005 鐘の音は告げる
エゼクの趣味は夜の散歩だった。
夜は、月と星だけが見ている世界。誰もエゼクのことを気にも掛けない。
そんな思いから、夜の散歩を趣味にするようになっていた。
それは、偶然だった。
いつもの散歩コースを外れて、公園の方に歩いて行ったのは、ただの気まぐれだった。
公園の芝生に座って、空を見上げる。
満天の星がキラキラと頭上を飾っていた。
星を見ながら、兄と義姉の事を考える。
最初は、痛んだ胸はもう、ほとんど傷まなくなってきていた。
そんな事を考えていると、小さなクシャミの音が聞こえたのだ。
誰もいないと思って油断していたエゼクは、緊張した面持ちで周囲を見回していた。
視界の端に、もぞもぞと動く布の塊が目に入ったエゼクは、普段なら無視をするところを、何故かその布の塊に興味を持ったのだ。
「おい、何をしている」
静かな声でそう布に声を掛けた。
すると、一瞬布の塊がビクッとした動きをした後に、布の中から一人の少年が顔を出していた。
暗がりで分かりにくかったが、明るい場所で見ればきっと、チョコレート色の髪と赤みがかった大きな瞳をしていたことが分かっただろう。
少年は、気まずそうにエゼクに言ったのだ。
「いつもは、この時間に人は来ないから……。驚いてしまって……」
か細い声でそう言われたエゼクだったが、それどころではなかった。
夜も遅い時間だというのに、周囲には大音量の鐘の音がどこからともなく鳴り響いたのだ。
リンゴーン。リンゴーン。
混乱からエゼクは、目の前にいる少年になんの脈絡のない事を聞いていた。
「き、君の名前は?俺は、エゼク。エゼク・トードリアだ」
突然の問に、目を何度もパチパチとさせていた少年だったが、困ったようにではあったが答えていた。
「わ、私は……、ローグトリアム……、です……」
戸惑いつつも名前を教えてくれた事を思いの外嬉しく思ったエゼクは、続けて問いかけていた。
「俺は、月や星を見ながら散歩をしていた。ローグトリアムはここで何を?」
エゼクの問いかけに、表情をパッを明るくさせたローグトリアムは言ったのだ。
「エゼクさんは星とか月が好きなんですか?私も好きなんです!!私、毎日ここで空を見ているんです!!」
エゼクは、ローグトリアムの口から出た「好き」と言う言葉に動揺していた。
(俺は何を?まさか……、しかし、この胸の高鳴りは……)
そして、エゼクは鐘の音意味を理解して苦悩することとなる。
(俺は、ローグトリアムを好きになってしまったのか……?)
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