喜怒哀楽の ”喜”

「パフェ、ねえ」


 じゅるり。確かに聞こえた。獲物を発見した肉食動物の舌なめずりが。もっとも、獲物はスウィーツで、肉食動物にしては些か可愛すぎる猛獣だが。


「じゃあこれ百個で!」

「一つで。あとコーヒーお願いします」

「えー! 百個だって千個だって食べられるのに」

「そんな金がどこにある。奢らされる身にもなれ」

「だってもう今月は映画代しかのこってないんだもん。あー宝くじでも当たんないかなー」

 

 溜息息交じりにあーだこーだと嘆くアイラを尻目に、俺は窓の外を確認する。

 雨は俄然勢いを保ったまま、アスファルトを隙間なく埋めていく。まだまだ止む気配はなさそうだ。

どうやら、まだ機嫌が悪いらしいな。


 「そういえばアイラ」

 「なに?」

 「そういえばさっき先週は忙しいと言っていたな。いったい何をしてたんだ? 部活もやってないだろ、お前」

 「そ、それは……なんでもないわ」


 アイラは急に動じたような反応をしてコップに口をつけた。大きな目も、今はあらぬ方向を見ている。むむ、なんか隠してるな。


 カフェの一区画を取調室に突貫工事しようとしたところで、店員の「お待たせしました~」の声が聞こえた。一旦この話は中断だな。


 頼んでおいたコーヒーとパフェが届いた。パフェといえば、アイラはいったい何のパフェを頼んだのだろう。さっきは“これ”と言っていたし、店員の確認も適当に聞き流していた。


 「わー! すご! おっき! 思ってたよりだいぶ大きいわ! おいしそー!」


 子供のようにはしゃぐアイラの方に目をやると、そこには……。


 「ご注文いただいた超巨大スーパービックジャンボフルーツパフェでございます」


 名前にツッコんでいる暇はない。たかさ40センチメートルにも及ぶ“それ”が、俺たちの目の前に存在していた。


「なんだこれ……」

「さっそくいただきまーす!」


 俺のドン引きを他所に、アイラはまるでなんちゃら百裂拳ばりの高速移動でスプーンを動かし、パフェを口に運んでいる。


 「ちょーおいしい! シュウジ! 一口食べる?」

 「いや、見てるだけでお腹一杯だよ」


 再び高速移動をはじめたアイラから視線を窓に移した。

 いつの間にか、雨は止んでいた。

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