七夕に呪いを

ゆにろく

七夕に呪いを

「おはよー。……あー、七夕。姫花ひめかはなんか書いたの?」


「おはよ」


 場所は、大学の中央校舎。

 無駄に広いエントランスには、いつもはなかった無駄にでかい笹があった。今日は7月7日、つまり七夕。これは短冊を飾るための笹だ。色とりどりの短冊が飾られていて、様々な願いが吊るされている。


「書いたお願いって人に言って良いやつなんだっけ? 人に言ったら願いごと叶わないんじゃないの?」


「どーなんだろ」


 私――姫花――は一限目の授業を受けるとき、いつも開始15分前から席に座っている。とはいえ、予習するほど優等生でもなく、友人が来るまでなんとなくスマホを眺めているのが恒例だ。

 今日はなんとなくスマホを眺めるのでなく、なんとなく短冊に願いを書いていた。それを吊るし終わったとき、ちょうどに親友の星子せいこがやってきて、今に至る。


「まぁ、しょうもないお願いだよ」


「ホントに?」


「ほんと」


「なのに、『人にいったら叶わないんじゃないか』とか考える、と」


「……いじわる」


 実際のところ書いた内容は結構大事で。

 でも、別に願うほどのことじゃないような気もする。

 そんな願いだった。


「――願いと呪いは紙一重」


「え?」


「例えばさ、受験で合格しますようにって願うのは、私以外が一人落ちますようにってことでしょ?」


「まあ、確かに……?」


「その辺が、人に願いを言わないほうが良いってルーツなのかもねぇ」


「……私のお願いは呪い的な面はないよ」


「じゃあ、教えて大丈夫だね。はいどーぞ」


 星子は手をマイクに見立てて私の口元に向けた。


「……当てたら教えてあげる」


「斬新なクイズだ……。当てれたら教えてもらう意味ないんだけども」


 星子とは高校からの仲である。


「……ヒントは?」


「ヒントはあげません」


「当てられたくないってことか。恥ずかしいお願いかな……」


「ちょ、勝手に人の発言をヒントに使わないで」


 恥ずかしいお願いというのはちょっと当たっている。


「う~ん、体型関連かな?」


「……え、なんか思い当たる節あるの? ショック」


「やべ」


「はい、回答権没収」


「あちゃー」


「じゃ、私、先に教室行ってるから。なんか星子も書いてけば?」




 私の願いは、『今後も今と変わらず星子と仲良くできますように』だった。

 言うのは恥ずかしい。でも本当にそれを願っている。

 書くほど心配かと言うとそんなことは全然なくて。


 というか、星子はどうなんだろうか。性格は私と比べると明るい気がする。私より友達多そう。星子にとって私はどういう立ち位置なんだろう。「私は何番目の友達?」って聞くのは流石にない。というか一番でいる必要はないような。……でも一番でいたい気もする。

 あと奴は顔は良い。なんかこっそりモテてそう。……彼氏はいない……と思う。

 でもいつか彼氏とかできたら、なんか時間とかなくなるんじゃないかなぁとか。実は今の段階で、もう彼氏がいて、それでこの感じなら特に問題ないことにはなるけど。でも、なんかもやもやするような。


 よくわかんない感情についてあんまり踏み込みたくない。考えたくない。

 考えだしたら自分が嫌になりそうな気がする。


 ――願いと呪いは紙一重


 呪いの一面はないと星子に言ったけれど本当にそうだろうか。


「ふぅ」


 教室につくと、適当な席に座った。それから、星子が座るであろう場所に荷物を置き、一つ席を確保した。


 ◆


 星子は姫花が歩いていく背中を見届け、何も書かれていない短冊に手を伸ばし、すらすらと願いを書き吊るした。


「叶いますように」


 小さくつぶやいてから、星子は姫花の後を追うようにして教室へ向かった。


『姫花に彼氏ができませんように』

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