歩く彼女と、私との手に収まる物の違い。彼女の手に今も収まるのは『始まりの草原』でスペルを唱えた際に持っていたのと同じ――先端にクリスタルの付いた杖だ。これはあの草原で、彼女自身の所持品(インベントリ)から出されたものだが、彼女があのメニュー画面を操作すると共に粒子として現れ、やがて自然とその手に収まったのものである。


「んー、基本的にスペルが戦闘の要だから今回は大丈夫だと思うけど······でも、そうだねー。そうしよー。やっぱり渡しとこっかなー」

「――? やっぱりって?」

「ううん、なんでもなーい」


 すると、自分のメニュー画面を出して素早く操作する彼女。数秒後、またも自然と開かれた私のメニュー画面には『とーこ。さんから贈り物があります』との文字が。


「カリンにはそれが似合うと思うんだー。私には似合わないから良かったら使ってー」


 中身はちゃんと見ていなかったが『OK』ボタンを押下。ゲームでは必需品とも言える武器を受け取った私はどこか安堵。だがしかし、その中身を改めた時「ん?」と、たちまち私の顔はそれを引っ繰り返したように一気に渋る。


「いや······とーこ、待って。こんなの使ったことないんだけど······」


 彼女があまりに軽い感じのままで言うものだから、私はてっきり剣やナイフなどファンタジーお馴染みのものだと思っていた。――が、しかし、彼女から送られてきたのは私の想像を遥か斜め上を行くものと言っていい。いや、未経験も甚だしいと言っていいだろう。


「えー、あまり好きじゃない? 似合うと思ったんだけどー、その“武器“」


 彼女には、たまにこういった節がある。センスがないとかそんなのではなく、突拍子のないものを持ってくるのだ。だが、しかし、だからと言って画面に映るこれ――、


「いや、だって······」


 こんな“数枚の葉っぱ“で、どう戦えというのだろう?

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