王との謁見 1

ここは王城の中の謁見の間。真竜との対決に勝ったタクミと被害を最小限に抑えることが出来た功労者としてヴェルデやカーリー、フラムそしてクロちゃんが招かれていた。タクミ達は片膝を付き頭を垂れ、礼の姿勢を取っていた。しかしそのいつものメンバー以外に、タクミの後ろに腕を組、仁王立ちの少女が居た。


ヒソ、ヒソ、ガヤ、ガヤ


この謁見の間には、タクミ達以外にも多くの貴族が集められていたが、普段の謁見とは様相が違う事にざわついている。それはそうだろう。謁見の間で貴族でもない者が頭を垂れずに立っている事など今まで無かったからだ。しかもそれを咎める者が一人もいないというのも拍車をかけていた。貴族達はその異様な空気の元凶たる少女を見つめ色々と話しているのだろう。

その少女は、真っ青な色をした短めの髪に金色の大きな瞳を輝かせ真正面を見据えていた。歳の頃は12、3才くらいにしか見えないが、その立つ姿勢と雰囲気は、この場にいる全ての者より堂々としており、威厳に満ち溢れていた。

それは、正面の中央に儲けられた玉座に座る、大柄というより肥満で大きく見える、ゴルエド・シルフィテリア王よりもだった。


「王の御前である! そこの者! 頭を下げよ!」


王の横に立つ、長身で細身の男が堂々と立っている少女に向かって怒鳴るつける。しかし少女は何くわぬ顔で動こうとはしなかった。


「トルエ、やっぱり頭を下げて礼をとるのは無理かな?」


僕は、立っている少女に呟き促すが、トルエはそれでも動こうとしない。そう、この子こそ僕の奥さんの一人と確認したトルエだった。あの後、意識を戻した真竜に対してルーナ達が警戒するので、僕がお願いすると少女の姿に変身し敵意が無いことを宣告したのだった。


「無理じゃ! 人に頭を下げる皇帝真竜なぞおるものか! あ! ターちゃんは別じゃぞ!」


実は、トルエ、真竜の中でも希少種で多くの竜の頂点に立つ皇帝真竜という種族のしかもそれらまとめる長の娘だという事が解ったのだ。つまり人など遠く及ばない神聖なる竜であり、人やその他の亜人族の間でも言い伝えとして、この皇帝真竜に関わった種族は確実に滅亡すると言われ伝えられている伝説級の竜だったのだ。

それをクドエルド王子に化けていた、悪鬼によって捕らえられ呪縛され、いいように使われたのだ。この場にいる者でこの国は終わったと悲観している者も少なくは無いようだ。


「良い、大臣。お前の忠誠心は褒めてやりたいが、こと、ここに至っては国を滅ぼす一言になりかねん事、解って言っておるのか?」


「い、いえ! で、出過ぎたました! 申し訳ありません!」


大臣は顔を青ざめさせ王に深くお辞儀をする。


「さて、タクミ・カーヴェル、もう一度確認するが、そのカイザー(皇帝真竜)様は本当にその力を行使されないのだな?」


王は何処か弱々しく覇気の無い声でタクミに確認してきた。


「はい、シルフィテリア王よ。この皇帝真竜のトルエは私の言葉を聞き入れてもらい、では力を行使しないと約束していただいております。」


「ふん、現時点ではの。」


王は少し考え込む振りで視線を下に落とし、暫く時間を置き、顔を再びタクミに向けた。


「解った。では信用いたそう。それから皆の者、全員顔を上げるが良い」


王の号令の元、一応に頭を垂れていた皆が顔を上げ王のと対面する。


「それでは、タクミ、本題に入るが良いか?」

「はい」


僕は王の投げ掛けに短く答、肯定する。


「まず、今回この対戦を主催した我が子、セレイド皇太子、カルルド王子、クドエルド王子は、カイザー様を利用しこの王都を破壊しようとした事は事実であるか?」


「・・・・はい、事実で御座います」

「おお、なんと!」

「そのような事が」

「いやあの王子共なら」


僕の一言で謁見の間に立ち会う貴族から様々呟きが聞こえだした。その中には王に使える貴族の言葉とは思えないようなものまであった。


「ただし、実際は鬼族、特に悪鬼と呼ばれる者が クドエルド王子にとりつき、他二人の王子を操っていたと思われます」


王は目をつぶってじっとタクミの言葉を聞いている。


「では、王子達は自分たちの意思ではなく、その悪鬼とやらに無理矢理操られ今回の騒動を起こしたという事か?」

「その当たりは、私も専門分野ではありませんし、お答え出来かねます」

「ふむ、では魔術省のローエン長官に聞く。そなたはどう思う?」


王に投げ掛けられたローエン魔術省長官は、ビクッと身体を奮わせ、冷や汗をかきながら一歩前へ進み出した。


「は、はい、その、ですね、なんと申しますか・・・・」

「ハッキリとしろ! 今回の件で申し出た事に関して罰則をすることは無い! 真実のみを申せ!」


王は、はっきりしない長官の声を一括する。タクミは今まで聞いていた王のイメージより、かなり落ち着きのあるそんなにボンクラ王ではないと感じていた。


「は、はい! では率直に申し上げますと、悪鬼という者がどれ程の力を有しているかわかりませんが、基本人の心を完全に操る事は不可能と思われます」

「それはどういう根拠でそう申すか?」

「はい、古き言い伝えやパデュロス神教の教典等に書かれているものに、数千年前、神と邪神との世界二分戦争がありその時、神の軍勢に加勢していた人族を邪神が取り込もうと強力な呪縛術を使用したそうです。しかし神に忠誠を近い強い意思で邪神に立ち向かう心を持っていた人族の心を操る事は出来なかったとされています」


「つまり、どういうことだ?」

「はい、つまりどんな強力な力を用いいても、その相手の心が強い信念を持っている以上強制的な支配は出来ないという事です」

「では、我が三人の子は、心が弱く、巣くう悪しき心を狙われまんまと乗っ取られたと云う事か」

「・・・・残念ながら、」


魔術省長官の言葉を聞き、最初の頃よりも余計に落ち込んでいるように見えた。


「甘やかし過ぎたのか。その結果が一度に三人に子を失うことになろうとは」


王は頭を抱えうなだれる。良い王でなかった事は周りの人の話を聞けば解る。父親としても育て方を間違えた駄目な父親だろう。でも人の子を持つ親として、出来が悪くても一度に三人とも居なくなってしまった事に相当ショックを受けているようだ。


「王様、お伝えしたい事が御座いますので進言お許し頂けますでしょうか?」


僕はそんな王だけど、少し可哀相だと思いはじめていた。


「ああ、構わんよ」

「それでは、まずクドエルド様については、悪鬼そのものが取付いておりましたので、ご存命かどうかは断言できません」

「な!なんともうすか、このガキが! クドエルド王子が亡くなられているとでもぬかすのか!」


王の横に立ち最初にタクミに強い言葉を言ってきた大臣がまた大声でタクミを叱責し始めた。


「大臣! 黙れ! わしが許したのだ!そなたが横槍を入れるでない!!」

「くっ・・・・・・・も、申し訳ありません」


大臣唇を噛み締め歯痒さを押し殺し後ろへと下がる。


「それで、何を言うのか続きを言え」

「はい、ただしクドエルド様以外のお二人はただ連れていかれただけでしたので、まだ充分に存命の可能性があります」

「!!!!!」


王は、今までうなだれていた姿勢から変わり、前のめりになってタクミの言葉を聞き入った。

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