第3話 初めての飛行は災難でした。

岩山の頂きから飛んだ僕は風になった──

なんて僕が言うと思いますか?落下してますね。これ確実に地面に落下して死にますよね。僕がどんなに足掻いて翼を動かしても飛べません。ただ空気抵抗によって翼がビチビチ僕の顔に当たります。本当に最悪です。生まれてすぐ死ぬんです。神様の嘘つき!ハメ放題、無双し放題なんて全くのデタラメ!嘘じゃないですか!


地面がどんどん僕の視界いっぱいに広がってきます。どんどんどんどん……あと10m……あと5m……もうじき地面です。


くっそ……飛べよ!翔べ!翔ぶんだ!


僕は必死で頭で空を翔ぶ事をイメージしました。すると。


ブゥン………ブゥン………


えっ!?……浮いてる?


僕は地面に着く寸前、僕の体は浮いていました。翔んでいたのです。しかし翼は動いていません。どうやらこれはお飾りの様でした。動かして飛ぶのではなくて念じて翔ぶ事が正しかったようです。ああ。良かったです。なんとか生後1日で死亡しなかったのですから。


しかし一難去ってまた一難ですね。これはまずいです。目の前には僕の数倍はある巨大な虫がいます。これ僕食べられちゃうんじゃ?虫の巨大な口が開き汚い液体が糸を引いて僕を誘います。いや。僕はそんな液体に魅力は感じませんよ。えいっ。って口の中へ飛んだら楽になるのでしょうが僕は死にましぇんよ!逃げるのです。翼で方向転換し咄嗟に翔べるように念じました。するとどうでしょう。僕の体は虫の舌に巻き付かれ体内に入っていくではありませんか。ああ……残念です。ここまでですか。やはり僕は生後1日で死ぬのですね。


しかし僕は翔べと念じたことをすっかりこっきり忘れていました。舌に絡め取られた僕の体が解放された瞬間です。僕は翔びました。虫の体の中を翔んだのです。その虫の体をいとも簡単に突き破ってです。そして僕は思いました。そっか。僕は子供だけど最強種との呼び声も高いはずのドラゴンの血を引いているのだと。そしてその鱗はあらゆる攻撃を防ぎ、最強の剣の素材になるに足るのだと。だから僕は思ったのです。


もしかしたら僕は本当に無双するだけの力を手に入れてしまったのではないかと。


しかし人生なかなか上手く行きません。ん?人生でいいんですかね?龍生ですか?まぁこの際どっちでもいいですね。辺りを見渡します。うん。何もいません。先程倒した虫が無惨に転がっていますがあんなのを食べるくらいなら死にたいです。いえ。嘘です。食べなきゃ死ぬなら試しますか。嫌々ですが。めっちゃ嫌ですが。死ぬほど嫌なのですが。食べなきゃ死にますかね?先程からお腹がぐぅぐぅ鳴って止まりません。仕方ありませんね。食べます。食べればいいんでしょう?


僕は諦めてその虫を食べることにしました。虫はよく見るとコガネムシと呼ばれる品種ですね。緑色が特徴的でとてもじゃないですが食べられそうもありません。乳白色の体液もエグいです。啜りたくありません。嫌だ。と言っても体は欲するようでいつの間にやら口で虫の肉をくちゃくちゃと咀嚼していました。


ん?意外と美味い……のか?


意外な事にそのコガネムシ風の巨大な虫は美味しいのです。味としてはそうですね。ココナッツカレーですね。フルーティなのです。不思議です。しかし食べれると分かったならば食べるしかありません。生きるためですから。肉や魚などわがままを言っていては生きていけぬのです。僕は死にたくありません。生き延びてやるのです。


そして岩山生活1週間が過ぎた時またもや事件です。

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