第9話 ゴブリン戦
あれから僕は変幻自在をひたすら特訓した。それこそ血のにじむ特訓だったはずだ。
デブになってみたり…ガリガリになってみたり…豊満な女性に…華奢な女性…美しい女…途中からはやたらと女性が多かった気がするがそこは気にしたらダメだ。
そして僕は遂に……遂に……10分間連続変幻に成功したのだ。
これでようやく人前に出られるぞ。10分経つと一瞬元に戻っちゃうけどそれさえ誤魔化す事が出来るなら問題なく人の街で過ごせるのだ。
渡辺ドラゴンはちょっと悪いなーとは思いつつも街1番の大きな御屋敷に入り込みお金と思われる金貨と衣服を数枚拝借した。
「いつか返しにくるから。ごめんね。」
なんて言っているが一生返す事は無い。口約束なんて忘れてなんぼだ。
まずは金の価値すら分からないのだから仕方がないじゃないか。このまま他の人の街に入ってしまっては飲み食いや宿への宿泊さえ断られるだろう。なんせ素っ裸だったのだ。変幻自在とはいえ衣服を着た状態にできる訳じゃない。生物を真似ると言うスキルのようだ。
よっし!じゃ次の街行くか!
僕は【翔べ】と念じ飛行した。そして宛もなく空を彷徨う。
「あ!あそこがいいかな?」
近くに街と呼ぶには少し小さい村のような集落があった。
飛行している状態で村に入るのは警戒されるだろうと飛行は数キロ手前で止め、徒歩にて村へ向かった。
ギャギャギャ!ギャーギャー!ギャ!
すると即座にゴブリンの群れに遭遇してしまった。村の周囲には何もいなかったはずなのに……おかしいな?
ゴブリンは緑の体躯とうす汚いボロの服を纏い、木でできた棍棒を重そうに持っていた。総数にして五体。まぁ雑魚そうだし初めての魔物としては良さそうだ。
これでも元日本人だ。平和な国から来たのだ。喧嘩や暴力と無縁の生活だった僕は魔物との戦闘に少しだが危惧していた。今までは昆虫や動物と言った人型ではないものとの戦闘だった。人型を殺すことに躊躇が無い訳では無いのだ。
なんか1匹少し目立つやつがいるな?アイツからやっつけるか。
それは5匹の中でも飛び抜けて体躯が大きく筋骨隆々。頭には角が生え棍棒の色も少し違う。ゴブリンの上位種なのだろう。
「よっし!かかってこい!」
ギャギャギャー!
4匹のゴブリンは同時に棍棒を振り回しこちらに向かってくる。
「うっわ!あっぶねぇ!」
渡辺ドラゴンはバックステップで何とか躱す。しかし後ろからこっそり迫ってくるデカいゴブリンの存在を忘れていた。少し蒼みがかかった棍棒を頭に向かってフルスイング。
ぱかーーーん!
渡辺ドラゴンの頭部に見事命中。
しかし……目の前のゴブリンは有り得ないと言う顔をする。
ギャギャギャ!ギャーーー!
4体のゴブリンは距離をとって警戒を始める。
後ろにいた上位種ゴブリンは僕の頭部に当たり粉々になってしまった手を2度見3度見している。
そして状況を把握したのか地面に平伏した。
ギャーーー!ギャギャ!
必死に懇願しているようだが僕言葉分かんないからなぁ。
「許してくれ……って事なのかな?でもいきなり後頭部殴られたし……やり返してもいいよね?」
ふぅ……
平伏しているゴブリンの服を左手で引き上げ無理やり立たせた。
フルフルと頭を横に振り半泣きのゴブリン上位種。
しかしやられたらやり返す。これが喧嘩の鉄則だ。
僕は掴んだ左手を離し右手中指でデコピンをお見舞してやる。
ベシャ!
僕の中指はゴブリンの頭部の半分付近まで指がめり込み、その後1回跳ねると勢いは止まることなく村の方までゴロゴロゴロゴロ転がって行った。
あ。まずい。街を壊しちゃう!
僕は咄嗟に地面を踏み込み上位種ゴブリンに向かって走った。全力で走った僕の横には土埃が巻き起こっていた。
よし!追いついたぞ!村の方に被害が出てはいけないと思った僕はその場でゴブリンを下に殴りつけた。
ベキャ!ベギャ!ドゴン!
骨が砕け地面が陥没する音が聞こえたが何とか村には被害が及ばなかった。
ふぅ……危なかったぜ。また村の人達が逃げ出すのは何とか避けたい。
よし。さっきのゴブリンの討伐開始だ。
振り返りゴブリン達を見るとこっそり逃げようとしているのが見えた。
ふふふ……逃がさないよ?
僕はまた地面を踏み込むと一足飛びでゴブリン達の元へ。
ギャーーーーーーギャーーーーー!
ゴブリンは悲鳴にも似た声をあげ半狂乱で逃げ出す。え?僕って魔物から逃げ出されるくらいやばい人なの?
渡辺ドラゴンは目の前で起こっているその事実を受け入れることが出来ずポカーンと立ち尽くしてしまった。
ゴブリンは全力で逃げたらしくハッと正気に戻った時にはもういなかった。
「ちぇ。戦闘経験したかったのにな……」
ここまでものの1分少々。まだ変幻自在が解けるまでには8分以上ある。渡辺ドラゴンは村へ向かって急いで走るのだった。
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