第10話 渡辺捕まる

村へ走り抜ける渡辺ドラゴン。変幻自在が解けるまであと残り8分と短い為全力で走った。それが悪手だった。


先程の戦闘で分かるように渡辺ドラゴンが全力で走ると音速に近い速度が出てしまう。


音速──それは人が決して到達し得ない速度。戦闘機じゃないんだから当たり前である。


ブォーーーーーーっと走り抜けた渡辺ドラゴンはそのまま村の入口前まで走った。


「ひぃぃ……」


村の入口にいた見張りは驚きのあまり尻もちをつき悲鳴にも似た声を漏らす。


「あの……」


「ひぃぃ!!!!」


見た目10代後半位の皮の鎧を着た青年は臀で後退りカサカサと村の中に入っていってしまった。


──まずい。これはまずいぞ?このままでは前の街の時の二の舞になるんじゃ……?


「ちょっとお邪魔しますね~…」


僕は恐る恐る村へと入った。


「うわぁぁぁぁ!出た!アイツだ!化物だ!!!」


「はっはっは。シェル?あの人のどこが化物なんだ?人間じゃないか?まぁあまり見たことのある人種じゃなさそうだが……」


「ラ、ラ、ラ、ラッセル!人は見た目で判断してはダメって言うじゃないか!あ、あ、あれは化物だ!さっき遠くの方で戦ってる冒険者がいるなーと見ていたんだ!だが…奴はコチラに飛んできたゴブリンジェネラルを瞬殺し、なおかつ物凄い速度で走ってたんだって!信じてよぉ……」


「ん?そんな嘘くせぇ話信じられるかよぉ。まぁシェルが嘘つくたぁ思えないが……じゃああの人見てみろよ?悪そうな奴に見えるか?俺らの話を聞いてすっげぇバツの悪そうな顔してんじゃねぇかよ。まぁここは俺を立てて様子見でいいんじゃねぇか?」


「…分かったよ……。こ、こ、ここ、こここ、こんにちは……ナルカメの村へよ、よ、よよ、よよようこそ。」


吃音症なのか?吃りすぎだろ……


「こんにちは。僕は旅をしている渡辺と申します。早速で申し訳ないのですが……少し疲れたので宿を取りたいのですが……どこかご存知ですか?」


うん。練習した通りちゃんと言えた。冒険者と言わなかったのはこの異世界がまだどのような現状にあるか分からないからだ。よくあるギルド何てものが無いのかも知れないのだ。旅してる事を咎められることは無いと踏んだのだ。


「旅ぃ~?……うーむ……シェルの言う通り変な奴かも知れねぇな。俺の名はラッセル。ここでは自衛団のリーダーしているもんだ。おめぇさんの目的は何だ?」


「やだなぁ……目的……」


やっべぇぇぇぇ!何も考えて無かったよ!目的って何!?異世界転生してドラゴンだから人と仲良くしてみたいとか?そんな理由言えるか!ほらこうしてる間にもラッセルとシェルが疑いの眼差しを……ええぃ!なるがままよ!


「目的は……生活のため王都で冒険者になろうかと思ってるんですよ。」


「「へぇ~」」


めっちゃ嘘くさそうな目で見てくる2人。


「その……冒険者ってなんなんだ?旅人と何が違うんだ?」


やっべぇ!!!冒険者無いパターンかよぉ!!!こりゃまずったな……


「やだなぁ………ギルドですよ。王都にあるでしょ?」


「……まぁあるっちゃあるが……。」


「ね?ラッセルさん。コイツ怪しいでしょ?」


「そうだな……シェル……地下牢へお連れしろ。」


「……えっ!?や、ヤダ!それはダメです!」


「おめぇさんの疑いが晴れたら直ぐにでも出してやるから大人しくついてきな?悪いようにはしねぇから。」


「い、いや……ダメなんです……僕牢屋はちょっと……」


「牢屋って言っても他の囚人も今は1人しかいねぇ。独房は1人で使えるし飯も出るぞ?約束は出来ねぇがなんも無けりゃあ明日には出してやるからよ?」


「……わ、分かりました。」


渡辺ドラゴンは肩をガックリと落とし、ラッセルに連れられて地下牢へ向かったのだった。


──変幻自在が解けるまであと2分。

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