CSO6―初めての対面!
「······」
息を忘れるほどの出来事。
情けない口をポカリと開けたまま、茫然とした。
それからしばらくしてやっと呼吸を取り戻すも、やはり、すぐには何が起きたか理解出来なかった。白の魔方陣と光線が粒子となって消え、元の景色になっても、まだ生きた心地がしていなかったから。
ただ、それでも――、
「はぁ······はぁ······。やったの······かも······」
窮地を脱したことだけは理解していた。本来なら噛まれていたはずの私の身体。また、その私を噛もうとしていたはずの相手の姿は、もうどこにも無かったから。
「はぁ······。ああああぁ······たすかったあぁー······」
そのまま後ろへ倒れ込み、草の上で深い溜め息。
百年分の恐怖を味わった気分だった。
「はぁ······」
ただ、しばらくそうして腰を抜かしたままでいると、次第に甦るあの数秒の戦闘。やはり、思い出すだけで蛇には寒気を覚え、トラウマが克服出来たとはとても言い難かったが、それでも、あの白の大きな光線に包まれて霧散する相手の姿は強く焼き付いていた。
「······あれが······スペル······」
敵の最期の威嚇は私には届かず、記憶に残る音はスペルが発動した効果音だけ。“キーン“といった高音と“バシューン“といった、何かが発射する音。稚拙な表現だが、擬音で表現するとそんな感じでしかなかった。恐らく前者が魔方陣で、後者が光線の音(光線が飛ぶ前には既に薄目を開いていたため、後者は間違いないが)。
ともあれ、
「私······スペル使えたんだ······」
どうして、泣き叫んだ時には発動しなかったのか。
何故、あの瞬間にはちゃんと発動したのか。
様々な疑問が浮かんだ。
私の知らない条件があるのでは? ――とも。
しかしそれでも、今は、
「あー······やっぱ先に練習しとくべきだったぁ······」
助かるならもっと早く助かりたかった――と、遣る瀬ない気持ちで一杯だった。蛇がいるこのゲームに誘った“彼女“を恨みたくもなったが、それは言いがかりというものでみっともないため却下。私にも練習する権利と機会はあったのだから、どんぐりの背比べでしかない。
しかし、それは置いといて――、
「でも、これでもう、大丈夫······かな?」
一つとはいえ、スペルが使えるようになったことで大きな安心感があった。もし仮に、もう一度同じような相手が来たとしても、同じような事をすればいいのだから。
「よしっ、それじゃあ······」
立ち上がってお尻の草を払い、もう一度嘆息。
戦闘手段を覚えたことで、落ち着きも取り戻していた。
もう怖いものはない、という感じに。
ただ、しかし――、
「どうしよっかなー? 町に行くか、その辺歩くか······」
こっちの“ウズウズ“も、すっかり戻ってきていたが。
きっと、この盲目さが無ければ襲撃前にスペルを試し、先の敵も容易く追い払っていたに違いない。直前の、私と親友の非を比べた発言は撤回である。
まぁ、それはさておき。
「やっぱ町かなー。どんな装備があるか見たいしー」
もはや、頑張った自分への御褒美と言わんばかりに町へ行く事を決めている私。“町なら戦闘も起きないだろうしねー“と、せこい言い訳も己に言い聞かせていた。おまけに、
「冬子なら、きっと見つけてくれるよねー」
――とも。実にせこかった。
そして、再び足を動かしてしまう私だが······。
すると、その時だった。
「ん?」
再び、大蛇と対峙する前と同じような、茂みを掻き分けるような音が。私は落ち着きは取り戻しているものの、まだ精神的疲労までは完全には回復していない。
「またー? 最初っから戦闘多すぎー」
露骨に嫌な表情と、思わずこぼれ出る本音。しかし――、
「でも、蛇は倒せるって知ったから、すぐ終わらせるよ」
すぐに気を締め直した。
今の私には、協力な攻撃手段がある。
トラウマを撃退するほどの“強力なスペル“が。
だから、
「真っ直ぐ来たとこを狙えば······」
直前の戦闘を再現をするように警戒。
違いは、腰を抜かしているか立っているかだけ。
······しかし、その決着は先よりも早かった。
それは、直前の蛇よりも素早いその影が、私が後ろを振り向き叫んだ直後、さらにスピードを上げ、いつの間にか私の背後へと回っていたから。
「バレスティ――」
「にゃーん」
――と、私の両胸を掴むようにして。
「ひゃあっ!」
思わぬ攻撃に、スペルを叫ぶ声量のまま声を上げた私。その思わず出てしまった大声にすぐに恥ずかしくなり、すぐさま、いまだ胸を触りつつ頬を当ててすり寄るように抱き付く“それ“を引き剥がそうとする。
「ちょ、ちょっと······。や、め、て――」
だが、
「むふー、鈴華(りんか)ぁー」
「えっ?」
それを聞いた私は、思わず手を止めてしまった。
その声と笑い方が、あまりに馴染み深いものだったから。
「遅れちゃってごめんねー、“大陸“を移動するのに時間掛かっちゃったー。それで、さっきそこの町から、鈴華が敵に追われてるの見たから急いで来たんだけどー······でも、すごいねー、鈴華ー。“第3大陸“のあの敵を倒しちゃうなんてー。スペルも見てたー」
――と、彼女は私の名前を何度も呼び褒めてくれるのだが、いまだ出会ってからパニックの私には、全くと言っていいほど内容が頭は入って来なかった。彼女を優しく引き離して、目をパチパチさせながら、その顔を改めるので精一杯。
「えっ、ちょっと待って。······えっ? まず一つ確認していい?」
「んー? なぁにー?」
「本当に······ほんとーうに冬子(ふゆこ)なんだよね?」
すると彼女は「むふー」と笑顔を。
「そうだよー、驚いたー? まだ傷心中なのー?」
「――――」
声も出ぬほど驚いたのは、彼女が褒めたことや町から見ていたこと、また“彼女“が冬子だと確信を得られたではない。いや、そう確信したから、というのもあるが、やはり私が声も出なかったのは、もっと根本的な――最初に出会って必ず目に入る、その姿――化の容姿にだった。
「いや、だって······それ、頭のやつ······」
「んー? あぁ、これー? ふふーん、可愛いでしょー? 私の耳ー」
私は再び――今度は口をパクパクさせて絶句。
それは、彼女が現実よりさらに背が低く、ターコイズのような青い目をキラキラとさせ、白い髪にショートパーマをしていたからもあるが、一番はその――ひょこひょこと自分の意思で動かしている、三角の耳を頭にちょこんと生やしていたから。
――ヒトの耳の代わりに、その可愛らしい猫耳を。
「えぇーっ!?」
「驚きすぎー。別に
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