CSO7―初めてのフレンド!

 さて、現実(あちら)の彼女を知る者で、これを冬子だと誰が思うだろうか。小学校に入ってから彼女と付き合いのある――同じように目や耳、髪などをいじった私でさえこれなのだから、他の誰かが判るとしたら、あっても家族くらいのものだろう。


「それで、ここでの私の名前は『とーこ。』。ひらがなと棒線で『とーこ』に、芸能人みたいな句点を最後につけたのが私の名前だよー」


 ――と、白いふわふわパーマ髪に『ω』の口をした、魔法使いのようなローブを着る彼女はおっとりと言うが、しかし、私が『エルフ』を選んだのと同様、彼女の“耳“も種族によるものだとようやく理解すると、さっきまでの驚きは過ぎ去り、別の衝動が私には沸きつつあった。それはあの、キャラ作成(クリエイト)の時にも沸いた感情に近いもの。


「おーい? 、聞いてるー?」


 そして、私の周りをウロチョロしながら、私の顔を覗くように確認するその親友の行動は、その私の衝動にいよいよ火を点けてしまう。


「ちょっとー、ねぇってばー、ー」

「か、か、か······」

「――?」

「可愛いいいいぃーっ!」


 堪らず、親友を包容しては頭を撫でて頬擦り。


「ちょっとー苦しいー。撫でても何も出ないよー」

「いいでしょー、冬子も胸揉んだんだからー」


 私はあのトコルくんと同等に、この尻尾のない白猫のような親友の――小動物のような愛くるしい姿にすっかり虜になっていた。親友にここまで虜になるのもどうかと思うが、ただそのおかげで、直前のモンスターによってやられていたメンタルもかなり回復。


「はぁー、やっと至福を得られた気がする······」

「あー、そういえば、蛇苦手だったもんねー」

「そうだよー。ほんと生きた心地しなかったってー」

「ゲームの蛇とはいえ、蛇だもんねー」

「そうそう」


 ――と、一通り自分の欲が満たされて、やっと我が家のように落ち着く私だが、それでもまだ、この手に伝わるふわふわの感触は離さない。だが、そうして幾らか落ち着いたことで、ふと、今の会話と直前に生じていた違和感に気付く。そして、


「······って、あれ?」


 ようやく彼女を腕の中から解放。


「冬子、いま私のこと『カリン』って呼んでた? それに、確かさっきもそう呼んでたような······」

「呼んだー」

「私、ゲームでの名前って言ったっけ?」

「言ってないよー」

「じゃあどうして?」

「ちょっとした小技でね、人との距離が五メートル以下になると、メニューの『フレンド申請可能一欄』にその対象者の名前が出るのー。だから、それでカリンに抱きつく前確認したんだー」


 そして「はぁー、なるほど」と私がそう感心していると、自分のメニュー画面を開いて操作を始める冬子。すると突如、私のメニュー画面も勝手にオープン。その透明なウィンドウには『とーこ。さんからフレンド申請が届いています』との文字が現れていた。勿論、私は迷わず、一緒に現れていた『OK』ボタンを押下。


「これで、私とカリンの攻撃はお互いには当たらなくなるよー。さっきみたいので間違って誤爆攻撃しちゃっても、これからは大丈夫ってことー」


 ――と、その言葉で、ふとさっきの“彼女との僅かな戦闘“を思い出す私は、


「うぅ、なんか面目ない······」

「いいのいいのー。PK(プレイヤーキル)はゲームに付き物なんだからー」


 冷静に振り返れば、私は危うく親友を吹き飛ばすところだったのである。もし彼女が私の背後へ高速で回っていなかったら、今頃どうなっていただろうか。きっと彼女は、プンスカ怒ってひどいお咎めなしに再び戻ってくるだけだろうが、しかしそれでも、私がしばらく土下座していたであろうことは言うまでもあるまい(······まぁ、今回は結果オーライである)。


「それで、名前を知る方法は他にも色々あるけど、そんな気にしなくていいと思うよー。アイテムの取引やイベントランキングに乗るだけでも出るくらいだしね。まぁ、よっぽど有名になったら、ネットに顔とか名前もあがっちゃうだろうけどー」

「へぇー、そうなんだ。けど、冬子はともかく私は始めたばかりだし、そこは心配なさそうだよね」

「あー······。うん、そうかもねー」

「――? どうかした?」

「ううん、なんもー」


 ――と、やけにニコニコとしてはぐらかす彼女。その姿には些か首を傾げたくなったが、しかし、特別後ろめたいことを隠してるようにも見えないためこれ以上は追及せず。それより、私は別の――名前を知る話の途中から気になっていたことを尋ねた。


「けどさ、冬子。そういえばさっき、あんな離れた町から“私を見た“って言ってたよね? それってなんか、まるで姿ように聞こえるんだけど······」


 すると、彼女はさも当然のように、


「判ってたよ?」

「えっ?」

「スペルで視力は上げたけど、それでも、あんな逃げ方するの、私、しか知らないもん。ほら、偶然街で知り合いの後ろ姿があって、それに気付いた時の“なんか見たことあるなー“って思うようなやつ」


 ······なるほど。


 私が彼女を冬子だと判ったように、彼女もまた、姿わけだ。外見は変わっても、中身は何も変わらないよ――とでも言うように。


「――? むぐっ。ちょっとー、撫でても何も出ないよー」

「いいのー、それでも別にー」

「なにがー。放してー」


 やっぱり、彼女は私の親友――もとい“大親友“である。

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