第11話 牢屋の中にて
渡辺ドラゴンはラッセルとシェルに連れられて石造りの建物の中に入った。
建物は自衛団の駐在なのか複数名の武装した若者が居た。そして挨拶もそこそこに地下へと向かった。
地下牢は澱み湿度が高くとてもじゃないが過ごしやすいとは言えない場所だった。無論地下のため窓も無く換気がうまくいっていないのか糞尿の臭いもする。
「さぁ着いたぞ。」
ラッセルは独房の鍵を開けると渡辺ドラゴンを中へと誘導した。
あと残り48秒。
まずい…まずいまずいまずい!
早くどっか行ってくれ!見つかる訳にはいかないんだ!
渡辺ドラゴンの心中は「1人になりたい!」ただその1つだった。
「ここの食事は朝は6時。夜は19時の2食だ。用を足す時は……」
「分かった!分かったから!早く1人にしてくれ!」
渡辺ドラゴンは食い気味にラッセルに凄んだ。
「お、おう。分かったよ。じゃあな?疑いが晴れたら呼びに来てやる。まぁ明日まではかかるだろうがそれまで大人しくしてろよ?」
「わ、分かったから!早く出てってくれ!」
「はいはい……分かったよ。じゃあな?」
あと2秒……
カツカツカツカツ……
グォーーーーーー!と唸りそうなフレアドラゴンと一瞬なるがすぐさま……
「変幻!」
渡辺は人になった。衣服は破れた。予備を持ってきていて正解だ。牢屋に入れられる前に手荷物検査をされたが衣服と金貨しか無かったため問題なく牢屋に持ち込んであるのだ。ギリギリセーフだった。
しかし………僕は完全に忘れていたことがあった。
「……あんちゃん。ドラゴンなん?」
やべ……早速誰かにバレてしまったようだ。
「誰だ!」
声がする方を向くと薄汚い服を纏った中年のガリガリな男性が胡座をかいて向かいの独房に入れられていたのだった。あまりの存在感の無さに声をかけられるまでその存在に気づかなかったのだ。
「誰やって?……わしは小悪党のサッチちゅうもんでっさ。んで?質問の答えを聞いてへんねんけど?答えれん事かいな?」
「……そうだ。でも人間でもある。」
「はぁ?意味わからんやん?あんちゃんドラゴンなんやろ?人ってどういう意味なん?」
「前世が人なんだよ。記憶も全て残ってる。だから人でもあるんだ。」
「……へぇ。人間がドラゴンに転生することってあるんやなぁ?でぇ?ここにはなんで入れられたんや?」
「見た目からして怪しいって言われてな。ただそれだけだ。」
「…そうか……よっしゃ!んなら一緒に脱走せぇへんか?そしたらわしも今見た事は墓場まで持っていくさかいに。どや?ええ提案やろ?」
「脱走……でもさっき約束したしな……」
「約束~?あんな口約束破ったらええやん?ドラゴンだったらこんな村一瞬で滅ぼせるやろー?攻撃してきたらやり返したったらええねん。先にやった方が悪いんやからな。」
「ま、まぁそうかもしれないが……でも俺は人と関わりたいと思ってこの村に来たんだ。危害を与えるためじゃない。」
「ふぅん。まぁええけど。でももしな?あんちゃんがこの提案蹴るんやったら…さっき見た事ついつい口が滑っちまうかも知れへんで?それでもええん?」
「ああ……それは仕方の無いことだ。その時はその時だ。」
「ちっ……おもんねぇな。」
──次の瞬間
カツカツカツカツ……
ラッセルともシェルとも違う兵士が現れた。
「ワタナベと言ったか?出ていいぞ。」
どういう事だ?明日までかかるって言われたが……まぁでも出られるならそれでいいか。
「分かった。」
渡辺は立ち上がる。兵士はガチャガチャと鍵を開けようとするも中々開かないようだ。
「埒が明かねぇ。フン!」
兵士は鍵を殴りつけ破壊した。
えっ!?鍵って壊していいの?
「ああ。ここの鍵はな?少しぼろになってたんだ。壊したのはそのせいだ。気にすんじゃねぇ。じゃあ出るぞ。」
僕は促されるまま牢屋から出る。
後ろからサッチの声が聞こえた気がしたが気の所為だろう。
地下牢から出るとすぐさま石造りの建物からも出る。決していい思い出ではないのだ。
「ようやく自由か……」
天を仰ぎ僕はぼそっと呟いた。
そして僕はここで意識を手放す事となった。
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